02
「ふう」
万葉にこの世と地獄との狭間を見せてやった後、ゆっくりと学校に向かっている。
今日は、とてもいい天気だ。
予報によれば、この天気は週末には崩れてしまうらしいが、まあ後のことなど気にしても仕方がない。
とりあえずは、今を全力で生きるのみだ。
いつ死ぬかも分らないこの世界では、そうする他ない。
……そんなアニメやマンガみたいなこと、誰も思わないんだろうな。
今は昼間。
太陽が天井へと鎮座し、全ての地上に等しく光を分け与え、見下ろしている。
世界は明るく、陰に生きる者たちにとっては、生き辛い時だった。
月は、まだ地平線の向こうにいるのか。
月は美しい。
満天の夜空もまた、すばらしい。
それに比べ、太陽のなんと無骨な事か。
全てを照らし、熱し、枯らし、焦がす。
その反面、育み、清め、温め、溶かす。
用は、両極端すぎるのだ、太陽というやつは。
まるで……。
まるで、あいつのようだと、そう思った。
慈悲と冷徹さをその身に抱え、苦悩の上にそのどちらをも使うことを選んだ、姉。……いや、師匠か。
彼女は、太陽のような女だった。
月に魅入られ、縛られた自分とは、まさに生きる世界そのものが異なる。
そう確信できるほどの太陽っぷりだといえた。
「生きてりゃ、もうじき誕生日か。たまには、墓……行ってやるかな」
そんな、普段なら思わないようなことを頭に浮かべながらすっかり人けのなくなった通学路を一人で歩く。
時間帯がずれた通学路という物は実に寂しい。
普段から慣れ親しんだ道だからこそ、その寂しさがやけに印象強かった。
今歩いているのはこれといって何もない、ごくごく平凡な片側1車線の寂れた市道である。
両脇には家屋と空地。
人はいない。いるとしたらそれは近くの家屋に住む人か、泥棒。もしくは
立ち止まり右手の鞄を背後へと抛り、腰の刀を抜きざまに自分も背後へと振り向き、そのまま渾身の力で刀を振り抜く。
『グアアアアアアアア!!』
そこには霧散する黒い影。……悪霊の類だろうか。
黒い影が消えた後には小さな女の子が一人。
なるほど。自我を失っていた九十九神だったか。
見た目からは何かの精霊であることぐらいしか分からない。
だが、自分には関係のないことだ。……構わず行こう。
もしくは、こんな普通なら見えないようなやつぐらいだろう。
刀を鞘に納め、鞄を拾い、またゆったりと学校へ歩を進める。確実に遅刻だ。……昼だし。
「あっ!! ま、待ってくださいっ!!」
背後の声には答えない。
これ以上世話をする奴の数を増やしてたまる物か。
「む、無視は良くないですっ!」
だが、無視する。
「ううう。酷い……。いたいけな少女を一人こんな場所に放置して。……はっ!もしかして、そういう性癖の持ち主……あいたっ!!」
しまった。我慢ならなかったために全力でチョップをかましてしまった。
……仕方ないか。
「おい」
「……ううう」
「……おい」
「痛い……」
「おいてくか」
「はいっ! ばっちりなんでしょう!」
「俺の言うことを聞くならついてきてもいい。……どうする?」
「え……。それはやっぱり裸のお付き合いを」
「じゃあな」
「ああ! 嘘です! 冗談です! 本音です!!」
「……どれなんだ……」
「……本音?」
「切るか」
「ごめんなさいっ! 服だけは切らないでくださいっ!! さすがに、裸は、恥ずかしいです……ぽっ」
「いいかげん、そのネタから離れることを進める。さもないと存在を消す」
カチリと鯉口を切る。
「お、大人げないです! こんなことで腹を立てるだなんて!」
「あいにく、法律上はまだ子供なんでな」
「そのくたびれた雰囲気で子供とは……プッ」
イラッ。
無言でまた前を向き足早に歩きだす。
あの少女はまだに笑っていて気付いてはいないようだ。
……バカめ。
そう、少しだけほくそ笑みながら再び学校へと向かうことにする。
余談だが、結構離れたころにあいつの叫びが聞こえたような気がした。……騒がしいやつだ。