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深夜

抜けている話を埋めていこう。

一、ぼくが聞いていなかった彼女達の正体。

今の所は、変身能力を身に着けた特殊な生物としか言いようが無いらしい。どこから来たのか、どうして生まれたのかも不明。科学的に証明もされず、研究も進んでいない。一番最初に発見されたのは十数年前のビル街。そこで最初のご同類は発見される。以後、ごく少数ではあるが、この国の至る所で同じような症状を身につける男女が現れ始めた。彼らの多くは権力から隠れるように暮らしていたが、やはり日常生活に支障をきたした時点で発見、捕獲されている。

捕獲後は研究材料とされるのがほとんどだったが、新たな検体を手に入れる役割を志願すれば、ある程度の自由を与えてもらえるらしい。同胞を身代わりにして得る自由か、潔白に生きて与えられる苦痛かを選べとは、なんとも酷い話だ。

今後の研究結果如何によっては、何かしらの事実が出るだろう。そうしたら、また待遇も変わるだろうかと思ったが、発見後こんなにも早く研究に着手してる所を見ると、よからぬ思惑を感じざるを得ない。オカルトでも、実在すれば科学で利用するわけだしな。

 これ以上の知識を今は吸収しない。良心が疼かないように気をつけないといけないから。

二、先生と二夕見さんの関係

 二夕見さんはその道ではこれまで結構な成績を残してきているそうで、今ではかなり重宝されるようになっているのだとか。過去に先生は二夕見さんの専属マネージメントなんかをしていたらしいが、上の都合でしばらくは別の任務に就いていたのだそうな。では何故教職を、という事については聞けなかった。

 しかし、二夕見さんは新しいマネージャーと折り合いが悪かったらしく、コンビは不成立。よって先生は今度正式に二夕見さんの担当に復帰する事となった。だから、教職は夏休み明けに辞めるのだそうだ。

 そういえば、ぼくも夏休みが終わったら実家に帰るわけだが、その後の関係はどうなるんだろうか。ああ、それについてもぼんやりと説明されたっけ。なんでも、上手くいっているようならば、今後も二人で仕事に当たれるように環境を作るらしい。多分、ぼくがこちらに転校する形になるんだろうな。


「ふう」

 ぼくは、目を開け、体を起こす。

ここはぼくに宛がわれた部屋。河辺家の二階、六畳の畳敷(たたみじ)きの個室である。

ぼくはおもむろに、ちゃぶ台の上に散らばっている写真を眺めた。それは、事件が起こった部屋の細部をデジカメで撮ってプリントアウトしたものだ。現場もしっかりと見てはおいたが、どこからどう手をつけていいのかわからなかったので、できるだけ多く写真を撮って、後で二夕見さん達と吟味することにしたのだ。あるべき物が無かったりといった、差異は無いかを確認してもらい、そこから何か掴めないかと思ったからだが、これは当てが外れた。部屋の中に異物は無く、何かを動かしたり破壊した形跡も無かった。

402号室。窓は二つ。部屋の左端に大きなベッドが置かれ、入り口近くにソファが向かい合うように二つ。側にあるラックにはいくつかの雑誌が置いてあり、テレビや家庭用ゲーム機なども設置されている。四階にある部屋はどこを選んでも冷蔵庫内の飲食物を自由に飲み食いできるのだが、ほとんどが手付かずのままだった。

 一緒に居た男の証言によると、二人はほとんど初対面であり、もちろん正体など知ってるはずは無かった。どこで会ったのか聞くと、街中で向こうから誘ってきたと答えたそうだ。本当かどうかは知らないが。

 室内から毛髪が多数発見されているが、以前に利用した客のも混じっているようで、判別にはかなり時間がかかるとされた。ファーストコンタクトを終えた今となっては、いたずらに時間をかければ、どんどん不利になる。だから、残念ながら望みは薄い。

 今の所、比較的に考えやすいのはやはり最後に見た女性の脱出場面だった。彼女は化け物同士が戦う上でのセオリーを守り、初手は逃走に専念していた。

念の為、最初から窓を脱出経路に設定していた普通の人間である可能性も疑ったが、それらしいものは外では見つからなかった。

彼女は化物であることがほぼ確定。それも、もしかしたら結構な場数を踏んでいる可能性があった。しかし、同じような手口(木板の使用などを含める)の事件はまだ報告されておらず、暗殺については今回が初犯であると思われる。

結局、分かったのはこれだけ。こんなんじゃあ、打てる対策なんて狙われそうな人物の警護を強化するくらいしかない。

しかし、何もしないというのも悔しいので、ぼくはちゃぶ台の上に、この町の地図を広げた。土地勘が無い事で不具合が出てしまわないようにする為だ。

この田舎町は、海と山に挟まれた場所にある。見ようによっては、巨大な入り江に見えなくもない形で、交通手段はローカル線が一本だけ。住民の多くはバイクや自転車、車などを交通手段にしているらしい。山側には、名物である裏山タワー(展望台兼電波塔)。タワーのある山を正面に見た場合、町の真ん中を流れる川を挟んで右側は開発されつつある道路の多い町。左側が密集した住宅と、自然の多い町。ホテルは、左側の海側、山に隠れた場所にある。開発途上の右側から車で行く場合、大きく迂回して海岸沿いの道路を目指すルートが最速のようだ。徒歩ならば、川沿いに進むという道もあるようだが。

地理に関しては、それほど目を引くものも無かったし、実際に見ていないのだから、不安定この上ない情報だ。しかしまあ、知っておいて損は無いだろう。なに、きっと後で役に立つさ。

「しかし、相手の事が何もわからないんじゃあな……」

肝心の金髪女性に関しての情報が圧倒的に足りないのだから、しょうがないと言えばしょうがないんだけど。とにかく、明日もう一度現場に行ってみよう。見落としているものがあるかもしれない。

実地検分で何か閃く事を信じて、ぼくはとにかく眠ることにした。

 時計はすでに、深夜一時を指していた。


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