雨の中の強行軍
ザーザーと激しく降る雨の中を一台の馬車がゆっくりとしたスピードで走り続ける。
荷台に置かれた荷物に腰かけたハイルが、馬車の幌を叩く雨の音を聞きながら言った。
「結構激しくなってきたし馬車に乗れてよかったかもね」
「そうね。なのになんであいつは不満そうなのかしら」
「あー、あれね…」
同じように木箱に座るクラリアのジト目に釣られるように馬車の入口を見て、ハイルは苦笑いを溢す。
そこで床に座り、たまに顔に当たるうっとしい雨をはらいながら外を見ていた俺は、目を細めながら二人の方を見た。
「何が不満そう~だよ。むしろ不満にならねえほうがおかしいっつの」
「しょうがないじゃないか。ぎゅうぎゅう詰めの馬車に乗らなくて済む代わりに、護衛をするって約束なんだから」
「そうよ。それに適材適所が大事なんだから、唯一の索敵持ちなんだからそれを生かしなさい」
二人が言ってくることはどちらも事実だ。
あの後、クラリアが雨の中を歩きたくないと言ったので乗合馬車の乗り場に行ったらかなりの人が並んでいたのだ。
待つの嫌だしすし詰めは通勤電車で十分、という意見を出したらハイルがちょっと待ってくれとどこか行ったと思ったら早くつくために森を突っ切るつもりの商人を連れてきた、というわけである。
だから誰かが警戒しなくちゃいけなし、それが索敵持ちの俺の役目というのは理解できる。できるのだが…
「俺が雨に打たれてんのに、てめえらがカードやってのが不満の種なんだっての!」
「だって暇だもの。私はスリーカードよ」
「やらしたあげたいけどゲームに集中しちゃいけないし、何よりカードが濡れるからね。残念、ストレートで僕の勝ちだ」
「だったらせめて少しは申し訳そうにしろよおい」
「「いやー申し訳ない申し訳ない」」
「少しは反省しろや!」
全く心の籠らない謝罪に、俺は叫びながら手元にあったナイフを外にぶん投げた。
視界が悪い雨の中でナイフはすぐに括り付けられたロープしか見えなくなり、突き刺さる感触と人と獣が混じったような悲鳴を伝える。
ロープを引っ張って回収しながら、その敵の反応が遠のいたを感じてまた二人に目を向けた。
「つかそのカード御者のだろ? 何も言われなかったのかよ」
「こいつはハズレ引いたなっていう視線で見られたけど何も言われなかったよ。ツーペア」
「ハイルって結構根に持つのね。フルハウス」
「じゃあ遠慮しようかてめえら。俺の怒りが有頂天になるぞマジで」
言いながら、ややもったいないが数個の刺突短剣を柄を下にして地面に投げる。
雨で柔らかくなった地面に切っ先を上にして刺さった短剣は後ろから追いかけてきた獣の足を傷つけて横転させた。
「だって暇だもの。仕方ないわね」
「だったら後ろにエアハンマーぶっ放せ。なんか異常にトレインしてるぞこの馬車」
「はいはい、〈エアハンマー〉」
雨のすべりやすい悪路の中をわらわらと走ってくるゴブリンや獣を指差して言うと、やる気なさげに振られた杖の先で不可視の物体に押しつぶされた。
「やっぱお前の魔法はいいねえ。一気に敵減ったぜ」
「ふん、これくらいなら普通よ。褒めても無駄よ」
入口から身を引き、索敵に引っかかる敵が一気に減ったことを賞賛するとそっぽを向かれる。しかしよく見ると少し顔が赤いので照れ隠しだなこれは。
そんなクラリアの些細な変化をわざと気にしていない様に、ハイルがカードを切りながら言った。
「それじゃあひと段落したしもう一勝負しようか。レイスは引き続き警戒よろしくね」
「見張り交代しろもしくは俺も混ぜろ!」
「ひっ!」
そう叫んで全力で投げたナイフをハイルは盾で受け流す様に弾き、結果的に御者の横に突き立った。
「おー、ここがハーフェンか」
あの後も襲い掛かってくる敵をさばき、街に着くなり逃げるようにして行ってしまった御者を見送った後で、弱くなりながらも未だに振る雨の中で呟いた。
河口に作られたこの街は、海路による交易や漁業で栄えている街だ。たしか海沿いに建つ大きな灯台と街の真ん中を流れる水路が特徴で、よそ見してたプレイヤーがそこに落ちたスクリーンショットが出回ってたな。
「ええ。港街ハーフェン、私たちの魔族の棲む島に唯一船を出してる所よ」
「そうなんだ。今はレベルも装備も力不足だけどいつかその島に行ってみたいものだね」
「どうせそのどっちも不足してる時にセティンに拉致られるに決まってんだろ」
俺の小さな呟きに気づいたクラリアが補足の説明をしてくれる。だけどその船に乗る確率は俺の言った通りになるだろうからゼロだろう。
そんな話をしながら、雨の中で歩きたくないし適当な宿を見つけ少し早いがログアウトすることにした。
「じゃあ僕は一人で寝るからクラリアとレイスは同じ部屋でね」
「どうせ手出せねえしどうでもいいっての」
「だからってもう少しは反応しなさいよ!」
剣Lv36 回避Lv38 隠密Lv33 料理Lv26 投擲Lv22 影魔法Lv25 魔法熟練Lv28 隠蔽Lv26 罠Lv11 盗賊の技術Lv35
バケツ溜めとポケ○ン厳選がひと段落したので久々更新です