女子プラモ部は、まだ一人
最初に、ep.1~ep.6までを、2日連続で一気に投稿致します。
「よーーし! よし! よし!」
小日向悠希は、堂々と自分の部屋のドアに貼った金属プレートを見て、ニヤニヤしていた。
その特注の金属プレートには『女子プラモ部』と彫られている。
さらになにを隠そう、この特注品は「彫り物の一品物」ではなく、「大量生産」も可能な原盤がある「鋳型」なのだ。
実際のところ、金属のプレートに、コンピューター制御で文字を彫ってもらうより、「原版の鋳型」を作ってもらう方が材料も手間も掛かる分だけ高くつく。
それでも悠希は「鋳型」を選んだ。そうすれば、これから全国で「部員」が増えたときに、金属以外でなら自分でも作ることも出来る。
だから『女子プラモ部』とはあるが、現在の「部員」は悠希ただ一人だ。
そんな悠希がプラモデルに目覚めたのは、小学校六年生のとき。よく遊んでくれていた、当時まだ二十六歳の父の弟が、ガンダムのプラモデルをくれた。それが始まりである。
では、何故叔父がガンダムのプラモデルを女の子である悠希にあげたかというと、それは叔父が「プロのモデラー」だったからである。
そのとき叔父がくれたのは、ニッパーも接着剤もいらない「スナップフィット」という種類のものだった。
叔父は、優しく丁寧に、悠希にプラモデルの作り方を教えてくれた。
悠希は、そのプラモデルが出来ていく中で、なんだか新しい命が吹き込まれていくような気がした。
完成したガンダムにいろいろなポージングをさせてみると、本当に生きているような気がする。
これは小さい頃のお人形遊びとは全然違うものだ。
自分の手で完成させたから、なんだか達成感もある。
そんな些細な理由から、プラモデル作りに徐々にハマっていった。
但し、このことは女子にも男子にも秘密にしなければならない。
何故なら、プラモデル作りをしている女子はもちろん、男子でもプラモデル作りをしているのが、まわりに一人もいなかったからだ。
このことがバレてしまうと、もしかしたら変な子だと思われるかもしれない。
だから、注意が必要だった。
だけど現在は違う。SNSを見渡すと、いろんなところで「プラモ女子」を見かける。
現在はコアな世界の「プラモ作り」も、自分の周囲以外の世界を見回せば、同じ様な仲間たちは沢山いた。
『女子プラモ部』に限定したのは、男子が入ると自分の中の世界観が壊れるのではと思ったからだ。
そんな悠希は、大学を卒業したばかりの新社会人である。
就職先の仕事は総務の事務職で、いまのところは特に当たり障りのない仕事と思われる。
入社から、使用期間の3ヵ月も過ぎたので、仕事の方もそれなりにわかって落ち着いてきた。
だから、唯一の趣味のプラモ作りも久々の再開だ。
この間、自分では作らなかったが、InstagramやYouTubeでは沢山見た。
そんなに我慢しないで作ればいいと思うかもしれないが、本当の楽しみは後に取っておいた方が、プラモが完成したときの喜びが最高である。
そんな悠希が、約3ヵ月ぶりのプラモ作りに選んだのは、1977年のハリウッド映画『トランザム7000』の劇駐車、ファイアーバード・トランザムの1/8スケールモデルだ。
普通のこのトランザムのプラモデルは、1/24スケールか、1/18スケールが一般的なのだが、その全長と全幅も、約20.8cm×約7.7cmと約27.7cm×10.3cmから。
それが1/8スケールモデルとなると更に大きくなって、全長が62.3cm×23.1cmと、3倍・2倍の圧巻のサイズとなり、そのお値段も2万5千円を超える。
ちなみに、この日本でも人気だった名作『トランザム7000』のあらすじは、実に軽快・軽妙だ。
伝説のトラッカーのバンディットが、ある日、大富豪から、これまで誰一人として出来ていない「28時間以内にクアーズビール400ケースの密輸」を依頼される。
そして「もし成功したなら、報酬8万ドルをくれてやる」という無茶な賭けから始まるカーチェイスの映画だ。
バート・レイノルズ演じる主人公のバンディットは、黒いポンティアック・ファイアーバード・トランザムを駆って、相棒のスノーマンのトレーラーと共にハイウェイを縦横無尽に大爆走する。
ところが道中に、結婚式から逃げてきた花嫁キャリーを拾ったことで事態は急展開!
