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スケープゴート候補

 飛龍襲来の翌日、ケンはひとりで再びギルドへ訪れていた。アンナは着いていこうか?と持ち前の面倒見の良さを発揮していたが、場所も覚えたし少し話をするだけだからと尻を撫でながら断った。ギルドへ赴く理由はギルドマスターから飛竜の素材を譲ってほしいとの事らしい。ギルドは昨日の余韻か、酔いつぶれたものや未だどんちゃん騒ぎをしている者も多かった。しかしケンがギルドへ入るとピタリと静まりその視線をケンへと集中させた。


「あれが飛竜落としだろ?」

「そうさ、俺はこの目で見たぜ。あの小僧が手をかざす度に飛竜がバッタバッタと落ちていくんだ」

「でもあんな子供だぜ?」

「馬鹿言うな。見た目通りの年齢かどうかなんてわかりゃしないぜ」

「そういやギルマスってなんであいつのことを兄貴って余分だろうな」

「知るか!俺は信じねぇぞ。あんなガキが飛竜を八匹も倒したなんて!」

「お、おい!」


 制止する声も聞かずに大男がいきり立った様子でケンに向かっていく。ケンは大男に気づいたのか足を止めて顔を向けていた。


「やあ、随分と怖い顔をしてるじゃないか」


「さっそく大物気取りか?ガキ。他の奴らはお前が飛竜を倒しただなんだと言っているがよ。誰かの手柄を盗ったんなら早いうちに謝ったほうがいいぜ?」


「そうかい。じゃあその手柄は君にあげようじゃないか」


「そもそも俺は本当に昨日のが飛竜だったのかも疑って……ん?」「すまねえ!こいつは今日街に来たばかり……え?」


「いいから着いてきなよ。俺からおっさんに言ってやるから」


 大男とそれを制止していた男が同時に間抜けな声を発した。ケンは早くしろと言わんばかりに歩きながら続ける。


「ほら行こうよ。そこのお兄さんも仲間かい?だったら一緒に着いてきなよ」


 ふたりは顔を見合わせ、さっさと二階に上がってしまったケンを追いかけた。


「おい!さっきのはどういう意味だよ!」


「やめろって!戻ろうぜ!なあ、飛竜落とし、もう勘弁してやってくれよ。こいつにはよく言っておくからさ」


「うるさいなー、別にどうもしないって。……おっさーん、いるかー?入るぞー」


 いつの間にか執務室の前まで来ていたケンはてらいもなく扉を開け中に入る。


「おっさん来たぞ。あとこいつらなんだけどさ……」


「おぉぉおい!……なんでもありませんのでお気になさらずに!なあ!?」


「そ、そうでありますです!まったくなんでもござりませんです!はい!」


 徐ろにケンがギルドマスターに自分たちの話をし始めると二人は慌ててケンの言を遮り、普段使ってないのがまるわかりな敬語の出来損ないで誤魔化した。


「兄貴、なんなんですかこいつらは?」


「うん、なんかね、俺が飛竜のをやっつけたってのが嘘だと思ったらしくてさ。そんでその手柄が俺のものになってるのが気に食わないみたい」


「なんですと?……おいおまえら、それは本当か?」


 しかしケンに限って見知らぬ他人の心情を慮るなんてことはせず、気にせず告げた。ギルドマスターはそれを聞き、低くドスの利いた声でふたりに尋ねた。


「い、いえ!自分はこの男を止めに来ただけであります!」


 迷いなく友人を売る男。


「な!?い、いや俺はただ昨日この街にいなかったんで、噂は本当なのかなぁって思ったりしましてですね……」


 売られた大男はなんとか取り繕うとしたが殺気すら纏ったギルドマスターの視線にだんだんと尻すぼんでいったが、すかさずケンが助け舟を出す。


「違うんだよ、おっさん。別にそれでどうこうしようってんじゃなくてさ。面倒くさいからこいつらに手柄あげちゃおうかなって思ってさ」


 ケンとしてはなにやら領主に会うかもしれないやら飛竜落としとして名を馳せてしまうやら、とにかく面倒くさい事後処理を任せたいだけだった。いわば出した船はケンにとっては泥船なのだ。


