あっさり終わる絶望
「ふーん、これが遠見の魔道具ねぇ。・・・・・・普通の望遠鏡じゃん」
カトレアに連れられたアインスが遠見の魔道具をケンに見せていた。
「・・・・・・おい、魔道具を貸すのはいいがこんな子供が本当に飛竜を倒せるのか?」
「・・・・・・私も信じられませんが、それでも、少しでも望みがあるのならば試してみるべきではと思いまして」
「それなら安心していい。こいつはふざけたガキだが実際、飛竜を一瞬で倒している」
「そうねぇ、今なら解体室にケンちゃんが倒したっていう飛竜の死体があるわよぉ?」
「そんなことよりも今は時間がない。兄貴!お願いできますか?」
「ん?ちょっとまって・・・・・・よし。一応魔道具越しでも透視はできるな。うん、それじゃあやろうか」
腑に落ちない顔の若干二名を抱え、ケン達はギルドから外に出た。
「これは、酷いな・・・・・・」
アンナがそう漏らすのも無理はない。魔物が跋扈するこの辺境の地、冒険者の数も多く住民もたくましいメルカ、街は混乱の極致にあった。飛竜の群れというのはそれほどまでの絶望なのだ。
「で、どうする?」
「そうですな、本来なら城壁の上などの高い場所で待ち構えるのがいいのでしょうが、今は時間がない。幸いこの街の周囲は草原地帯なので地上からでも問題なく飛竜を確認できるでしょう」
ギルドマスターがケンのザックリとした質問に丁寧に答える。
「とりあえず急ぐぞ!乗れ!ケン!」
「飛竜は東門の方角から来るはずだ!行くぞ!」
アンナが屈みケンをおぶるとアインスが場所を叫ぶ、一同は混乱する街を駆け抜ける。
「おい、・・・・・・あいつら、あのギルマスト一緒にいる奴ら飛竜を倒すんだってよ」
「はぁ!?馬鹿言ってんじゃねえ!飛竜相手に何ができるってんだ!!いいからお前も逃げるんだよ!」
「・・・・・・もう無理さ。飛竜相手に逃げ切れるはずがねぇ」
混乱の中、一部の住民や冒険者は飛竜を倒そうと街を走るケン達を見て思った。どうしようもない絶望に抗う愚者だと。
東門の外に出るとそこには飛竜に立ち向かおうとする数名の冒険者達がいた。勝てるとは思っていないのだろう。彼らの顔は決死の覚悟を表すように強張っていた。遮るものがないこの平原の先には既に飛竜の姿が確認できる。それでも、自分たちは立ち向かうのだと、俺たちは魔物を倒す辺境の冒険者なのだと、震えそうな身体を矜持で押さえつけ具現化した絶望を睨んでいた。
「おい!何をしている!?少しでも遠くへ逃げろ!」
ケン達に気付いた冒険者が声を荒げると他の冒険者達も視線を向ける。
「って、ギルドマスター!?なんであんたがここに?それに女子供を連れて・・・・・・」
「儂らの事は気にするな。・・・・・・うぬぅ、既に大分近いな。兄貴、いけますか?」
「うん、よく視える。これならいけそうだ」
死地、今からこの場所は死地となる。だのに、この男はそんな場所に女子供を連れてきて何やらその子供にやらせようというのだ。ひどくのんびりとした様子で何か筒のようなものを覗く少年。冒険者達は何が何だか理解できなかった。
「じゃあ、やるよー。そーれ」
ケンが遠見の魔道具を覗いたまま片手を飛竜の方へ向けて呟くと、瞬く間に一匹の飛竜が落ちた。落ちた飛竜はもう起き上がる様子はない。
「問題ないみたいだね。それじゃ続けていくよー」
次々に落ちていく飛竜。同族が落ちるのを警戒したのか、それとも怒りなのか、残った数匹の飛竜は凄まじい咆哮を上げた。それは距離があるというのに腹の底から恐怖が湧き出てくるかのような恐ろしいものだった。しかし、そんなものは関係ないとばかりにケンが手を向けるたびに飛竜は落ちていく。
時間にすると数十秒の出来事だった。実にあっさりと絶望は地に落ちた。
冒険者達はこの少年が何かをしたのだと、あの恐ろしい飛竜に何かをしたのだと、それだけはわかったが、それだけしかわからなかった。
いや、もうひとつだけわかったことがあるではないか。それはじわりと滲むように溢れ、やがて実感となり歓声へと変わる。自分たちは、生き残ったのだと。
歓声は冒険者達から人々へ伝播していき街全体に広がる。飛竜は倒されたと街全体に広まる。
その日、この辺境の地では、生を噛み締める歓びの声がいつまでも空に響いていた。
飛竜さんにはもうちょっと頑張って頂きたかった。こんなにあっさりとやられちゃったら文字数の取れ高が・・・・・・。え?それは僕の技量の問題だって?知ってるよ!