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イタズラは、するよりもされたい

「・・・・・・で、とりあえず二人分の宿代だ。これで二部屋頼む」


 なんとか自身を落ち着かせ馬鹿二人の戯れもひと段落してやっとのことで宿泊を申し出た頃には日はすっかり沈み夜の帳が下りていた。


「あら、二部屋なのぉ?」


「そ、そんな!アンナ!早まるんじゃない!こんな愛らしい若いツバメの身体を貪るチャンスを逃してはいけない!」


「誰が貪るかぁ!お前みたいな怪しいガキと同じ部屋で眠れるか!」


「怪しさも男の魅力のひとつさ」


「口の減らないクソガキが!」


「はいはい、そこまでよぉ。残念だけど今日は一部屋しか空いてないのよ。でも二人部屋だから問題ないわよね」


「なっ!?ならコイツは置いていくから私は別の宿にいく!」


「それもどうかしらねぇ、私たちがこうやってふざけてたせいで大分時間も経っちゃったしどこもいっぱいじゃないかしら?」


「そんなこと!・・・・・・あるのか・・・・・・大遠征のお触れが出てたもんな・・・・・・」


「大遠征?」


「そうよぉ、近々この辺境から南の魔境へ大遠征があるから冒険者の数が増えてるのよぉ」


「なるほどね、じゃあやっぱりアンナは僕と一緒に熱い夜を過ごすしかないんだな。いや、ここはミューラさんも一緒に三人で楽しみましょう!さあ!僕にイケないイタズラを!さあ!」


 鼻息も荒く興奮するケン。ミューラは満更でもない様子で頬に手を添えくねくねと微笑んでいる。アンナは絶望した。


 しかし、アンナとて朝からファルーガの森へ赴き、飛竜という一種の災害に出くわした上にケンをおぶってやっと街に帰ってきたのだ。いくら冒険者といっても疲労はかなりのもの、できれば温かいベッドで眠りたい。今から別の宿を探したところで見つかる保証もない。アンナは渋々といった様子で了承した。


「はぁ、仕方ない。一緒に部屋で我慢してやるが妙なことはするなよ!」


「なにをおっしゃいますか、僕は妙なマネをしてほしい派なんだよ」


「なら安心しろ。私にその気はない」


「おねぇさんはがんばっちゃうわよぉ」


「お前は絶対部屋に入ってくるなよ!」


 「「それは残念」」


 二人の声が揃った。


「というかお前はミューラに何か聞きたいことがあるんだろ?」


「そうだった、すっかり忘れてた」


「じゃあ、その話はご飯の後にしましょう。二人ともお腹空いてるでしょう?」


 ミューラに促され二人は建物の一階にある食堂に身を移した。どうやら酒類の提供もしてるようで数組の宿泊客が夕食と晩酌を楽しんでいた。


「じゃあ今用意するから少し待っていてねぇ、ナディちゃーん、二人分の夕食おねがぁい」


「ナディちゃん?」


「ああ、ミューラの妹で姉妹二人でこの宿屋を切り盛りしてるんだ。ナディは姉と違ってまともだがな」


 妹のナディは厨房いるようでその姿を見ることはできない。


 そうこうしてるとミューラが夕食を運んできた。


「はぁい、お待たせぇ、今日の献立は新鮮なミルクをたっぷり使ったホワイトシチューよぉ」


「ミルク!?まさかそのミルクとは・・・・・・」


「そのま・さ・かよぉ。今日は量が多かったから大変だったわぁ」


 ある一点を見つめて尋ねたケンにミューラは自らの双丘を撫でつけながら悩ましげな声を吐息交じりに吐いた。それを耳にした他の宿泊客達がざわついたが、それも一瞬のことですぐに平常に戻った。きっとミューラのこのような言動はいつもの事なのだろう。それでも一瞬反応してしまうのは彼女の容姿を考えれば仕方のないことなのだろう。ちなみにアンナに至ってはもう気にしないことにしたらしく一貫して無反応であった。


 夕食を終えたふたりはミューラと共にカウンターの奥にある彼女ら姉妹が過ごす部屋に移動した。


「で、治癒魔術の事がききたいのよねぇ?」


「そうそう、魔術って属性が合ってイメージできたら発動するじゃん」


「そうねぇ、簡単にいうとそんな感じねぇ」


「普通はやり方がわかっても簡単にはできないんだけどな」


「まあ、それは置いといて、それで治癒魔術ってどんなイメージをするのかって事とどんな事ができるかってのが聞きたいんだよね」


 ミューラは人差し指を顎に当て、首を僅かに傾けながら考えた。


「うーん、私は女神様に傷を塞いでくださいってお願いする感じかしら。あと治癒魔術ってそんななんでも治しちゃうような万能なものじゃなくて、魔術が目に見える箇所にしか発動しないっていう特性上とりあえず傷を塞ぐってことくらいしかできないのよねぇ。当然病気なんかも治せないしねぇ」


「ふーん、完璧に傷が治るわけじゃないのか。それでも傷が塞がるってのは便利なんだろうけど」


「なんでも教会の大司教クラスになると完璧に傷を治すこともできるって聞いたことがあるぞ」


 すかさずアンナが補足してくれる。


「なるほどね、でも治癒属性って光属性とは違うんだよね?なんか女神にお願いするんなら光属性って感じがするんだけど」


「女神様は光だとか闇だとか、それら全ての属性を生み出したとされる存在だからな。だから治癒属性というのは特殊属性以上に持っているものが極端に少ないんだ。」


 意外と詳しいアンナ。才能がないから魔術は諦めたといっていたが、そこに至るまでに相当の勉強をしたことがうかがえる。


「そういや属性ってどうやったらわかるの?僕の場合とりあえず火魔法使えたから火属性はあるんだろうけど」


「何度も言うがとりあえずで使えるものじゃないんだからな」


 呆れるアンナをよそにミューラは、それならと棚から何やら水晶玉のようなものを取り出した。


「ケンちゃん、これに手をかざして火をイメージしながら魔力を流してみて」


「はいよー、そーれ」


 ケンが魔力を流すと水晶玉が弱く赤い光を放つ。


「じゃあ次は水をイメージしてぇ」


「合点承知の助」


 今度は青く発光する。


「ケンちゃんすごいわねぇ、二属性持ちだなんて。せっかくだから一応全部見ときましょうか」


 その後は風、土、雷、氷、光、闇、治癒と試していく。それら全てが弱いながらもそれぞれの属性に対応した光を放った。


「おかしい子供だとは思ったがまさこここまでとは」


「全属性持ちって伝説にある女神様の使徒みたいねぇ・・・・・・」


 多少なりともケンの異常性を知っていたアンナも流石に全属性持ちというのには驚きを隠せない。ミューラも笑ってはいるが冷汗が頬を伝って戦慄した様子だ。


「あれ?これで全部?確か時空ってのがあるんじゃなかったっけ?」


 そう言うや否やケンは時空をイメージして魔力を流そうとした。


「そういや時空って何をイメージすればいいんだ?」


 時空、時空と何度か呟いたのちに何か閃いたのか訝しむ二人をよそに水晶玉に魔力を流した。すると水晶玉は鈍色の光を放った。ケンがイメージしたのは前世のSFアニメでみたワープシーン。


「お、いけるもんだな。意外と属性ってやつもいい加減なんだな」


 伝説に登場する使徒と同じ全属性、それだけでなく未知の属性をも持つ少年に、二人の女はただ呆然とすることしかできなかった。







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