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アイテム譲渡はよくあること

「地味に痛いんですけど。HP結構減ってんだけど」


黄色になったHPゲージで料理を作りながらぶつくさと文句を言っているが巨狼は我関せずとばかりなので意味はないだろう。


少しは聞けよと思うが結果はどうあれこっちから攻撃したのは事実なのであまり強く言えない。だから精一杯の謝罪と反抗を込めてできる限り料理をうまく作ることにした。



「ほれ、できたぞ」



丹精込めて作ること数十分。レシピではなくオリジナルで作った料理の乗った皿を地面に置いた大きな布の上に置く。


俺の手が離れるとすぐに巨狼はがっつくようにして食っていく。それを敷いた布の端に胡坐で座って食い終わるまでぼーっと枯れていない方の風景を見ている。



「平和だねえ…」



それにしても結構ここに来ているが最初に来た時を思い出すとずいぶんと変わった。例えば巨狼の態度とか、枯れた木が地味に増えていってるとことか。


前者に関しては俺が何度も通っているからで今では触れこそしないが俺が帰るとき以外にはほとんど攻撃されない。いつか触れる日がくるのを気長に待ってればいいだろう。

後者に関してはよくわからない。夏に枯れる木というのはあるらしいが、そうだとしても種類が同じなのにこんなはっきり枯れるのが分かれるものだろうか。


まあ長くいるであろう巨狼の体調が悪くなってるわけでもないし、あったとしても解決策がわからないから予想するだけで何かをするわけでもないけど。



「………」



とりとめのない考えをしながら何も言わずに頬杖をつき先が見えない森の奥を眺めているうちに食べ終わった巨狼がうろうろと隣を歩き始めたのでちらりと見る


いつもだったら何か言うだろうが、かなり濃い戦闘をしたおかげで少し疲れていたのでさっきのこいつの動きはどんなのだっけと思いながらまた森を見る作業に戻る。


そのうちに巨狼が俺に寄り添うように座ったので考え事をしながら無意識に空いた手を伸ばして頭を撫でた。



「(うわ、手触りいいな…!?)」



予想通りの手触りに満足しながら撫で続けてこの事態の異常さに気づいて一瞬手が止まりかける。今俺は触っている。なのに逃げられてない、逃げられてないのだ!


昔の動物好きの人みたいに撫でまわしたいところだがそれだと逃げられるというのがはっきり分かるので舞い上がりそうな気分を抑えてゆっくりと撫でておく。


ああ、気持ちよさそうに目を細めるな。こっちに頭をこすりつけるな。精一杯モフリたいという気持ちが抑えられないじゃないか!



「ヒャッハー我慢できねえモフらせろ!」


「ガゥ!」


「ぐへっ」



思い切り両手でやろうとした瞬間に鼻先で持ち上げられて投げられる。


しばし倒れて自分を落ち着かせた後、立ち上がって何事もなかったかのように布を取り出して巨狼と向き合った。



「よし、触らしてくれるっていうならその毛についた泥を落とさせてくれ。ちゃんとやるから頼む」


「………」


「ほんとだから、もう暴走したりしないから」



全く説得力がないが、本当かよといいたげな疑いの目で見ながら逃げずに座ってくれた。


よし、とガッツポーズをしてから腕まくりをして布に水を掛けて湿らせてその隣に正座で座った。



「では拭かせていただきます」



無駄に畏まって一礼してから恐る恐る毛についた泥をぬぐうごとに綺麗になっていく。それが思いのほか楽しくて汚れてきた布を洗っては丁寧に体全体を拭いていった。



「…よし、できた」



それから数分後、途中から調子に乗ってまた暴走しかけたりした以外は無事に手入れを終えた。


今までの薄汚れていたのと違い、白銀になった毛は手櫛だがしっかりと整えられて光り輝き、神々しいまでに見えるようになった。



「いよっしゃ! 目標達成!」



その姿をじっくり眺めた後にガッツポーズをして小躍りで喜ぶ。


来るたびに気になっていたからこれでよい。これだけで俺はこのゲームをクリアしたと言っても過言ではないのだろうか。



「まあ冗談はさておきだ。今日は早いけど外に出たいから殺ってもらっていいか?」



ひとしきり眺めたりスクショ撮って喜んだ後にイベントのための狩りをするためそう言った。


さて、今回はどうやってやられるんだろうか。前回は体当たりでふっとばされて前々回は咥えられて空高く放り投げられたから今回は直接爪か牙だろうか。


ある意味死に慣れているから眼前に巨狼の牙が迫っても特に気にしなかったが、何時までたっても噛み付かないことに違和感を覚えて言った。



「はよ噛めよ」


「ガウっ」


「あ? 歯磨きでも所望か…ってこれなんだよ」



口を開けた巨狼の長い歯、いわゆる犬歯に鈍い銀色の輪が嵌まってるのを発見。目で許可を取ったのちに手を突っ込んで取った。



「…ブレスレットっつうより腕輪だなこれ」



幅広は2センチほどでほとんど厚さがないくせに変形する様子もないひんやりとした不可思議物質でできている。あと何か文字が書いてあるみたいだがよく見ないとわからない程度にしかないので解読のしようがない。


見てるだけで埒が明かない。解析できるがわからないがメニューを操作してこの腕輪自体の説明文を呼び出してみる。



封印の腕輪

封印地への行き来を可能にする腕輪。



何か補正が入ってるわけでもないその腕輪はたった一文が簡素に書かれているだけだ。そんなものをなぜこいつは渡してきたのかを考える。



「これで死なずに済むってことか?」



死に戻りを頼んだ時に出したということから考えてそう聞くと巨狼は静かに頷いた。


なるほど。しかもこっちに来ることもできるらしいしかなりありがたい。もうここに来るために森でドロップするまで殲滅をしなくていいわけだ。



「ありがとな。また明日来るから」



腕輪をつけ、にこりと笑って不意打ち気味に頭を撫でて腕輪の能力を使用して逃げ出す。


一瞬で巨狼が噛み付こうとした視界から鬱蒼とした森の中に代わり安堵の溜息を吐いた。



「少しはあいつに貢ごうかね」



こんな大事なものをもらったのだ。減った分やあいつに会ってる時間は狩りまくって補えばいいしイベント用の肉を少しくらい巨狼に食わせてやろう。


その手始めにどうすれば効率よく狩れるか分かっているこの森を飛び回ろうじゃないか。

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