プラモデルは、お好きですか
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そして休み明け月曜日のお昼休み。自分のデスクでお弁当を食べようとした悠希は、2つ離れた席の松下希実さんの机の上に、全長12cm、おそらく1/144スケールのガンダムのプラモデルが飾られていることに気づいた。
そうなると、居ても立ってもいられない。
自分のデスクから、そのガンダムのプラモデルを覗き込みながら、お弁当のご飯とおかずを口の中に運ぶ。
悠希がお昼ご飯をお弁当にしているのは、もちろんプラモデルの為だ。
プラモデルを作るには、やはりそれなりにお金が掛かる。
周りの女子たちは、ファッションや美容にお金を使っているが、どうしても化粧 = 塗装をイメージしてしまう。
それなので悠希の化粧は、本当に最低限のものでファンデーションもかなり薄い為、それが功を奏してか、周りにいた女子たちからは、全然化粧荒れしていなくて肌がきれいだと羨ましがられてきた。
そんなことより、松下さんは、たぶんもう少しでみんなと一緒にランチから戻ってくるはずだ。
早くあのガンダムのプラモデルのことについて聞きたい。
そう思って、椅子を前後に揺らしていると、松下さんが戻ってきた。
逸る気持ちを抑えて、ゆっくりとデスクに戻った松下さんに近づく。
「あの……松下さん。ちょーっと教えてほしいんですけど。いいですか?」
こんな聞き方だと、怪しさ全開だ。
それでも松下さんは、優しく返事をしてくれる。
「ん。なに? 仕事でわからないところ?」
「いや。違うんです。それ、気になっちゃって」
そう言って、デスクの上に飾られているガンダムのプラモデルを指差す。
「それ、ガンプラですよね? どうして?」
「ああ。これ? 子どもにもらったの」
「子ども!? 松下さん、お子さんがいたんですか!?」
「そうよ。あたし何歳だと思ってんの? もう30歳よ。子どもの一人ぐらいいるわ」
その30歳だからといって、子どもがいるという道理はないが、それでも意外な感じがして驚いた。
「あの……まさか……」
それなので、悪い方の想像もしてしまった。
「まさか、シングルマザーだとか、そう思った?」
肝心なところを聞く前に先回りされた。
「す、すみません!」
「大丈夫よ。ちゃんと子ども父親と3人で暮らしてるし、幸せの家庭してるわよ」
「そ、そーなんですね。それじゃ、そのプラモデルは旦那さんが教えて、お子さんが作ったんですか?」
「違うわよ。あたしが教えたの」
「えっ、えっ、えっ!? どーして!?」
「どーしてって、こんなの子どもに夏休みの工作教えるのと一緒じゃない。特に道具も必要なかったしね」
「ああ。スナップフィットですね」
なんの迷いもなしに、専門用語で答える。
「あら。あなた詳しいのね。プラモ好きなの?」
そう聞かれて、悠希から出てくる答えは一つしかない。
「はい。好きです!」
「あら、そう。やっぱり」
思ってもみなかった言葉が返ってくる。
「やっぱり!? やっぱりって、どういうことですか!?」
ひょっとして、完ぺきに隠していたつもりだったがバレていた。
「だって、あなた休憩時間とかお昼休みにプラモデル作りの動画、よく見てたじゃない」
「えーーーっ!? なんで知ってるんですかぁーー!?」
それを見ていたときは、極力バレないように画面を他の人に見えないようにしていた。
「だって、ライナーだっけ? あの枠組みから、プラモを切り離すしぐさしてたじゃない」
どうやら、無意識にその動きをしていたようだ。
「あっ、あの……。みんなには内緒にしてもらえませんか」
そう。頭を下げてお願いする。
「別にいいけど。そんなに隠すようなことでもないと思うけど」
「いや。あんまりそういうのは、変な子だと思われるかねないので」
これが知れて、みんなにドン引きされても困る。
「あら、そう。あなた、十分に変よ」
そう言われた。
「えっ!? どーいうことですか!?」
「どういうこともなにも、あなた、良くも悪くもオタク」
「オタク!? いや。そこまでは」
こう言ってはなんだが、そこまで入れ込んでいるわけではない。そのはずだ。
「あっ、ごめんごめん。そういう意味じゃなくて、どこか中二病的な。あっ、これも言い方が良くないわね。あなた、どこか純粋なのよ。まだ擦れてないっていうか」
「世間知らずってことですか?」
確かに、プラモやアニメなんかは好きだが、わりとしっかりしている方だと自分では思っている。
「そうじゃなくて、もう独り立ちした社会人なんだから、もっと自分の趣味にも自信持ってもいいんじゃない」
そう言われた。
悠希はそう言われて、なんだか肩に入っていた力が抜けた。




