レアとは珍しいという意味
ただし出るか出ないかの五分五分である
「えんやこらー、どっこいしょ」
「掘れました!!」
「「「おおっーー!」」」
「あ、やっと終わったかあっちも」
妙な掛け声をしながら作業を進めているとハイルが声を上げ、それに反応して周囲が沸いた。
こっちが手を止めて見れば、買い取りの交渉をしているであろうプレイヤーに囲まれて困り顔でいた。
まるで砂糖の山に群がるアリの様だ。まあレアアイテムを大勢の前で手にいれた時の恒例だからしゃあないだろう。
ほとんどがダメ元だからすぐに諦めてそれぞれの作業の為に散っていき、洞窟の中はつるはしが壁を叩く音に包まれていった。
「おつかれ。にしても随分と時間が掛かったもんだな」
「だってレアアイテムだよ? 次に手に入るか解らないんだから確実に手に入れなきゃ」
「ふーん、そうかい。まあさっさと帰ろうぜ」
「…なにか引っかかる言い方だね。そっちも何かあったのかい?」
嬉しそうなハイルに興味なさそうに返して二人で洞窟をあとにする。帰る道中も不服そうだったが、ちょっとした理由の為に何ひとつ説明せずに街まで戻り、広場の入り口についた。
「とりあえず僕は武器を作りに行くけどどうする?」
「俺の武器を作ってくれるならついてくぜ」
「そうだね、それくらいならいいよ。ただしさっきまでの態度を説明してくれるならね!」
「あ、それならこれだ」
言われると思っていたのでひょい、とインベントリの中に入れておいた拳大の蒼い鉱石を手に取って見せる。まあそれはさっきハイルが採掘していたのと瓜二つなもので。
それを見てハイルは何かを言おうとしてからためらうようにして口を閉じるのを数回繰り返してやっと言ったのは
「…嫌がらせかい?」
「そうなると思ったからさっき言わなかったんだよ。少しの間でも夢を見させるなんて俺は優しいね」
「うん、とりあえず死んでおくれよ」
嫌味をため息交じりにドストレートで返されるが片手で鉱石を弄びながらへらへらと笑って流す。
俺はなぜか貴重と着くものは良いものだろうと悪いものだろうと寄せてくることが多い。だがまあ比率は4:6くらいで、違うMMOではダンジョン入口にある起動確率1%の即死罠を五連続で発動させたときは泣きたくなったものだ。
「まあこれも最初からお前に渡そうとしてたからな。どうせ後々で分かったことなんだが。ほれ」
「やっぱり意地が悪いね。いつも通りだけどさ。うわっ」
仕事が終わった社会人もインする時間帯になったのか地味に広場に人が集まってきたので移動しようと親指で東地区に通じる通路を指さし、持つのが面倒なので苦笑いをしているハイルに向かって鉱石を無造作に投げ渡した。
その時、多くの人の間を縫って走ってきたぼろい外套を纏った小さな人影が俺とハイルの間を逃げるように走り抜けた。
当たりそうになったハイルがつんのめって止まるが、人影はそれを気にすることなくものすごい速さで東地区へと走って行った。
「危ないなあ。なんだったんだろあの子」
「さあ? それよりお前さっき渡した鉱石どうした」
「もちろんここに持ってるけ…ど?」
走り去っていく人影を見送り、問われて肩をひそめるがあることに気づきそれを指摘するとハイルが空っぽの両手を見て首を傾げて自分の身体を服の上から叩き始める。
ある程度すべての範囲を叩き終わるとそんなはずはないとばかりにメニュー画面を開き始めたので手で制しながら言った。
「無いんだろ。どうせさっきの奴にでもスラれたんじゃね」
「…うん、そうっぽい」
「まあいいや。とりあえず取り返してくる」
「分かった。先に行って作れたら僕が持ってるので先に武器を作っておくからよろしく」
バツが悪そうに頬を掻くハイルにへいへいと返事をしてさっきの人影を追うように走り出す。
目標はもうほとんど雑踏に紛れているが、関係ないとばかりに近場の店目がけて加速した。
<影針>
そしてその勢いのままに影針に乗って飛び、店に取り付けられている看板に飛び乗ってそこから窓を使い屋上まで登り追跡の為に走り出した。登るときに注目を十分に集めたが今回は気にしないでおこう。
それにしても上から見ると人影が雑踏をどれほど上手く避けているか解るというものだ。多分普通に追っかけてたら立ち往生してすぐに逃げられていただろうが、屋上を伝って追っているからそんなことはできやしない。
「さあて、鬼ごっこの開始だぜ」
ここはゲーム、落ちても怪我もないし身体能力も強化されている。だったらそれをフルに使って追い詰めようじゃないか。