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彼が持つ鍵

 冒険者アインスは困惑していた。




 その日、パーティー名『万里の眼』、彼らはロックバード討伐依頼を受けてその依頼場所である村に来ていた。


 ロックバードとは体が岩でできた鳥で肉食のため人や家畜等を狙う獰猛な魔物だ。このロックバード、体長一メートル程の岩の体にも関わらず空を飛び、空中から獲物を襲撃する。頭上から襲われるというのは非常に厄介で、飛行能力を持つ魔物にはいち早くその存在を認識することが重要であると言われている。


 その点、この万里の眼というパーティーは非常に優れていた。パーティーリーダーであるアインスが持つ遠見の魔道具のおかげで、遠く離れた場所でもまるですぐ近くのように見え、この手の依頼を得意としていた。


 この筒型の魔道具、中々の優れもので本体が伸縮可能な二段式になっており、一段目と二段目を回転させることにより視える距離を調節できるのだ。


 そんな魔道具を村の見張り台から空に向け、やっとロックバードの姿を空に確認していた時、それはやってきた。


 遥か遠く、目視できない程の距離にロックバードを見つけたとき、何かがものすごいスピードでロックバードのすぐそばを横切った。


 いや、あれは横切ったのではない。捕食されたのだ。ロックバードの数倍の大きさの何かに一瞬にして喰われたのだ。


 一体何に?


 すぐに魔道具で追いその姿を確認する。あれは・・・・・・


「飛竜だ!!」


 さらに、絶望の数はひとつでは無かった。八匹・・・・・・絶望は群れてやってくる。一切の希望を断つために。


 アインスは見張り台から飛び降りてあらん限りの大声を上げた。



「逃げろぉおお!!!飛竜の群れだぞぉおお!!!全員すぐにでも逃げるんだぁああ!!!!」


 アインスのあまりの剣幕にそれが真実なのだと長年組んでいるパーティーメンバーは察し、集まってきた。アインスは捲し立てる様に告げた。


「飛竜の数は八匹、進路はこのままいくとこの村の上空を通りメルカの街の方。お前たちは村人を避難させてほしい。森に入れば姿は見えなくなるから気づかれずにやり過ごせるはずだ。俺は村長に事情を話し、馬を借りてメルカに知らせる」


 パーティーメンバーは渋い顔をした。それはアインスがひとり馬で逃げると思ったからではない。

 この村からメルカの街までは途中に規模の小さい森や林はあるが殆どが草原地帯だ。遮るものが何もない草原で万が一飛竜に追いつかれてしまったら助かる術はないだろう。仮に無事に辿り着けたとしてもメルカのような巨大な街を飛竜が見過ごすとは思わない。家や家畜は襲われるかもしれないが、ここに残って村人と森へ隠れていればやり過ごせる可能性が高いのだ。


「それでも、誰かがメルカに知らせなければいけない。それなら俺が行く。それに飛竜を見つけたのは俺だしな」


 アインスは断ち切るように告げると村長の家へ向かった。


 村長は半信半疑だったが馬を貸すことと住民の避難を受け入れた。アインスは馬に飛び乗りメルカへと急いだ。



 なんとか飛竜に追いつかれずメルカの城門前まで来たアインス、途中で確認したところ、あのスピードならこちらに到達するまで一時間も掛からないだろう。下手すると三十分ほどかもしれない。アインスは後で処罰されることを覚悟で馬に乗ったまま門を駆け抜けた。


「生き残れたらな・・・・・・」


 そう呟きながら。



 ギルドに着いたアインスは馬から飛び降りて中へ駆け込み叫んだ。


「飛竜の群れがこちらの向かってきている!!すぐに対応を!!」


 突然現れ、あり得ないことを叫ぶ男にギルドは一瞬静まり返った。


 この男は何を言っているんだ?飛竜は自分の住処から出ることはない、それが群れでやってくるだって?そんなことあり得ない。仮にもしそうだったとしたら、それはもうどうにもならない事じゃないか。だからそんな事は信じない。やがて冒険者達はただの狂人の戯言だと、ある者は罵声を浴びせ、ある者は哀れみの目を向けた。


 それは職員も同じだったが、ただ一人、そうではない者がいた。先刻、ケン達をギルドマスターのもとへ案内した受付嬢カトレアだ。あの時アンナの一言が頭をよぎったのだ。


『事が飛竜に関することでもか?』


 あの時はアポもなしにギルドマスターへ会いに来た常識知らずの戯言だと思っていた。剰え自分とギルドマスターの関係を盾に脅してきた連中だ。しかし、しばらく執務室で話していたかと思うと彼女らはギルドマスターと共に解体室へと向かった。それも妙に親しげに。アンナは知っている。ギルドマスターが卑劣な脅しには屈しない男だということを。ならなぜ?なぜ彼はあんなにも打ち解けていたのだろうか?それらの情報がカトレアの心中に、もしや?と疑問を抱かせた。


 気がつくとカトレアはアインスへ近寄り詳しい話をきいた。自分が持つ遠見の魔道で偶然発見できた事、村の人達はパーティーメンバーに頼み森の中に隠れるように頼んだ事。


 すると何やら外が騒がしいことに気づく。ふたりは顔を見合わせ外に出た。


 すると街は既に混乱の渦にあった。飛び交う人々の声を聞いてみると旅の商人がメルカに来る際に飛竜をみたと騒いでいると言うではないか。


 カトレアは最早これは事実だと受け止め、早々にギルドマスターへ報告へ向かった。アインスは今一度ギルド内にいる冒険者達に協力を求めようとその後を追った。


 外の様子に気付き先程の件が嘘でないとわかり冒険者達はその顔を絶望に染めていた。このままではマズいと思いつつもアインスにはどうすることもできなかった。


 もっと自分に力があれば・・・・・・絶望を希望に変える程の力があれば・・・・・・


 アインスが己の無力さに打ちのめされていると何やら只ならぬ様子でカトレアが戻ってきた。彼女はアインスを見つけると足早に近づき口を開いた。


「アインスさん、あなたの遠見の魔道具を貸してください。それが、飛竜を倒す鍵になるかもしれません」


 飛竜を倒す鍵?この魔道具は珍しいものとはいえただ遠くを見るだけの物、それが・・・・・・なぜ?


 冒険者アインスは困惑していた。








今回はふざけられなかった・・・・・・ アインスめぇ・・・・・・!

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