そのひと手間が大事なんです
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悠希には、今回の「νガンダム」を組み立てるにあたり、最初からに決めていることがあった。
この「νガンダム」は、劇中、宇宙空間でしか戦闘をしていない。
それなので本組のときには、外装の装甲パーツに、1200番の細かいスポンジヤスリを掛けて、面をきれいに整えてから塗装する。
そのときウエザリングはせずに、ラッカー系のプライマーを吹いてから、水性アクリルのホワイトカラーを塗装して、さらに水転写式デカールを貼ったあとに、硬質な質感を出すために、あえて艶消しクリア塗装をする。
但し、それをする前に、もうひと手間することがある。
それは悠希だけでなく、多くの「ガンプラ」のモデラーがしていることが、「合わせ目消し」だ。
この「合わせ目」とは、脚部や腕部の合わせパーツの、2つを左右に挟んだときにできる隙間のことである。
これを埋めるために、合わせ目に速乾性のセメント接着剤。緑色のキャップのタミヤセメント (流し込みタイプ) で接着する。
このときのポイントは、左右のバーツ同士を完全に合わせ込む前に、少しだけ厚みのある紙を挟んではめ込み、その敢えて作った隙間にセメント接着剤を流すことで、ここも毛細管現象でセメント接着剤が流れて広がっていく。
その上で、完全に左右のパーツを、しっかりと合わせ込むわけだが、これによってパーツが溶けて、しっかりと接着されるというわけだ。
ちなみに、このパーツが溶けて出てきたところを、プラモ業界では「むにゅ」っと言う。
この乾燥には、最低でも3時間。出来れば6時間は必要だ。
この際、セメント接着剤の乾燥後に、もしまだ大きな隙間があるようなら、そこに瞬間接着剤。「タミヤ・イージーサンディング」を流し入れて、その隙間を埋める。
そしてセメント接着剤が乾燥してはみ出した「むにゅ」のバリは、デザインナイフを使って削る。
これには、「マジ・スク」という、セラミック刃のデザインナイフがおすすめだ。
その理由は、刃に厚みがあり、バリなどを、鰹節を削るように削れるからだ。
あとはスポンジヤスリを、400番 → 600番 → 800番 → 1000番と掛けて、表面を整える。
あとは、出た削り粉を、超音波洗浄機に掛けてきれいにするのだが、それ以外のパーツも部分ごとに組み上げた状態で、洗剤で洗って脱脂をする。
なぜなら、塗装をする上で、油分は塗料を弾く大敵だからだ。
そして、この塗装には、次の「スミ入れ」の工程のためにも重要である。
この「スミ入れ」とは、プラモデルのパネルラインの細い溝に色を入れていくことで、直接色を塗るのではなく、毛細管現象を利用したものだ。
毛細管現象とは、溝の細さによって液体が吸い込まれる現象のことで、細い隙間や細い溝。また細い管に液体が触れると、液体が自動的に吸い込まれていく現象のこと。
もっとわかりやすくいうと、ストローを水に入れたときに、水が少し上に上がるのと同じ現象のことだ。
それなので、スミ入れのサラサラの低粘度の塗料が、パネルラインは細い溝や溝の壁に塗料が引っ張られて、そのまま溝に沿って広がっていく。
つまり、溝が細いほど、スミ入れはよく走る。
今回のVer.Kaのような、パネルラインが極細のものには、この上ないほど最適なのだ。
この「スミ入れ」には、黒ではなく、少し色を下げた、限りなく黒に近いグレーを使用する。
塗料は、「スミ入れ」専用の極細の筆が付いたエナメル塗料を使うが、ABS樹脂には、割れの原因にもなるので、スミ入れをするバーツは塗装をした状態というのが絶対条件となるが、もっとも安全性が高い、ラッカー系のプライマーを下地にするので問題ない。
他にエナメル塗料のメリットとしては、乾燥が遅いので、調整しやすい。
