ようこそわが家へ
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次の日曜日。早速、松下さんと息子の大樹くんを家に招待した。
「どうぞどうぞ」
と、2階にある自分の部屋に二人を案内する。
部屋の中は、昨日のうちにきれいに片付けておいた。
悠希の部屋の前に来て、松下さんが立ち止まる。その視線の先は、ドアに貼られた、「あの金属プレート」だ。
「女子プラモ部?」
「あっ!?」
松下さんに、自分が「大のプラモ好き」なことは話しているが、このことは話してはいない。
「なにこれ!? 面白ーーい! ねぇ、写真撮ってもいい?」
そう聞いてきた。
「えっ!? えぇ……はい」
これは予想外の反応だった。絶対にドン引きされると思っていた。
「ねぇ、この写真。遥香に送ってもいい?」
「は……はい。別にかまいませんが……」
「あなた。やっぱり、面白いわ」
松下さんは、妙に納得した感じでそう言った。
「どうぞ」
と、部屋の中に案内する。
7畳ほどの部屋の中は、まったく女子の部屋という感じはなく、完成されたプラモデルたちが、ところ狭しと飾られている。
「凄いわね」
松下さんは、悠希の部屋の中を見て、感心した様子だ。
「スゴーーイ!」
大樹くんも、興味津々に部屋のあちこちを見渡す。
作業台のような机の上には、組み立て開始から2週間以上経ってはいるが、まだ製作が終わっていない、1/8スケールモデルの、全長が62.3cm×23.1cmという圧巻のサイズの「ファイアーバード・トランザム」が置かれている。
「大ーっきいー! なにこれ!? これもプラモデルなの?」
「はい。そうです。アメリカ製の……」
そう言うと、大樹くんが手を伸ばして、触ろうとする。
「ダメ! 触っちゃ!」
そう母親に言われて、大樹くんは慌てて手を引っ込める。
「だって、このプラモデル、高いんでしょ?」
まず、松下さんが気になったのは値段のようだ。
「まぁ……。大体、2万5千円ちょっとはしました」
正直に答える。
「ほら、高級品じゃない」
「いや。別に、高級品というわけでは……」
一応、謙遜して答える。
「でも、安くはないでしょ?」
更に、聞いてくる。
「はい……。高いです」
最後に、正直に答えた。
「いい。大樹。これはお姉ちゃんの大事なプラモデルだから、触っちゃダメよ」
そう、松下さんは、大樹くんに言い聞かせる。
大樹くんも、「うん。わかった」と素直に返事をした。
「それじゃ、色塗りやってみよっか。持ってきたプラモデル見せて」
そう悠希が聞くと、大樹くんは持っていたリュックサックから、プラモデルの箱を取り出した。
「わぁー。シャア専用ズゴックだ! 大樹くん、シブい!」
悠希は、大樹くんがこれを選んだセンスに声を上げた。
「なに!? これって、シブいの?」
悠希のこの反応に、母親の松下さんの方が聞いてくる。
「はい。シャアザクは有名ですけど、これはシブいです」
そう言ったが、松下さんはちんぷんかんぷんなようだ。
「ちょっと、なにを言っているのかわからないわ」
そう言われた。
「それじゃ、その説明とか、要ります?」
そうは言ったが、大樹くんも首をひねっている。
「要らない……みたいですね」
そうみたいだ。
「勘違いしないでね。これがなにか有名なのはわかった。それがシブいんでしょ?」
「そうです!」
悠希にも、その答えで十分だった。
「でも、このプラモデル。色塗りを教えてほしいと言ったけど、最初から色は、ピンクみたいな色に塗られているわよね」
「そうですね。これは成形色再現キット、わかりやすく言うと、色分け済みキットですから」
「だったら、本当は、色塗りは必要ない?」
松下さんは、ちょっと神妙に聞いてくる。
「そんなことないです。もっとカッコよくするなら、色塗りは必要です」
「なら、このまま教えてもらっていいのね?」
「もちろんです! それじゃ、大樹くん。組み立てからやってみようか。これはスナップフィットじゃないから、ニッパーが必要で……まずは説明書通り、必要なパーツを切り出してみようか」
悠希は大樹くんに、紙やすりを使った細かい仕上がりの為の下準備から教えていく。
松下さんも、その悠希に習うように、大樹くんと一緒にプラモデルを組み立てていく。
そして最後が、念願の色塗りだ。これがエアブラシなら、組み立てたあとに一度バラして、塗装するのだが、今回は筆塗りなので、敢えて汚れた感じを出すための「ウエザリング」をする。
使用するのは、タミヤの「ウエザリングマスターという、パウダー状の塗料だ。
「ちょっと、やってみせるね。この箱の絵を参考に、ちょっと汚れた感じを出すの」
そう言って、実演して見せる。
パッケージの箱の絵にある、水辺に立っている、「赤いシャア専用のズゴック」だ。
悠希は、パッケージの絵を真似て、なんとなく塗っただけだったが、それでもなんだか本物のような雰囲気が増す。
「このウエザリングのポイントはね。塗り過ぎないこと」
そう最後に、付け加えた。
まずは、母親の松下さんがやってみて、そのあと大樹くんがやってみる。
「大樹。そこまで、そこまで」
松下さんは、大樹くんが塗り過ぎないように、時々ブレーキを掛ける。
初めての「ウエザリング」にしては、十分に上出来だと思う。
「二人とも、上手いです!」
お世辞抜きで、そう言った。
大樹くんも松下さんも、この仕上がりに、十分満足しているようだ。
二人とも満足した笑顔で、悠希に「ありがとう」と言って帰っていった。
これで、逸る気持ちを抑えながら、来週は「ファイアーバード・トランザム」の塗装である。




