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憎い。
この心を支配し、魅惑する言葉。
憎い。
この体に絡み付き、私を現世えと縛り付ける言葉。
憎い。
この私の、唯一にして絶対の感情を表す言葉。
だから……。
だから滅ぼす。
だから壊す。
だからぐちゃぐちゃにする。
答えなどすぐに出ていた。
憎い。
そうだ。そうなのだ。
私はこの世界が憎い。
私を縛り付ける憎しみという感情も憎い。
全てが憎い。
この世の生きとし生けるもの、存在する万物が憎くて憎くて仕様がない。
答えなど目の前の少女を見れば一目瞭然だ。
恐怖に顔をゆがませ涙を流し鼻水を垂らすのも気にせず
声がかれるほど叫び懸命に助けを求める。
そうやって、一生懸命生きているやつも憎い。
生きようと足掻く奴等など、なおのこと憎い。
だから。
少女の顔が一層歪み、引きつり、蒼白になり、土気色へと変わり、もはや声すら出ない。
それもそのはずだ。
私の手には、べっとりと赤黒い血に覆われたナイフがあるのだから。
ゆっくりと見せつけるように腕を振り上げ、そして振り下ろす。
ザクリ
私の手の中の凶刃は糸もたやすく少女の喉元をかき切った。
両目を毀れんばかりに見開き、声にならない悲鳴を上げる。
うずくまりながらも喉元を抑えてどうにか生きようと足掻く少女。
苦しいだろう。
痛いだろう。
死ぬのが怖いだろう。
それでいい。
それこそが私の目的。
だって憎いから。
苦しみながら、恐怖に震えながら死ねばいい。
少女にはまだ息がある。
何で死んでくれないの?
何で生きようとするの?
じゃあ、私が殺してあげる。
再びナイフを握り直し、今度は彼女の胸めがけて突き刺す。
確かな感覚。
私は今、この少女の命を奪い取ったという確かな手ごたえ。
抑えるものがなくなった彼女の喉元と胸から夥しい量の血液が噴き出す。
その、生暖かく、鉄臭い液体を体中に浴びながら思わず唇の端を持ち上げる。
ドサリという、命の重さとしてはあまりにも軽すぎる音を立てながら
力なく地に倒れ伏す少女。
私はその音を耳にしながらゆっくりとナイフについた血を舐めとった。
……美味しい。
今日はこの少女を含めて5人の人間を葬ってやった。
明日も……。
明日もまた殺そう。
誰かが私を救い出してくれるその日まで。