脅威は不意に
「それで兄貴、飛竜のことなんですが」
「ん?ああ、出そうか?でも結構でかいぞ?」
「解体室で出してもらっていいですか?一階にあるので案内します」
一同は解体室へと向かった。解体室は一階にある受付カウンター脇にある搬入口の先にある。そこに至るまでには当然酒場スペースの横を歩くことになり、ギルドマスターが自ら案内する姿を見た冒険者たちはどよめいた。
「なんでギルマスが直接案内してるんだ!?」
「それにあんな子供にペコペコしてるぜ!?」
「おい、あの女すげぇいい女だな」
「あれは確か宿屋をやってるミューラってのだな」
「そのミューラってのもいいが俺はもうひとりの女も捨てがたい!」
解体室に着くころにはすっかり目立ってしまっていた。
「ギルドマスター、あなたはこの組織の長であり街の重鎮でもあるんだ。もう少し周りの目を考えたほうがいいんじゃないか?」
すっかり敬語じゃなくなっていたアンナだったが、一応は上役としての態度を保っていた。
「しかしですね、姐さん」
「誰が姐さんだ!」
それもすぐに崩れた。後ろからギルドマスターを蹴るが、鍛えられた肉体はビクともしない。
「いやだって、兄貴に諭されたのは確かですが、その身を持ってして儂に普通のおっぱいの素晴らしさを教えてくれたのは姐さんじゃないですか!」
ギルドマスターからしてみればアンナは絶望の淵から救ってくれた聖女のような存在になっていた。
「私にそんなつもりは無い!」
「いいじゃないアンナちゃん。年上のオジサマに慕われるっていうのも中々楽しそうで」
「そうですよ姐さん、流石にギルドマスターとしては贔屓できませんが、儂個人ならいくらでも使ってください!」
「だったら姐さんはやめろ!」
「そ、そこまで言うのなら・・・・・・じゃぁ、アンナさんとお呼びします」
「あ、あの・・・・・・ギルドマスター?そちらの方々は・・・・・・」
解体室にはいって少しすると声を掛けてきたものがいた。
「ああ、ソルトか。この方々は儂の客人だ。・・・・・・ちょうどいい、お前も立ち会え」
ケン達以外には威厳たっぷりなギルドマスターがソルトという男を紹介する。
「この男はソルトといいまして、この解体室のまとめ役みたいなやつですな」
「ど、どうもソルトといいます」
気の弱そうな細身の男。解体は力仕事だ、大型の魔物となれば皮を剥ぎ取るのにも並みの筋力では務まらない。とてもではないがこの男にそれができるとは思わなかった。そんな雰囲気を察したのかソルトはすかさず続けた。
「あ、僕は直接解体には携わらないんです。主に作業の指示と解体方法の研究が僕の仕事ですね」
「ふーん。で、ここで出せばいいのか?」
そんなことには興味がないとばかりにケンはソルトに指示を仰いだ。
「出す?何をだすんだい?」
ソルトはこの少年がギルドマスターの親類の子供か何かで、この場所にも見学させに連れてきたのかと思っていた。あの怖い顔をした自分の上司も子供には優しい面もあるんだなと、しかしそんな考えもこの少年が何やら腰に下げたポーチを開いた瞬間に驚愕に塗りつぶされた。
何が起こったのか分からなかった。ケンと実際に入れるところを見ていたアンナ以外はその顔を驚愕に染めていた。ミューらでさえも話には聞いてはいたが実際にこの非現実的な光景に目を見開いていた。
「こ、これは一体!?え?飛竜?なぜそんなものが急に?え?」
「た、確かに飛竜だな。兄貴のことは既に疑っていなかったが・・・・・・」
「そ、そうねぇ、飛竜ってだけでも凄いのにそれがあんな小さなポーチから出てくるんだものねぇ・・・・・・」
「これで信じてもらえたようだな。ギルドマスター、すぐにでもファルーガの森及び飛竜の調査をお願いしたい」
「すぐにでも儂の権限で高ランクの冒険者に依頼を出します。しかしこの飛竜、外傷が見当たらないですな。これをひとりでやったっていうんだからやっぱり兄貴は凄いお人だ」
「大したことなかったぞ?」