「スミ入れ」の調色も、別のプラ板に、すじ彫り道具の「ファンテックのスジボリカーバイト」という、すじ彫りタガネを使って、細い溝を彫ってから、同じように塗装して、そこに色を入れてみながら調整した。
これが「νガンダム」の全体の外観に、自分がイメージする最適な陰影を与えることになるので、この事前のテストはかなり重要である。
また、このすじ彫りタガネのサイズには、0.15mmがおすすめだ。
また塗装に関しては、内部のサイコフレームの塗装もある。
サイコフレームのパーツは、初めからメタリックグリーンのパーツになってはいるが、もう少しサイコフレームのメタリック感を強くするために、調色して塗装する。
前になにかクルマの動画で、元美容師のクルマ関連の仕事をされている方が、「メタリック」のことを「ラメ」と言っていたが、「それは意味が違う」と思った。
その前に、一度、全部組み上げてみてから、全体像を確認する。
この仮組みをするだけでも、7時間は掛かった。
そして、このVer.Kaの象徴ともいえるのが、マーキング・デカールが、多いことだ。
この大量の水転写デカールには、コーションマーク、機体番号、部隊章、警告表示などがある。
これらが貼られることで、「実在する兵器のような説得力」が生まれるのだが、悠希はこの水転写式デカールを貼るのが、ちょっと苦手だ。
ピンセットと綿棒を使って貼るのだが、ズレずに真っ直ぐに貼るのは難しい。
デカールも、一度位置を決めて貼ってしまえば、あとは触らない。
但し、触ったからといって、位置がズレるというわけではない。
塗装に関しては、サイコフレームのメタリックグリーンの調色も同じだ。
外装パーツに隠れて、ほとんど見えないところではあるが、Ver.Kaは、内部フレームが露出する構造なので、装甲の隙間やスライド装甲。発動モードの展開などで内部が見えるようになっている。
最初の組み立てで、全体像を確認したのは、可動と重量バランスの両立がシビアだという話を聞いたからだ。
フィン・ファンネルを背負った状態での自立は可能だが、組み方が甘いと後ろに倒れやすいので、関節の渋み調整が重要ということらしい。
発動モードの組み立ても、精度が要求される。
装甲スライドや展開ギミックが多く、ゲート処理やパーツのはめ込み具合が雑だと、スムーズに動かずに干渉するとのことだ。
それなので、最初の仮組みのときに、それを確認しておいた。
可動部のはめ込み部分を調整しすぎると、今度は逆に緩くなってしまう。
ここは、慎重な調整が必要だ。
バリはきれいに整えるが、同じ位置で固定しておくための摩擦力は確保しておく。
そうしなければ、お気に入りのポーズを取らせることは出来ない。
今回の追加塗装によって、可動部分の厚みが増して、動きが渋くなるかも知れないことを考慮して、内部フレームの可動部分の接合部となるところには、初めからマスキングをしてから、調色したメタリックグリーンを塗装した。
プラモデルの塗装で、面倒にのは、パーツを全部組んだ状態で塗装するのではなく、パーツごとに組んだ、半分バラバラの状態で塗装するということだ。
それなので、塗装するためにクリップの付いた竹串のような「持ち手」を使って、パーツを浮かせたような状態にして、エアブラシで塗装する。
塗装は、もちろん風のない室内でしなければならないので、換気しながらできる、小さな「塗装ブース」のような設備もあれば、尚良しだ。
そして重要なのは、乾燥も焦らずに、次の行程までに、十分に時間を置くことである。
今日は、仮組したのを一度バラシて、この本組の内部フレームの合わせ目消しまでで、また8時間掛かった。
結局、また丸二日間をプラモデル作りに使ったわけである。
こうなると、悠希には友だちが一人もいないように思われるが、そんなことはない。
二週続けて、仕事が休みの土日にプラモデル作りをすることはよくあることだが、来週は友だちと出かける約束をしていた。




