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森林伐採は計画的に

 木々が鬱蒼と生い茂る森の中、生まれたままの姿で倒れていた少年が目を覚ました。少年の名はケン、異能を持つがゆえにその生涯を閉ざした哀れな男の成れの果てだ。


「・・・・・・おぉ、マンモスがゾウさんになってる」


 かつての雄々しさを失い、そこに鎮座しているのは愛くるしささえ感じるつるりとした長鼻の王。少年は自身の体の変化を確かめると現状の把握に移った。


「・・・・・・森か。俺の森はなくなってしまったが、嘆くことはない。これも必要なことでは自らが望んだこと。なに、あと、数年もすれば裏側からひょっこり生えてくるさ。・・・・・・さて、とりあえずどうするか」


 ケンがあたりを見渡すと先ほどまで倒れていた傍らに何やらポーチと手紙が落ちているではないか。ケンは何事かと先ずは手紙に手を伸ばした。


「どれどれ・・・・・・」


『貴方がこの手紙を読んでいるということは無事に辿り着いたようね。この手紙と一緒にポーチがあるはずなんだけど、それはアイテムポーチっていう、見た目では考えられないほどの容量を持つすごいポーチなのよ。使い方は簡単で収納したいって念じれば容量さえ空いてれば生物以外のどんな大きさの物でも入るし、逆に出したいときは手を突っ込めば中に入ってる物の情報が頭に入ってくるから、それを取り出したいって念じれば取り出せるからね。一応、中には食料とか服とかが適当に入れてあるから自分で確認してちょうだい。あ、あと魔術教本も入れてあるから勉強しときなさい。というわけで後は勝手に頑張って生きてちょうだい。ちなみに言葉は通じるように調整しといたから感謝しなさいよ。


 PSここまで距離感が掴めない相手はあんたが初めてだったわ。もう女神の威厳とかガタガタよ!透視能力の制限、覚悟しとくといいわ。ふっふっふ』


 神より賜った聖なる書簡、それは神代に存在したといわれる伝説のアーティファクトの使用方法が記されたものだった。また、ポーチの中に入っている物はどれもある程度大きい街でなら買えるものばかりであったが、それでも八歳の少年が持つには不釣り合いなに高価な物であるのは言うまでもない。


「ふむ、これはこれは。どうやらあの初心な女神さまのお慈悲のようだな。どれ、手始めに魔術教本とやらを読んでみますかね」


 魔術、体内の魔力を消費し理想を現実に変える超常の(わざ)。基本属性の火、風、水、土があり、特殊属性に雷、氷、光、闇、治癒、空間等がある。この属性が自身が持つ属性と一致しなければ魔術は行使できない。また発動範囲は目視できる範囲である。


「ふっ、俺は魔力も魔法もない世界で透視能力を手に入れた男だぜ?この程度、できらいでか!まずは体内にある魔力を感知しなくてはな!集中集中!ぅうおおぉお!」


魔術はその性質上イメージ力が重要になってくる。理想を現実に、現実を覆すほどの思い込みの力、確固たる精神力が体内魔力と結びつき発動する。かつて朝加健だったこの少年、妄想に次ぐ妄想、リビドーに由来するイメージ力、誰に何を言われても何一つ気にしない強靭な精神力、これらは独力で透視能力を獲得してしまうほどの折り紙付きである。さて、では体内魔力の方はどうだろうか。イメージ力と並んで魔術を行使するために必要なもう一つの重要なファクター。どんなに強固にイメージしてもそれを現実に顕現させる為にはそれなりの体内魔力が必要である。もし、これが少なければ効果、範囲共にその魔力量に比例する。


「感じたぜ!これが魔力! 出でよ! 全てを焼き尽くす地獄の業火よ! 我が魔力を糧に顕現せよ!」


高らかに掲げた右手から魔力が放出される。イメージと結合した魔力はその性質を変え、確かな熱量をもって炎となる。


二センチ程の炎となったのだ。


そう、彼は体内魔力が、極端に低かった。


しかし、彼はそんな事、微塵も気にしない。全てが己に都合よく変換される脳を持つ彼は自身が出した炎を見て昂っていた。


先ほどから突き刺さる視線にも気づかずに。


「おお、やっぱやればできるもんだな。それにしても火を見てるとなんだか興奮してくるな。やはり、火とは古来より人間の性的興奮を高める効果が」


「・・・・・・君、こんな森の中で何してるの?しかも裸で・・・・・・」


「ぬ?」


そこには女がいた。燃えるような赤い髪を後ろで一本に縛り、髪と同じ色の眼をした美しい女が。


「やあやあやあ、このような場所で奇遇ですね、お嬢さん。見た通り僕はちょいと魔術の練習をしていましてね」


「一人で?」


「御覧の通り」


「裸で?」


「人間、産まれたときはみな裸、窮屈な服なんか着てしまったら心まで窮屈になってしまう。さあ、あなたも一緒に心と体を解放しましょう! 今が自然へと帰る時なのです!」


「・・・・・・私は、遠慮しとくよ」


「それは残念、しかし僕には貴女の全てを視れる素敵な能力があるのさ!」


「・・・・・・何を言っているんだ?」


「そーれ、透視発動!」


「とうし?それは一体?」


「・・・・・・・・・・・・ば、バカなッ!」


「・・・・・・?」


「そんな事って!そんなのあんまりだッ!!ッは!?そうか!!女神!!貴様かぁあ!!」


「子供の狂人なのか?」


「・・・・・・んで・・・・・・なん・・・・・・で」


「お、おい、大丈夫か?」


賢明な読者諸君なら既にわかっているだろう。そう、あの時の女神の言葉を。


【透視能力に制限】


少年は慟哭した。この世の全てを呪い、神に絶望し叫んだ。


「なんでモザイクかかってんだぁあああぁぁああぁああぁあぁああ!!!!!!!!」












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