花嫁の婚約者のジュニアと、その父で保安官のジャスティスが激怒し、
パトカー軍団を率いてバンディットの駆るトランザムを猛追撃するのだ。
逃げるバンディットの駆るトランザムと、激しい追跡で壊れるパトカー。
仲間のトラック野郎たちの助けも入り、アメリカ南部を舞台にした ドタバタ爆走ロードムービー が展開される。
果たしてバンディットは、制限時間内にビールを届けられるのか?
というのが、大まかなストーリーの流れだ。
もしも、ご興味があれは、無料動画や安く新品のDVDも販売されているのでご覧になってみてください。
尚、この劇中車の1977 Pontiac Firebird Trans Am の仕様は、カマロと共通のGM Fボディに、トランザムはエアロパーツを装備した最上位モデル。
エンジンは6.6L V8(W72型)のラムエア仕様で335馬力のFR駆動。
トランスミッションは、4速ATと、まさにアメリカンマッスルカーなのだ。
今回は、その劇中車のファイアーバード・トランザムを再現した、1/8スケールモデルを作ろうというわけだ。
まず英語の説明書を見ながら、順番通りにランナーから必要なパーツを切り出していく。
切った箇所に残ったバリは、後でヤスリを掛けてきれいに整える。
悠希は、この地味な作業が何気に好きだった。
今回の最大の難関は、実写のような再現と経年劣化を感じさせるボディーの塗装になるのだが、その前に車内の方も経年劣化によるヤレを表現したいと思っている。
それなので、ダッシュボードのところは粗めの耐水ペーパーを掛けて表面にザラツキを付けたあと、筆塗りで2回塗って少し劣化した質感を作った。
シートも一度エアブラシで塗ったあとに細い筆を3種類使って、少しヤレた質感を出した。
そして最大のポイントであるボディーの塗装だが、これが凄く難しい。
中学生のときに叔父さんに教えてもらいながら初めてしてみたときは、しっかりと失敗してしまい、叔父さんにリカバリーしてもらった。
今回は、車のプラモデルの塗装を劣化したように見せるカラーモジュレーションをするわけだが、ボンネットや屋根など、日光が当たりやすい面だけに、基本色に白を混ぜた明るい色を軽く吹き付ける。
これにより、塗装が日焼けで薄くなった表情が出るのだが、黒は非常に難しい色で、白を混ぜると一気にグレーになってしまい、黒色を強く残したまま退色感を出すことができない。
それなので、黒に白を混ぜるのではなく、黒 → ごく薄いグレーのニュートラルグレーを極薄く吹いて、日焼けというより「光の当たり方」を表現する方法を採ることにした。
この方が、車のスケールモデルでは最も自然に見える。
その前に、ボディー全体に耐水ペーパーを掛けてきれいに整えたあと、ABS樹脂製のボディーの外装パーツを溶かさないように、ラッカー系の塗料を塗っておく。
これはカラーモジュレーションだけでなく、最後にウェザリングという泥汚れなどを表現する為にも必要な工程である。
塗装の重ね塗り順は、ラッカー系の下地塗装→水性アクリル塗装→エナメル塗料でのウェザリング」の順で塗るのが一般的だ。
今回は劇中車の「スターライトブラック」の完全な黒ではなく、わずかに青みを含む深いブラックを表現する為に、それに似たブルーブラックのアクリル塗料色を調合して塗装する。
その上に光の当たり方で濡れたような黒に見えるように、ウレタンクリア塗装をするつもりだ。
但し、最後のウェザリングを施す前に、ベース塗装を十分に乾燥させる為には、最低1週間以上が目安となるのだが、今回はウレタンクリアも塗装するので、ボディーの塗装の仕上げには2週間以上は優に掛かる予定だ。
ここがプラモデル制作を知れば知るほど、簡単なように見えて奥が深い話なのである。




