表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

第3話:黄金の田畑計画(土壌改善の魔法)

「……これは、ひどいな。前世の不毛な会議室より不毛だぞ」

生後四ヶ月。俺は母・志乃の背中に揺られながら、不知火領の「メインバンク」である田畑を視察していた。

眼前に広がるのは、ひび割れ、痩せ細った土。稲はひょろひょろと頼りなく、まるでお局社員の嫌味のようにトゲトゲしく逆立っている。

(構造解析開始。……あぁ、やっぱりな)

【対象:不知火領・中央耕作地】

土壌状態: 強酸性(積雪と火山灰の影響)。

栄養素: 窒素・リン酸・カリウム、すべてにおいて欠乏。

水利: 垂れ流しの未整備水路。泥が詰まって循環率20%。

予測収穫量: 例年の半分以下。……餓死ルート確定。

「鋼、見てごらんなさい。今年も、お米が育つのは難しそうですね……」

志乃が悲しげに、俺の小さな手を握る。

隣では父・鉄山と家臣の権蔵が、泥にまみれて絶望していた。

「殿、やはりこの土地は呪われております。どれほど肥えを撒いても、土が力を吸い取ってしまう……」

(呪いじゃない。ただの『pH値(水素イオン指数)』の問題だ)

戦国時代の農民は知らない。雪国特有の酸性土壌が、植物の根を焼いていることを。

そして、それを「中和」する術が、すぐそこにあることも。

俺は志乃の肩を叩き、「あぅ! あーう!」と声を上げた。

そして、あらかじめ用意させていた「石灰石の粉末」と、鍛冶場で出た「木灰もくはい」の入った袋を指さす。

「若君? また何か、お考えが?」

権蔵が、鍛冶場での一件以来、俺を「神童」として崇めるような目で見つめてくる。

俺は志乃の背中から身を乗り出し、あぜ道に落ちていた枝を拾った。

そして、地面に「大きな円」と「四角いマス目」を描く。

(いいか、まずは土壌改良だ。石灰と灰をこの比率で混ぜて、土に漉き込め。これで酸性を中和する。……それから、これだ)

俺は次に、複雑な「水路のバイパス計画図」を描き込んだ。

今のままでは、冷たい雪解け水が直接田んぼに入り、稲が「冷害」で死ぬ。

一度、浅い池(温水溜め)を経由させることで、水の温度を上げてから流し込む——現代の寒冷地農業の基礎知識だ。

「……殿。若君が描かれたこの図、もしや水の流れを変えろと?」

権蔵が図面を読み解こうと必死に目を凝らす。

「それだけではないぞ、権蔵。……この白い粉(石灰)を土に撒けと仰せだ。……狂気の沙汰に見えるが、あの刀を作らせた鋼のことだ。何か、ことわりがあるはずだ!」

鉄山が決断した。

「よし、全領民を集めろ! 鋼の図面通りに、この田を掘り返すぞ!」

それからの不知火領は、鍛冶場の時以上の騒動になった。

「赤ん坊の言う通りに土を白く染めてどうする」「先祖代々のやり方を変えるなど」と反発する老農夫たち。

(……あぁ、どこの世界にもいるな。新しいシステム導入に反対する現場のベテラン勢)

俺は志乃に抱かれながら、反対派の筆頭である老農夫の前に立ち、じっとその目を見据えた。

そして、彼が持っている「ボロボロの鍬」を指さし、昨日弥助に作らせた「最新型の鋼の鍬」を差し出させた。

(御託はいい。ツールの性能差を体感しろ。それが一番のプレゼンだ)

新しい鍬を振るった老農夫は、その吸い込まれるような土離れの良さに絶句した。

「……こ、これは……力が要らねえ。吸い付くように土が返る……!」

(よし、デモンストレーション成功。次は実務だ)

一ヶ月後。

石灰で中和され、温かい水が循環し始めた不知火領の田んぼは、劇的な変化を遂げた。

稲の緑は深く、茎は太く、まるで別の土地から持ってきたかのように力強く根を張っている。

「……信じられん。土が、生き返っておる」

鉄山が震える手で稲に触れる。

さらに俺は、あぜ道に「大豆」を植えるよう指示した(根粒菌による窒素固定だ)。

これも現代では常識だが、戦国時代では魔法に等しい。

「若君……あなたは、本当に、我らを救うために遣わされたお方だ……!」

領民たちが田んぼに跪き、俺に向かって手を合わせる。

(いや、ただの効率化オプティマイズなんだけどな……。……まあ、いいか。これで冬のボーナス(備蓄米)は確保できそうだ)

だが、不知火領が「豊か」になり始めたという情報は、当然、壁の向こうにも漏れる。

「殿! 隣領の村上家より使者が! 『不知火が隠し銀山を見つけたとの噂あり、直ちに釈明に参れ』とのことにございます!」

権蔵の報告に、屋敷の空気が凍りついた。

軍事介入の口実——。典型的な「強引な買収案件」だ。

俺は志乃の胸元で、ふっと口角を上げた。

(……いいだろう。技術の次は、コンサルティング(軍略)の時間だ。諸葛孔明の兵法、戦国の脳筋どもに叩き込んでやるよ)

生後五ヶ月。

不知火鋼、いよいよ「乱世の交渉術(合戦)」に乗り出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