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懐刀

 話し終えて、彼女は胸をなでおろす。

「ふう……ちょっとだけスッキリした……」

「…………」

 ぼくは、何も言わずに彼女を見ていた。(うつむ)いたまま、涙を流す彼女を。

「……私は、もう引けない。家族を守りきるまで、どうあっても仕事を止める事はできないの」

「……はい」

「本当なら、こんな関係は間違ってるし、きっと悪い事なんだと思う。でも、私は今回の一件で、あなたからたくさんの事を学んだし、きっとあなたが居なければ私は今頃死んでしまっていたかもしれない」

「……そんな」

「あなたと居れば、私は守り続ける事ができるような気がするの。だから、愛臣くん。私と一緒に…………居てください」

 そんなの、今さらかしこまって言われなくても、最初にここを訪れた日から心に決めていた。告白だってちゃんとしたさ。まあ、冗談に聞こえただろうけど。

「そうなると、僕らの関係ってどうなるんですかね?」

 相棒? 居候? それとも家族? 同僚? 二夕見さんは、ぼくにどんな存在としていて欲しいんだろうか。

 例えここで、はぐらかされても、ぼくは引き受けるつもりではあるけど。

 彼女は一瞬考え込むような動作をしたあと、とてもあっさり言った。

「恋人……兼、相棒」

 決まった感じだった。ぼくも胸を張って応える。

「全身全霊にて」

 きみと一緒ならどこまでも。そう、本気で思えるくらいぼくは好きになった。

「二夕見さん、ぼくは……」

 と、言いかけた所で、尻のポケットから振動を感じる。携帯電話の電話着信だ……。

最後にちょっとキザったらしい事でも言ってやろうかと思ったのに。いったいどこの誰だぼくの台詞をぶった切ったのは。メールにしろ、メールに。

 電話に出てみると、相手は先生だった。

『おらー‼ ようやく事後処理終わったそコノヤロー‼ 今から祝勝会するから今すぐ定食屋来い。カツ丼食うぞ。カツ丼!』

「先生、もしかして飲んでます?」

『悪いかコラ。こっちはなぁ、ここ数日風呂もそっちのけでなんたらかんたら』

「先生、お話はそっちに行ってから聞きますから、抑えて」

『おーう、早く来―い。ん、どうした桜お前も飲みたいんか、んー? ァゥー』

「おおおおおい! 何やってんだアンタ! 絶対に飲ますなよ!? 絶対に!」

『バカ、体はもう二十歳なんてとうに超えてんだから問題ねぇよ』

「そういう問題じゃねぇよ!」

『うっせ、バカ。擬似優等生。さっさと来いってんだよ! ァゥー』

 後ろの方で、桜さんの声が聞こえる。よし、まだ大丈夫そうだ。急げば事態がややこしくなる前に何とか。

「先生、いいですか。行くまで待ってて下さいよ。せん(ブツッ)……あ、切りやがった」

 ほんとにもう、しょうがない人だな。

「……定食屋に居るって?」

「はい。あと、早く行かないと何か大変な事になりそうな感じです」

「……そう。それじゃあ、急がないと」

「そうですね」

「……マスカットちゃん」

 え、なんで今さらその呼び方を。てっきり愛臣くんで定着するものとずっと……。

 彼女は悪戯っぽく笑いながら手を差し出してきた。

 連れて行け、という事らしい。まさか、からかわれてさらに主導権まで握られるとは。将来尻に敷かれるのが目に見えるようだ。

 でもまあ……そういうの嫌いじゃないけどね! 尻の感触をずっと味わっていられるって事だもんな! 彼女なら悪い気はしなないと思うし。

 ぼくは彼女の手を取り、導く。

 


「愛臣くん。……大好き」

「ぼ、」

 ぼくも大しゅきいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ――――ッ!!!!


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