尻を撫でるには便利な身長
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はケン。ある時は森の精、またある時は愛の奴隷。しかしてその実態は・・・・・・、いやあ、それにしてもデカいトカゲだったね」
ケンは朗らかに笑いながら彼女に語りかけた。彼女はまだ混乱しているのか、ケンの意味不明な自己紹介をスルーして言葉を返した。
「あ、あぁ、あれはトカゲじゃなくて飛竜って言うんだ。それで、その、あれはやっぱりお前がやったのか?」
「ん?ああ、トカゲが死んじゃったことかい?」
「だからトカゲじゃなくて、いや、もういいや。で、あれはやっぱり、死んでるのか」
「脳みそをこんがり焼いてやったからね。たぶん死んでると思うよ」
「の、脳を焼いただって!?いったいどうやったらそんな事・・・・・・」
「僕はちょっと特殊な能力を持っていてね。透視っていって物体を透けて見ることができるのさ。魔術は目に見える場所になら使えるって本に書いてあったからあのトカゲの頭の中を直接焼いてみたんだ」
魔術は目視できる場所にしか発動できない。それは言い換えれば目視さえできればどこにでも発動できるということだ。ケンは飛竜の頭蓋の中を透視し、火魔法で脳に直接ダメージを与えたのだ。いくらケンの魔術が数センチの火を出すのがやっとでも、直接脳を焼かれればいくら飛竜とはいえただでは済まない。結果、強大な魔物である飛竜は外傷もなく息絶えた。
「・・・・・・?透けて?直接?それは一体・・・・・・」
「そんなことよりそろそろお姉さんの名前を教えてほしいな」
詳しく話したところで理解できるとも素直に信じるとも思わなかったので、ケンは早々に話を切り替えた。
「あ、ああ、そうか、まだ名乗ってなかったな。私の名はアンナ、冒険者だ。それよりケン、と言ったか、何度も聞くがお前は一体何者なんだ?本当に精霊なのか?」
「その精霊?ってのがよくわからないけど、僕は人間さ、ところでお姉さん、冒険者ってことはどこか街から来たのかい?」
さりげなくさっきから一人称を僕に変えてあざとく少年を演じ、さっき程までの無駄に高かったテンションを誤魔化すようにまた話題を変えるケン。
「そうだな、私はメルカの街から依頼を受けてこの森にきてたんだ」
「よかったらそのメルカって街まで案内してよ。僕としては急にこんな場所に連れてこられて困っているんだ」
「うーん、まあお前のおかげで助かったのは事実だし、お前のことと飛竜のこともギルドに報告したいから案内するのは構わないんだが、その、なんだ、何か着るものとか持っていないのか?」
どれだけ森で気を失っていたかはわからないが、考えてみれば女神のところに居たときから裸だったケン。さすがに裸の少年を連れまわす気にはなれないのか、アンナは少し気恥ずかしそうに訪ねた。
「あー、服ね。確か女神の手紙には服もあるって書いてあったよな。ちょっと待っててね」
ケンは少しキョロキョロと辺りを探し、先の飛竜の襲撃で吹っ飛んでいたアイテムポーチを見つけ、服を取り出した。いそいそと服を着ているとたまらずアンナが口を開いた。
「おい、ちょっと待て。なんだそれは?なんでそんな小さいポーチから服一式が出てくるんだ?」
「ん?これ?これは女神から貰ったやつ。ほら、中がこうやって暗くなっててさ、生き物以外ならどんな大きさの物でも入れられるんだってさ」
ポーチの口を開けてアンナに見せてみる。
「うわぁ、ホントに真っ暗だ。なんかちょっと気持ち悪いな」
もはや警戒心など皆無なアンナだった。
「というかさっきから女神、女神と言っているがお前、女神様と何か関係あるのか?」
「関係あるっていうか、僕って前世で死んだんだけどさ、さっき言った不思議な能力を持ってて、そのまんま死ぬのは
勿体無いからこの世界でもう一回生きろって、生き返してもらった。そんで気付いたらこの森にいたってわけ」
「は?死んだ?生き返る?・・・・・・また訳の分かんないことを・・・・・・」
アンナがそう漏らすのも無理はないだろう。しかしケンにとっては事実であると同時に、ぶっちゃけどうでもいいと思っていたことなので一応本当の事を言ってみただけである。
「いや、まあ信じられないのはわかるけどね。それよりも早く街に行こうよ」
「その前にあの飛竜どうするんだ?素材とかそのままでいいのか?」
「素材?僕は別にいいよ。よくわからんし。欲しいんだったら勝手に持っていけばいいんじゃない?」
「いいんじゃない?ってお前が倒したんだからあれはお前の獲物だろ?」
「えぇ、要らねー。だってあんなもん持っていってどうすんのさ」
「どうするって、そりゃ武器の素材にしたり売ったりとか、飛竜なんて正直一匹でひと財産だぞ」
「つってもなー。それって僕みたいな可愛い子供が持っていって素直に買い取ってくれるわけ?」
「あ、それもそうだな。可愛いかどうかは置いといてこんな子供が飛竜の素材なんか持っていったら怪しすぎるな」
「でしょ?だから僕が持っててもしょうがないんだって」
「でもなぁ、そうは言ってもなぁ。あ、そうだ。そのポーチってどんな大きさの物でも入れられるって言ってたな。ならその飛竜って入るか?」
「どうだろ?死体ならいけんのかね?どれどれ・・・・・・お、いけたいけた」
「よし、ならそのままギルドまで運んで報告がてらに判断を任せよう」
「まあ、それならそれでいいけど」
「じゃあ、そういうわけでそろそろいこうか。にしても、まともに喋ることもできるんだね。私はてっきり狂った子供かと思ってたよ」
「僕って人見知りが激しくてさ、初対面の人間にはとりあえず全力のテンションを見せることにしてるんだ」
「それって人見知りっていうのかね?」
「さあ?それよりさ、さっき僕に着るものはないのか?って聞いてきたとき妙に恥ずかしがってたけどさ、何あれ?僕みたいないたいけな少年の裸で照れちゃったの?」
「う、うるさいっ!誰がいたいけな少年だ! 生き返っただとか女神様がどうだとか言って、お前、絶対普通の子供じゃないだろ!」
「あ、ばれた?実は三十越えてるナイスミドルなんだ」
「また、いい加減なことを・・・・・・もういい、お前の話をまともに聞くのはやめる」
「そんな悲しいこと言うなよ、かわいこ娘ちゃん。一緒にトカゲをやっつけた仲じゃないか」
「誰がかわい娘ちゃんだっ!それに飛竜を倒したのはお前で私は何もやってない!」
「そんなことないさ。君は言ってくれたじゃないか、「バカッ!早く逃げろ!そして私の胸に飛び込んで!」って」
「言ってないわ!!くそぅ、大人を馬鹿にしやがって!」
「はっはっは、照れるな照れるな」
「もう黙れっ!! そしてさりげなく尻を触るな!!」
そうやって二人は割と楽しそうにメルカの街へと歩いていった。