表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誘拐犯とひきこもり  作者: 00
第一章
5/27

4

 朝だ。起きた。眠い。目覚ましが鳴っている。ジリリリリ、という音が理想だけど、残念ながら僕のは携帯のアラームだ。アラーム音。ピピピッ、ピピピッ。って感じの音。僕のアラーム音はこれが初期設定だったんだけど、ジリリリリ型もあるのかな? あったら欲しいかも。いや、でも僕が欲しいのは手で叩きつけたら音が消えるような、あの『目覚し時計!』って感じの目覚ましだ。それなら今のように携帯のアラーム音フル&スヌーズとかいう状況じゃなくてもいけるようになる気がするような気もするような気もするような気もするような気も……。うぁー、頭が回らないー。

 とりあえず携帯で時間を確かめる。ゼロ、ロク、ゴ、ゴ。つまり七時前。まあ、普通かな。

 二度寝したい二度寝したい二度寝したいー。そんなこんなで起き上がろう。僕はソファから立ち上がる。ベッド? 僕の家にはないよ。ああ、布団ならあるよ。ちなみにお姫様が使っている。だけどソファの方が寝心地がいいかもしれないと思う今日このごろだ。でも、お姫様のにおいが染み付いた布団ってのもいいかもなー。いや、香りって表現したほうがいいか? いや、香りだけじゃないはずだ。汗とかそんなものも染み付いているはず。お姫様汁? なにそれほしい。

 まずは朝食からだ。いや、朝食からだっけ? というか、僕って朝食食べる派だっけ? 朝食食べる派ってなんだ? とりあえず、缶コーヒーでも飲んでおこう。

 ごきゅり、ごきゅり、ごきゅごきゅごきゅ、ぷはー。なんだこの擬音。いや、擬態語? 擬音語? うん? まあいっか。缶コーヒーは美味しい。それでいいじゃないか。いや、美味しくないか。でも手軽。ちょーお手軽。まあ、僕はこの味も結構好きだけど。

 お姫様を起こさなきゃー。でも、ひきこもりだからいっか。けどなー、お姫様分が欲しいなー。お姫様分って何? お姫様の養分? なんか違う。とりあえず、お姫様を見て、エネルギーを補給したい。お姫様の姿が僕の一日の活力だ―。多分絶対。

 というわけで歯磨きしよう。顔を洗おう。洗面所へレッツゴー。着いた。ぐちゅぐちゅ。がらがらー。ぺっ。がしゃがしゃがしゃがしゃがしゃがしゃがしゃがしゃ。ごきゅごきゅ。おえー。ぺっ。ぺちゃぺちゃー。歯磨き終了。完璧。完全無欠。まさにパーフェクト。何がパーフェクトなのかは僕の脳内精霊Dさんに訊いてください。

 というか、何でぐちゅぐちゅとかわざわざ描写したんだろう? 寝起きだから? じゃあ仕方ない。わっはっは。僕のめまぐるしいテンションの移り変わりに辟易するぜー。辟易、ってどういう意味だったっけ? そんな僕に辟易するよ! 意味わからないけどね!

 ……あー、目が覚めてきた。世界が少しずつ鮮明になっていく。もやが晴れる。視界の端にあった何かが消える。視界が広くなる。頭が冴える。いや、目が覚めているときも、冴えてはいないか。僕の今の苗字は冴輝だけどね!

 次は着替えかな? 着替える。着替えた。一瞬で着替えた気がした。それは描写の問題だ。いや、描写ってなんだよ。

 そして、お姫様の寝顔を見る。……あ、僕の部屋がここだから、ここに制服とかがあります。だからここで着替えました。お姫様がぐっすり寝ているけど、そんなことは関係ない。というか、僕の部屋とかないよね。ちょっと前まで、僕は一人暮らしだったんだから、わざわざ部屋分けする意味がない。いやまあ、したんだけどね。

 寝ているときも可憐だ。可愛い。純真無垢、って感じだ。たまにある『むぅっ』とか、『うぅん』とか言いながらの寝返りもまたそそらされる。犯罪に走りってしまいそう。もう誘拐はしているんだけど。

 そして、極稀にある『誘拐犯のくせに……』って呟きが一番破壊力が大きい。寝言でまで僕のことを気にかけてくれる、超嬉しい。気にかけてもらえる、それがこんなに嬉しいことだって教えてくれたのはお姫様だ。これまでは、気にかけてなんか、もらえなかった。いや、忌み嫌われたことはあったけど、それは気にかけるとはちょっと違うと思う。

 お姫様を起こすのもなんかなー。なので、起こさない。寝るのを邪魔するなんて、かわいそうじゃないか。僕は自分の勝手でお姫様を誘拐した。なら、それ以外はお姫様のために。自分の勝手なんかすべて無視して、お姫様のために生きるべきだ。なんか意味がわからないけど、そういう意味だ。僕はお姫様のために生きている。僕は、お姫様のためだけに生きている。そういうことだ。だから、お姫様の安眠を妨害するなんてことはできない。少なくとも今は、そう思う。

 だけど……、

 僕はお姫様の耳元に顔を寄せた。

「いってきます」

 と、小さな声で、起きない程度の声で、言った。

「ぅぅん」と、お姫様が身をよじらせる。それに僕は微笑んで、ドアに手をかけ、開けて、部屋から出る直前にもう一度「いってきます」と、言う。

 ……だけど、これくらいなら、いいよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