寝起き?ドッキリ
背もたれに体重をかけて椅子を傾けながら、手元のマウスでパソコンの画面をスクロールさせていく。
いつものようにゲームの世界に飛び込む前にハーフェンの周辺の情報を調べているが、二つ目の街だから情報が山のように出ている。
周辺のモンスターやアイテムのことなど以外に、おすすめ釣りスポットや料理がおいしい店など随分と書いてあってまるでブログである。
まあ楽しみなんて人それぞれだし、狩りに飽きた時のために一応そこらへんの情報もしっかり読んでいるのだが。
「ふーん、海蝕洞ねえ」
その中で自分的に一番有用だったのは干潮時に行けるという海蝕洞の話だ。
ハーフェンの砂浜から行け、奥には謎の文字が刻まれた石板がある遺跡があるらしい。また、そこではもう動かないが二束機械が置いてあるという。
それ以外にも単純に水面が青く輝いていて綺麗だから、狩り目的以外でも一度は足を運んでほしいという言葉でページは終わっていた。
「今日にでも足を運ぼうかねー」
海蝕洞の景色やまだ見ぬモンスターにワクワクしながらパソコンの電源を落とし、ベッドの上に投げ出しておいたヘッドギアを被りゲームを開始した。
「遅いっ!」
ログインが終わり体を起こした直後にその言葉とともに枕が顔面めがけて飛んでくる。
流石に反応できずにクリーンヒットし、のけ反るように布団にまた倒れこんでしまった。
「何しやがんだよてめえ。寝起きドッキリにしちゃ暴力的だぞ」
「貴方が起きるの遅いのが悪いのよ」
「起きるってお前なあ…」
枕をどかしながらもう一度体を起こせば、隣の部屋に泊まっていたはずのクラリアが腰に手を当てて俺を見下ろしていた。
恐らくこいつを部屋に入れたであろうハイルは、見た限りどこにも居ないのでどこかに行っているのだろうか。
「まあいいや。それよりハイルどこ行ったんだ? 別々に行動するならそれでいいけどさ」
「ハイルならちょっと行くところあるって言って出てったわよ。ついでに戻るの遅くなるから二人で行きたいところ言ってて良いっていうのもね」
「へー、そうですかい」
これはつまるところクラリアは伝言役を、俺は御守り役を任されたわけだなあの野郎。昨日はリアルもゲームでも用事はないって言ってたじゃねえか。
生返事をしながら、返信はないと確信しながら一応ウィスパーで後ではっ倒すという旨の言葉を打っておく。まあこれ見ても笑っているだけだろうけどな。
「…本当に聞いてるの貴方?」
「全く聞いてないから安心してもらって平気だぜ」
「全っ然安心しないわよ。むしろ安心する要素がどこにあるか教えてほしいくらいね」
冗談だからそんなものねえよという言葉は胸の内に閉まっておき、ハイルが居ないならどういう風に過ごすか考える。
よし、特に何もないしここに来る前に調べていた海蝕洞に行こう。ただしモンスターを一撃で殺すこいつを置いていこう。
そう決めてベッドから降り、インベントリから取り出した水を飲みながら扉に向かう。
「まあいいや、じゃあ今日は自由行動な」
「思ったより貴方たちってドライなのね。ここに来るときはボケとツッコミが息ぴったりだったのに」
「せめて連携が、って言ってもらった方がかっこついたんだがね。まあ基本的にやりたいことが真逆のことが多いからこんなもんだ」
俺は外で狩り、ハイルは中で鍛冶をするのがこういうタイトルでは常だ。例外はFPSだったり作成という概念がないゲームだけだろう。
まあそれでも何かあればハイルから誘われ一緒に行動したり、暇な時に俺がふらりとハイルのところに行くから仲が悪いというわけではないのだが。
「あれ、それって俺が自由気ままにやってるからじゃね?」
「何か言ったかしら?」
「別に自分の行動を振り返ってただけでなんでもねえよ。俺は適当にぶらつくからお前も自由にしていいぞ」
おそらくこの宿を切り盛りする夫婦の子供であろう10歳前後の少女が受付に居たので、カギを放り投げて汚い言葉だがガキにカギを投げるだな、なんてしょうもない冗談を考えながら宿から出た。
外に出たとたんに照り付ける太陽や店先で値切り交渉をするプレイヤーとそれを相手にするNPCの声が聞こえる。下手をすれば現実よりも現実味のある光景の中をポケットに手を突っ込みながら、軽い足取りで歩き始めた。
「…何時までついてくるんだ?」
しばらく周りを見回しながら足を進めた後、俺の三歩ほど後ろをきょろきょろと周りを見ながらついてきていたクラリアにそう聞いた。
「この街を歩き回るよりも貴方についていった方が何か起きそうだもの。だからついていくわ」
「そんなことねえから他のところ行ったらどうだ」
「さっき自分のやりたいようにしろって言ったは誰だったかしら?」
「いや、確かにそうだけどさあ…」
自分が数分前に言っただけになんとも否定しづらい。何か巧いことを言ってどこかに行ってもらおうと思ったが、まあ戦わずに見に行くだけと割り切ってしまうか。
「わーったわーった。じゃあちょっと行くとこあるからついてこい」
「ふふん、最初からそう言えばいいのよ」
頭を掻きながら背を向けて歩き出した俺に、クラリアは満足げに笑ってそう言った。
剣Lv36 回避Lv38 隠密Lv33 料理Lv26 投擲Lv22 影魔法Lv25 魔法熟練Lv28 隠蔽Lv26 罠Lv11 盗賊の技術Lv35
まあ、どうなるかはお察しです