S1-3
黙っている僕にさくらさんは、優しく言葉をかけた。『あなた、高校生でしょ。どうしてこんなところにいるの?近くに学校なんてないわよね』
『…ただなんとなく、歩いてたらここにきちゃって』
僕は小さな声でさくらさんに答えた。
『そうなの。私はここがとても大好きでね。よくくるんだ。なんか、こう心が安まるって感じかな』
確かにここの公園にはあまり人がこない。とても無機質な印象を受ける。何もないから、心がやすまる。さくらさんの言葉に納得できる。
『あなたも時々ここにくるといいわ。でも、寄り道はあまりよくないわよ』
さくらさんの優しい口調で僕にそう言った。
よくわからないけど、お姉ちゃんがいたら、こういう感じなのかなぁ、僕はそんなことを考えていた。さくらさんはさらに言葉を続ける。
『あと、これも』
そういうと、さくらさんはいきなり、僕の制服のポケットに手を入れた。一瞬のできごとだった。さくらさんの手には僕の煙草が握られていた。
『…どうしてわかったんですか?』
『さっき、貴方私に傘を渡してくれたでしょ。その時にね、貴方の指から煙草の匂いがしたの』
僕は、言い訳をすることが出来ずただ黙っているしかなかった。
でも、さくらさんは怒る素振りを全く見せず僕に話しかける。『私、そういうの敏感なのよ。衣類からは雨のせいか、匂いはしなかったけど…それとも匂いがつかないように気をつけてるのかしら』そういうとさくらさんは煙草に火をつける
『でもね、指につく煙草の匂いだけは、なかなか消えないのよ。私はそれが嫌であまり吸わないんだけどね。』
さくらさんが煙草を吸う姿はとても大人な雰囲気を醸し出していた。僕はその姿を、じっと見ることしかできない。するとさくらさんは思いがけない言葉を口にする
『あなたも吸う?』
『…いいんですか』
『もともと、これは貴方のじゃない。それに、私学校の先生じゃないし、吸いたいなら吸いなさい』
僕は黙って煙草を受け取った。