「……は?」


 案の定、間抜けな声を出すギルドマスターだったがケンは止まらない。めんどくさいんだ!と至極自分勝手な理由を添えて訴えた。


「いや、しかしですね。もう街の方でも随分噂になってしまってますし・・・・・・」


 じろりと男達を一睨みしてため息交じりに告げる。


「それにそやつらじゃいくらなんでも、誰も納得しないでしょうな。実際あの現場にいた冒険者達にはわかっていることですし、というかお前も昨日あの場にいただろ?」


 男はコクコクと頭を上下させた。大男の方は今更ながらえ?もしかして本当にこのガキが飛竜を倒したの?と遅まきながらに自らの行いを悔いていた。


「あー、それもそうか。はぁ、ダメかぁ。いい生贄が見つかったと思ったんだけどなぁ」


 生贄、その一言にギルドマスターを含めた三人は苦笑いをするしかなかった。


「まあ、いいか。しょうがないもんな。なるようになるさ。あんたら、悪かったな、期待させるようなこと言って」


 ケセラセラ、それが俺の生き様さ、と諦めながらケンは自分が連れてきた二人に謝った。


「い、いや、そんな。俺はただこの馬鹿を止めに来ただけだし・・・・・・」


「・・・・・・その、なんか悪かったな。まさかお前みたいなガk、子供が本当に飛竜を倒したなんて信じられなくてよ・・・・・・」


 ケンのマイペースさにすっかり毒気を抜かれてしまった大男も素直に謝った。とりあえず一段落着いたかなとギルドマスターは本題を切り出す。


「あーそれで兄貴、素材のことなんですけどね」


「素材か。そうだ、あんたらお詫びに飛竜の素材をいくつか持っていきなよ」


 「「「は?」」」


 三人の心は一つになった。


「持ってけって飛竜のをか!?」


「そうだよ?どうせいっぱいあるんだから好きなの持っていきなよ。いいだろおっさん?」


「そ、そもそもが兄貴の物ですからね。ギルドとしては買い取らせてもらえないかって話なんで、そこに否やはないですけども・・・・・・本当にそいつらに渡すんですか?」


「いいのいいの、どうせ俺が持ってたって使わないんだし、あ、アンナとミューラ、それとアインスだっけ?そいつらに渡す分が残れば好きにしていいよ」


「その三人にも渡すんですか?」


「だってあいつらも色々と動いてたからなぁ。アインスなんて第一発見者なんだからそれなりのもん貰わないといけないだろ?アンナはおぶってくれたりしたし。そもそも冒険者なんだから何かとそう言う素材があった方がいいんだろ?」


「そりゃ飛竜は最高級の素材ですからね。あれを欲しがらない冒険者はいませんよ。でも、ミューラにもですか?彼女はあまり何かしたという印象はありませんでしたが・・・・・・」


「馬鹿野郎!!ミューラはおっぱい要員として立派に任務を勤め上げただろうが!!」


「ッ!?そ、そうでした・・・・・・儂としたことが、そんなことにも気付かないとは・・・・・・ッ!」



「わかればいいんだ。・・・・・・それに最高級の素材っていうんだからいい金になるんだろ?宿屋なんてやってんだ、資金が多いに越したことはないしな」


「まあ、全員に渡したところで残りの素材で兄貴が手にする売却金は相当な額でしょうしね。じゃあ、話もまとまったのでソルトのところに行きましょうか。量が量ですからね、見積もりを出すのにも二、三日はかかるかもしれませんな」


「のんびりやってくれて構わないよ。そうだ、おっさんがその金上手く使ってくれよ。ギルド運営も大変なんだろ?街の運営にも関わってるっていうし」


「いや、しかしそれじゃあ兄貴の報酬が・・・・・・」


「別に他のところで便宜を図ってくれたらいいよ。金が必要になったらおっさんに請求書回すし」


「兄貴がそれでいいんなら、儂としても助かりますが・・・・・・」


話しながら解体室に向かうケンとギルドマスターだったが、大分早い段階で話に取り残された二人の男は呆然と立ち尽くしていた。


「俺が金持ったって碌なことに使わないからさ・・・・・・って、おい!何やってんだ!?お前らも自分が欲しい部分をソルトに伝えなきゃいけないだろ!ほら行くぞ!」


「「・・・・・・は、はい!」」


小走りでかけていく二人、どうやらまたケンの周りに愉快な仲間が増えそうだ。



お読み頂いてありがとうございます。ブクマ&評価感謝感激です。これからもよろしくお願いします。

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