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夢から覚めて

 まず最初に当惑したのは、あまりにも薄気味悪い事。ここに来てから、意識を失ったり眠ったりすると現れる中途半端でわかりにくい夢。

 それが、今度はまるで登場人物であるかのように振舞う事ができた。しかも、内容がよくわからないものばかり。何かの隠喩だったとしても、結果を見たくないような類だろう。

間違いなく何か異常を来たしていた。もしくは、状況が変化しているのかもしれない。

「いや……」

 夢っていうのは、往々にしてよくわからないものであったり、ぼんやりとしていたりで、記憶するのにひどく苦労するような内容ばかりだ。ある意味、ぼくが見た夢はとても夢らしい夢なんじゃないだろうか。そう思えば、薄気味悪いというよりも、ようやくまっとうな夢を見る事ができたのかもしれない。

「疲れが溜まってるって線も捨てがたいけど」

 まあ、それについては今の所どうしようもない。先生にマッサージ屋でも紹介してもらうくらいしかない。

「しかし、いったいどういう意味なんだろうな」

 天、我を見捨てたり。

 ぼくは別にそこまで不幸な目にあってるわけじゃない。まあ、小指を折られるっていうのは結構ヤバイのかもしれないけど、それでもしっかりくっつくのだからまだマシだ。

 では、一体何をそんなに悲観する必要があるんだろうか?

 もしかして、ぼくはこれからもっととんでもない事に遭うのか? いや、それはもう予言されるまでもなく覚悟してはいるんだけど。

 いや、夢の話だ。本気になってどうする。夢分析なんて特技は持っていないのだ。

 ぼくはもう一度目を閉じ、今度は楽しい夢が見たい、と願って眠りについた。

 

 余談だが、その後ぼくはお色気リトルグレイと1オン1バレーボールで大敗を喫し、ちょっと汗?でしっとりした銀色の肌と添い寝し、鎖骨と胸の間あたりに手を置いて「あ、なんかここ落ち着く。これがぼくのフェチだったんだ……」と、顔を赤らめる夢を見た。

 悪夢だ……。


 翌朝。

「誰か、ぼくが昨日夢の中でお色気宇宙人ゾンビと脱衣をかけてゲームをした理由を答えられる者はいるだろうか。もし、枕の下にDVDを置くか、呪った人間が居るなら、怒らないから名乗りなさい」

 食卓についている二人は、それぞれ違う反応をした。二夕見さんは、何事も無かったかのようにトーストを焼き、ぼくに渡してくれる。穏やかな人だ。

 そして先生は、 

「お前じゃあるまいし、そんなバカな事しねぇよ」

 元気に相手をしてくれる。

「まるでぼくがそういう事をするような言い方は止めてください」

「フン、次にお前が言いたい事を先に言ってやろう。自分ならもっとスゴイ事をした、って所だろう?」

「ええ、もちろん。ぼくならDVDなんて使わずにゾンビのお面被って添い寝くらいします。ちゃんと、すっぽんぽんで」

「犯罪だぞ、それは」

 先生は苦そうな顔をしている。きっと脳内で想像してみたのだろう。ふふふ、しかし甘い。ぼくは現場でアドリブを入れる人間だから、間違いなく余計な物を追加するね。つまり、今先生の頭の中にある映像よりも、エキセントリックに動いてみせるぞ。

 例えば、自分の尻に花を……

「今、なんか知らんがスゲー寒気がした。どういう事だ?」

「汗でもかいたんじゃないですか?」

「あー、そうかもしれん。参ったな、風邪引かなきゃいいけど」

「……愛臣くんは何でもできるのね」

 全てを悟ったと言わんばかりの二夕見さんの視線に、今度はぼくが寒気を感じる番だった。以心伝心とはこの事だね? できれば伝わって欲しくなかったけど。

 ある程度じゃれついた所で、ぼくは本来の目的を思い出していた。

朝食。ではなく作戦会議。ちなみに、席順を説明しておくと、先生はぼくのナナメ向かい。桜さんがいつも座る席の隣という事になるだろうか。そして、二夕見さんがいつも通り定位置として上座に。どうやら、この家に来慣れている人間はある程度の定位置のようなものを決めているらしいことが窺える。

 先生の態度にもまるで余所様の家という雰囲気は無く、いつもの如くという感じにコーヒーをすすりながら新聞を読んでいる。そして、気がついたようにカバンを漁ると、財布を出して420円を二夕見さんに渡す。

 やっぱり、日常的にお金を請求してるようだ。もしもぼくが、桜さんに気に入られずにここに逗留していたら、果たして今日まで一体いくらかかったか……。

 ぼくの勝手な印象によれば、恐らくこういう状況で先生は「袖触れ合うのも多少の縁」という言葉を引用してきて彼女に請求の不当性を訴えるはずだ。しかし、それが無い。だからきっと、そういった問題についてこの二人は、山ほど議論を交わしてきたに違いないだろう。そして結局、今ある形に落ち着いたわけだ。価値観をぶつけても無駄だと悟ったのかもしれない。ただ、初日はその場の勢いで自分もタダ飯にありつこうとしたんだろうな。もしくは、自分も付き合いが長いからそろそろ、とか思ったのかもしれない。どっちにしろ、未だに支払いをしているのなら、もう辞めるのも億劫だと思うがね。

 ん? 支払い額について軽く考えていて気づいたのだけど、ぼくってここで晩御飯食べたっけ? なんか、なんだかんだでここでの食事は、朝か朝昼兼用しか食べてないような……。ホテルでの事件の日も帰った後は写真を眺めるのにばかり集中して、結局食べれなかったはずだし。そうだそうだ。今にして思えば、あの時のウチご飯は惜しかったんだ。最高の笑顔で食べられる自信があったのに。ラップして冷蔵庫に入ってないかな。まあ、例えあったとしても、今は食べる気にならないか。

なんせ、四六時中何をしていても阿傘さんを倒す算段ばかり考えているんだから。

「そういえば愛臣。お前、敵さんの能力がわかったって言ってたっけ?」

 ああ、カツ丼を食べている時にぽろっと零したっけか。

「……それは本当なの?」

「正しくは、何となく範囲が絞れたってぐらいなんです」

「ぜひとも聞いてみたいもんだな」

「いえ、範囲は絞れてきてるんですけど、まだいまいち決定的なものが無くて。今の状況でわかってる事と言ったら、どう転んでも二夕見さんは苦戦するっていう事くらいです」

「……つまり、熟練の力技タイプか、物理攻撃無効タイプ」

「あとは、精神感応とかも考えてみたんですけど、そういうのって多分、二夕見さんには効きにくいだろうから、可能性としては考えていても無視してあります」

「どうして?」

「二夕見さんって芯がしっかりしてますから。まあ、しっかりしすぎてる所もあるんですけど」

「……それで、どうやって二つから絞るの?」

「おいおい、ちょっと待てよお前ら。私を置いてけぼりにする気か。そもそもなんで愛臣はそこまでの経過を説明しないんだ。二夕見も無闇に信用しすぎだぞ」

「すいませんでした」

「……ごめんなさい」

 そうか、まだ吟味する段階だった。先生達の意見も聞いてない内から確たる答えを出す必要は無いんだった。それなら別に話しても問題ない。……のかな?


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