ご褒美スメル
「なるほどね、そんでそのコルト王国南の辺境にあるのがメルカの街ってわけか」
「そうだな、そして魔物討伐の最前線でもある」
街道を歩きながらケンはアンナにいくつかの質問をしていた。今向かっているメルカの街のことや街が所属する国のこと、更には通貨や文明の発展具合に至るまで。アンナはそれらの質問に丁寧に答えてくれたが、同時に呆れてもいた。
「お前、喋り方からして頭は悪くなさそうなのに随分と世間知らずなんだな」
「別の世界から来たからねー」
「頭は悪くはないけど、頭がおかしいってとこか」
「はっはっは、そんなことよりアンナって魔術に詳しかったりする?」
「魔術か。昔、知り合いに少し教えてもらったんだがな、どうも才能が無いらしく今じゃもっぱらコレ専門だ」
アンナは腰に下げてある剣をガチャリと鳴らし続けた。
「あの時、飛竜を倒したのはやっぱり魔術なんだろ?どうやったのかは知らんがその年で魔術が使えるとはムカつくガキだが大したもんだ」
「まあ、この本読んで書いてある通りにやってみたらできたんだよね」
「どれどれ、『変態でもわかる魔術教本』・・・・・・。ふざけたタイトルだな!」
「内容はわかりやすかったよ」
「ふん、こんな本を読んだだけで魔術が使えたら世の中魔術師だらけになってしまうな」
「ふーん、魔術ってそんな難しいものなのか。で、誰か治癒魔術に詳しい人がいたら紹介してほしいんだけど?」
「治癒魔術か、それだったらさっき言った知り合いが治癒属性持ちだぞ」
「お、ナイスじゃん。その人に紹介してよ。ちょっと聞きたいことがあってさ」
「あー、あいつはなー、うーん、まあ、お前なら大丈夫か」
「なにか問題でもあるの?」
「いや、問題があるっちゃあるんだが、お前なら別にいいかなって」
「やだ、そんなに僕のこと信頼してくれるなんて、これはもう愛だね」
「うるさい!そんなことよりもほら、見えてきたぞ。あれがメルカだ」
ちょうどさしかかった小高い丘から地平線に目を凝らすと、そこには朧げにだが城壁のようなものが見えた。この距離から見るにかなりの高さがありそうだ。
城塞都市メルカ、南の辺境に位置する人類生活圏の最南端。この街の北にあるファルーガの森から続くこの街道は比較的安全だが、常に魔物の脅威にさらされる辺境にあるだけあってその造りは堅牢だ。現に道中、数回ほど魔物と遭遇しているが全てアンナの剣の錆になっていた。
「うわぁ、見えたはいいけどまだまだ遠いじゃん」
「なに、日暮れまでには着くさ」
「うへぇ、ねえアンナーおんぶー」
「断る!」
「そんなこと言わずにさー、だって僕とアンナじゃ歩幅が全然違うからアンナのスピードに合わせるのって結構大変なんだよ」
身長百二十センチ程の身体では女性にしては高めの身長のアンナと当然だが歩くスピードが違う。ましてや子供の体、体力も相応のものになっており実際ケンはかなり疲れていた。
「そ、それは確かにそうかもしれないが・・・・・・。はぁ、もういい、乗れ・・・・・・」
ここで歩くペースを落としてしまえば街の閉門時間に間に合わなくなってしまうかもしれない。それに飛竜を倒したといっても見た目が子供であるのは間違いない。しばし逡巡した後ケンの前で屈んだ。なんだかんだ面倒見のいい女である。
「さっすがアンナさん!」
「あっコラ!そんなに顔をうずめるな!」
「はぁはぁ、この汗で皮鎧が蒸れた臭いがまたなんとも・・・・・・」
「お・り・ろ!!」
「やだなぁ、何恥ずかしがってんの?僕こういうの大丈夫だから!むしろご褒美だから!」
「変態小僧がぁああっっ!!」
「はっはっはー」
相も変わらず楽しそうな二人であった。