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幕間 痛みの中での眠り

 見えない。

 見えない。

 どこにも見えない。

 何を。

 愛しき全てが。

 消えてしまった。

 

 体がまるで、焼けた鉄のように熱かった。しかし、それは痛覚を伴わない。まるで、灼熱の中から生まれた生物であるかのように、自然に感じるのだ。

 辺りは炎に包まれている。

 こんなに炎があるのに、辺りはまるで明るくない。

 ゆらぐ炎の影に、倒れている人影が見えた。否、それは人ではない。人の形を模したような、真っ黒な墨でしかなかった。

 頭上から、白い羽が降ってきた。

 ひとつ、ふたつ、たくさん。まるで雪のように、降ってくる。そして、その全てが炎に焼かれ、炭になっていく。

 見上げてみる。誰が羽を撒いているのか。

 誰も居ない。

 何も見えない。

 でも、羽は次々降ってくる。

 気がつくと、自分の体に羽がたくさん付着している。どうやら、自分に触れている羽は燃えないようだ。

 何故か、羽をたくさん掴みたいと思った。一つでも多く、一つでも多く。しかし、掴む為に手を広げると、一度掴んだ分が落ちてしまう。

 何度も何度も繰り返している内に、そうすることをやめた。

 暗転。

 気づくと、今度は随分前に見慣れた場所に居た。そこは、ぼくが通っていた小学校だった。

 可もなく不可もない場所。何もかもが平均的で、何もかもが薄気味悪い場所。

 廊下を歩く音。誰かがヒソヒソと話す声。懐かしい給食の臭い。掃除用具箱には、汚れた雑巾と新しい雑巾が入ってる。箒はどれも、古くて毛が抜けているだろう。

 どうして、こんな事を思い出すのだろうか。

 机の中には、置きっぱなしの教科書が入ってる。横にかけてある体操袋の中には二限目で使った体操着が入っている。隣の席は………………誰だったろう。眼鏡をかけた女の子だったろうか。いや、仲のいい友人だったかもしれない。

 どうして、人の記憶だけ無いのだろう。

 誰かが言った。上級生が呼んでる。教室の入り口を向くと、そこには箒が一本立てかけていた。隣の机には綺麗な雑巾。ぼくの机には汚い雑巾。

 突然、扉が開く音がして、ぼくはそちらを向く。掃除用具箱の中には、ただ箒が何本かだけ入っていた。

 また誰かが言った。上級生が呼んでる。

 ぼくは目を閉じて、床に倒れると、舞台は草原になっていた。気持ちのいい風が通り抜け、ゆっくりとした雲の動きが心を落ち着かせる。

 しかし、唐突に悟る。ここが、終点なのだと。

 草原を炎が襲った。


 人は炭に。神、天に居ませし。

 天、我を見捨てたり。


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