レクイエム
遠くからオルガンで奏でられたミサ曲が聞こえてきた。
レクイエムだ。
死者を悼み、その安息を願う曲だ。
窓枠に腰掛け、外の荒涼とした風景を綺麗な紫色の瞳で眺めていたショートカットの金髪の少女、ミヒャルデ=カッシーノはその美しくも悲しい音色に耳を傾けた。
唱歌のついていないメロディーだけの切ないキリエが城の中に響き渡る。憐れみを乞う賛歌は村の人々に悲しみを連れてくる。逃れられない運命を呪い、嘆く現実を連れてくる。
けれど人々にできるのは、ただ祈るだけ。死者を丁重に葬ることだけ。それ以外にできることはないのだ。
ミヒャルデは胸元にかかる大ぶりのロザリオを両手で握り締め、床に膝をついた。満月の夜、大きな大きな月が澄んだ光を部屋の中へと注いでいる。その中に影をつくるように膝立ちになり、瞳を閉じて祈りを捧げる。
死者を悼み、安寧を祈る。
レクイエムは鳴り止まない。
幾人もの村人が次々と病に倒れ、骸の山を築く。誰も止められない死のループが村に充満し、逃れられない。まるで呪いをかけられたように、死神が息を吹きかけていくように、人々の命の灯が消されていく。死の匂いが村のあちこちに立ち込めている。
世界は本当に終わるのだろうか。
既に村の人口は半数までに減っている。
このままでは早晩、村は全滅する。王族であるミヒャルデにとっても病の危険は変わりがない。住む場所はここにしかないのだ。はるか昔、戦争に負けて逃げてきてこの地に村を作った自分たちには、逃げ場はもうない。
救いはどこにもないのか。
瞳を開いたミヒャルデは立ち上がり再び大きな縦長の窓から外に視線を向けた。月光を受けた金髪がきらきらと光る。
とても綺麗な光だが、どこか禍々しさを感じさせる月だ。人間に慈悲を与えると同時に、狂気を与えるものでもある。特に満月の日は何かが起きやすい。
「御慈悲を……」
胸で十字を切った視線の先には土に刺さった、数え切れないほどの十字架。
視線の先にある、もう動かないはずの無数の土が密かに盛り上がり始める。
一つ、また一つとそのさざめきは伝播していく。
――生者の祈りを裏切るように、死者がその眠りから目覚める時が来る。