ごり押し交渉
微分積分二次関数…歩行者確認…うわぁー!!
「なんだ、このアイテムの価値を考えたら安いものだろう」
「あ、ああその通りだ。このアイテムはそうそう出るものではないからこれでも安いと言ってもいい」
「じゃあ本当の値段はもっと高くなるよなあ、えぇ?」
「確かにそうなるが…」
まるで自分から買い取り額を上げていくような言葉に店主は困惑の表情を大きくしていく。
そんな店主に俺はニヤニヤと笑いながらカウンターに肘を突き、同じ目線の高さで顔を突き合わせる。
「ははっ、その程度で動揺してちゃこれから店を始めるってのに先が思いやられるねえ」
「なっ」
「なんで分かったかって? そりゃ店とか見りゃ解るに決まってるさ。一つも商品が欠けてない綺麗な商品棚に汚れてない床、しかもボロ纏ったこいつを中に入れても平気とくればそう考えるさ」
俺の一言に絶句した店主に隣にいる少年の頭にポンと手を置いて答えると今にも顎が外れそうなほど口が開く。
それに対してニヤニヤと見ているとすぐに咳払いをして表情を引き締めて何かを言う前にまたそれを妨害するかのように口を開く
「まあそんなことはどうでもいい。それよりこいつの値段の決定だ」
「…確かにその通りだ。君がこれの価値を改めさせてくれたからさらに上乗せさせてもらうよ」
「うぎぃ…」
すこし苛立った表情と共に更に上乗せされた金額に少年が変な声を上げるのを聞いた店主は勝ち誇ったような目をするが、俺の表情を見てその余裕も消える。
片方の口角を吊り上げた俺に何かを感じたのか口を開いた。
「いや、だが考えてみればもっと希少価値は上がるだろう。さらにこれだけ…」
「おいおい、何度値上げすれば気が済むんだ。査定したのに何度も変えちゃ客も信用しねえぜ?」
焦るように早口でいう店主に対して俺は余裕たっぷりにゆっくりと追い詰めるように喋っていく。
「それに希少希少言ってるがそれを加工する技術を現在持っているものはどれだけいて、その誰かにお前はコネを持っているのか?」
「そのくらいはいるに決まってるだろ!」
「本当か? いたとしてもこれだけ高額で売ることができるのか? まあお前の場合はある程度吊り上げて俺に買わせようとしてるんだろうけどな」
俺が一言一言発する度に店主の表情は悪くなっていくのがとても楽しい。演劇でもするかのように両手を広げ、さらに畳みかけるように喋っていく。
「というか見え見えだな。レアアイテムをある程度必死に稼げば買える値段で目の前で吊る。しばらくしてその額貯めて来たら時間が掛かったやら何やら理由付けてまた上げるって所か。相手が諦めたらお終いだがそれを見極めればかなりの額が手に入るもんな」
「人聞きの悪い事を言うな!」
「大丈夫さ。聞いているのは俺たちだけ、何を焦る必要がある」
「そういうことじゃない!」
実際に言った通りだったのだろう。図星を突かれたのを隠すように机を叩くが動じずに笑い続ける。
これ以上挑発してもいいがもう十分だろう。話を切り上げるようにメニューを操作し、大量の金貨の入った袋を出してカウンターの上に放り投げた。
「ま、そんなこと思惑は俺が金を即座に出した時点で潰えるわけだ。これは返してもらうぜ」
「あっ…」
「提示された分の金は払った。文句はないだろ?」
鉱石を弄びながら言うと何も言えないという風に俯いてしまう。それに勝ち誇ったように笑ってハイルに報告をするためにメニュー画面を弄る。
「ああ、そうだ。ひとついい話があるんだ」
「………」
「もう少し話を聞くを素振りを見せて欲しいものだねえ。ほれ、見てみ」
俯いたまま黙る様子にやれやれと首を振り、腰に下げた片手剣を出してみせる。
鋼の片手剣
武器。以上
Atk+23
「これは…」
「いいだろそれ。で、いい話ってのはこのレベルの武器をいくつも扱ってみないかって話だ。もちろん種類はたくさんある」
「嘘だろう。僕が見た片手剣の最高値は18だったぞ。」
それを手にとって確認している店主に軽く自慢しながら交渉に入る。
説明がちゃんとしてればもう少し格好がついた。しかし店売りのレシピではなく自作で作ったから説明文は自分で入れる羽目になりハイルと俺も解ればいいとばかりにこんなことになってしまった。
「値段はこちらで指定した額で、取り分は売れた分の3割でいい」
「何を考えてそんな自分が不利な交渉をするんだい?」
「そんなことは関係ないだろう。返事はするかしないか、どっちかでいい」
強気で言っちゃいるが実際はいちいち影収の中に預かってある無数の武器を売るために露天に居なくてはならないという時間を無くしたいからかなり重要だ。
このゲームいちいちリアル思考でINして露天で実際に商売しなきゃだからかなり切実だ。そんな時間があったら俺は狩りを、ハイルは鍛冶をしていたいのだ。
そんな俺の交渉とも言えないごり押しにしばらく考えたあと、店主が首を縦に振った。
「いいだろう。でもある程度は定期的「はいそれでは今回の分はこちらとなっておりまーす」だから人の話を聞けっ! それにどこから出したんだそれは!」
「え、影からだけど」
「なんできょとんとした表情で見られなくちゃいけないんだ!」
言っている最中に一抱えほどの剣から始まるさまざまな武器をカウンターの上に出して答えると何が気に入らないのかそう怒鳴られる。
まあどうでも良いよね、だって相手は了承したんだもの。
「あ、そうだついでにこいつ雇えよ。そうすりゃ客増えても心配ねえぞ」
「すぐに売れるとは限らないだろう。それにそこまでする義理はないよ」
「へいへい。まあだろうと思ったよ」
ついでとばかりに逃げようとしていた少年の襟首をひっ捕まえて言ってみたがさすがに駄目か。
仕方ないと肩を竦め、この商談のある意味立役者にまるで悪役のように金を渡した。
「ほれ、案内料。これで仲間の食い物でも買ってろ」
「…お礼は言わないからな! ぐえっ」
「お礼は言えクソガキ」
「わかった、わかったから離せって!」
せっかく渡してやったのにそのままどこかに行こうとしていたので今日だけで一生分やったであろう襟首を掴んでの阻止をして言うと相手も学習してたのかすぐに振りほどいた。
どんなこと言うかと楽しみにしてたがすぐに中指を突き立ててこんどこそ逃げられた。
「…次会ったら容赦しねえ」
「彼に構うのはいいが少しは僕の話を聞いて欲しいな」
「ああ、確か性悪店主が新しく始める店にある商品をどうやって宣伝するのかだっけか」
「性悪は余計だ! あと僕の名前はフリードだ!」
「んで、宣伝の方法だがな。それはここがゲームだってことを利用する」
店主、フリードの言葉を無視してにやりと笑い人差し指を伸ばして得意げに言う。
「近々くるイベント、夏の大狩猟祭で俺が高得点出して宣伝する」
そう、公式が告知しているゲームが開始されてから初めてのイベントに便乗するのだ。
「…その貧弱な防具でかい?」
「それは発注中だ。それに今回は武器の宣伝だから最悪いらねえんだよ」
地味に気にしてることを言ってくるんじゃありません。
スキル更新はなしです