「それが異常だってことをいい加減お前もわかれ・・・・・・」
「それにしてもぉ、この人さっきからブツブツ呟いたままだけどこのままでいいのかしらぁ?」
なんの準備もなしにこの場に居合わせたソルトは未だに現状を受け入れられてなかった。
「おい!ソルト!しっかりせんか!」
「ッハ! あ、ギルドマスター・・・・・・。って!!なんなんですかコレぇええ!飛竜!?なんで!?あのポーチから!?なんなんですかぁあああの子供ぉおおおぉお」
「落ち着け!まずは一旦落ち着け!!」
ギルドマスターの喝によってなんとか正気を取り戻したソルト。簡単にだが経緯を説明し、何かこの飛竜の死体に変わったことがないか調べるように指示をした。
「外傷がないのは兄貴の魔術が理由として、やはりファルーガの森に飛竜が現れるというのは異常だ。現地の方は冒険者に任せるとして、お前にはこの飛竜を調べてもらいたい」
腐ってもギルドマスター、こうして部下に支持する姿は中々堂に入ったものであった。
「それはいいですけど、その兄貴ってあの子のことですよね?一体何者なんですか?」
「姐さん、いやアンナさんが言うには前世がどうとかって話があったが正直儂にもよくわからん。ただあの人は儂に大切なことを教えてくれた尊敬すべきお人。それだけは確かだ」
「は、はぁ」
「大変です!!ギルドマスター!!」
突然、さっき執務室まで案内してくれた受付嬢が血相を変えてやってきた。
「一体どうした?何をそんなに慌てて・・・・・・」
「飛竜の群れです!飛竜の群れがこの街に向かっていると!!」
「ッ!?飛竜だと!?こいつ以外にも山岳地帯から離れたやつがいたというのか!!」
「指示を!指示をお願いします!」
「わかった、まずは発見の経緯と飛竜の数は?」
「最初に発見したのは依頼で近くの村に行っていた冒険者パーティーです。その依頼というのがロックバードの討伐依頼だったので、遠見の魔道具を使い空を監視していたようです」
「それで飛竜を発見できたというわけか」
「はい、そしてすぐさま村の馬を借りてギルドへ報告しにきたようです。その報告によると飛竜の数は八匹。約三十分ほどで現れるとのことです。現在、街に滞在する冒険者の数は多いですが・・・・・・」
近々、大遠征があるということで冒険者たちはこの街に集まってはいるが、実力としては中堅程の者がほとんどだった。
「うむ、一匹二匹ならなんとかなったかもしれんが八匹はちと荷が重いか」
「それに街への被害は免れないでしょう」
「三十分じゃ住人の避難もできん、クソ!」
絶望的な状況にふたりが頭を悩ませているとアンナがケンに尋ねた。
「ケン、お前の力でなんとかならないのか?あの時も一瞬で飛竜を倒していたし」
「うーん、あの時は一匹だったし魔術を撃つ余裕があったからなぁ。八匹でしょ?魔術が使える位置まで近づかれたら二、三匹は倒せるだろうけどその間にやられちゃいそうだよね」
ケンは透視能力があっても別に視力まで良いわけではないのだ。飛竜を一撃で倒すには体内の重要器官を狙えばいいのだがそのためにはあまり距離があると狙えない。
「そうねぇ、ケンちゃんの能力的に遠くまでみれる方法があればいけそうなんだけどねぇ」
「・・・・・・遠くまで、みえれば、なんとかなるんですか?」
その会話を聞いていた受付嬢は真剣な表情でケンを見て尋ねた。
「うーん、それなら多分いけるんじゃないかな」
この小さな少年がなんとかできるかもしれない。にわかには信じ難いがそれでも少しでも可能性があるのならばと、彼女は切り出した。
「それなら・・・・・・方法はあります」
読んでいただきありがとうございます。ブクマ、評価して頂いた方々、大変嬉しく執筆の励みとなっております。まだまだ技量が足らず申し訳ありませんが、なにか改善点等、教えていただければこれ幸いにございます。
それでは、皆さんにお楽しみいただけるように努力する次第でございますので、これからもどうかよろしくお願い致します。