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ヒトガタの赤は、ロボットに電気羊の夢を見せるだろうか?

進め、進め、進め

とにかく、前へ。彼の地の先へ。

阻むものなど、恐るるに足らず。拒むものなど、生かすに足らず。

進め、攻めろ、突撃せよ。祖国のために、我らのために。


そう謳い進み続けていた男が先日戦死した。死因は銃殺だった。敵国にとっても厄介な相手だったらしい彼は、死後兵士たちによって遺体を汚され晒されることになった。四肢は切り取り、腹部は開いて中身も飾り、切った四肢を突き刺して、最後に頭部を苺のショートケーキのように乗せたのだ。余程、こちらの士気を保つ存在を倒せたのが嬉しかったらしい。


俺は、腕の中を見下ろしながらまた思い返す。彼とは、確か士官学校からの付き合いだった。顔に似合わず陽気な男で、訓練だけでなく、些細な気配りまで実直にこなし、それでいて模擬戦で敵に回ったときは勝つためになんでも行い地面に転がる俺を不敵な笑顔で見下ろす男だった。そして、あの頃の彼は「えらく」なることに固執していた記憶がある。「えらく」なって辺境にある故郷の家族に良い暮らしをさせてやりたいと、遊女の頬より赤い顔で笑っていた。他国が経済に失敗して、その影響で祖国も貧乏になってしまったがゆえに戦争が始まったときも、彼は意気揚々と「えらく」なれるぞと勇んでいたがゆえに俺たちは、多少呑気な気持ちでいたのだ。


そんな「えらく」なりたい彼の表情が「えらく(つらく)」なってしまったのは、戦争が始まって1年がたった時だった。我が国は一度の敗退によって不利になってしまったがゆえか、次の戦地は彼の故郷だったのだ。ここが占領地となってしまう前に、敵を倒して住民を守る。それが俺たちに課された役目だった。何人かの犠牲を出しつつも、無事に守れていた。そこには彼の家族もいたし、幼馴染と言いながら破顔する女もいた。彼も、任務開始時の不安げな表情はどこへいったのか、あの者のように暖かくいつもより穏やかな表情で女と笑っていた。上官からの帰還命令に従い船で帰る俺たちに、輝かしい笑顔と手を振っていた。


輝くような笑顔が本当に輝いて、破裂してしまったときは驚いた。遠くからとんでもない音がして、何があったのかと望遠鏡を覗き直した時、そこにいたのは赤黒い肉塊だった。煙が出ていて、よく見ると赤の中に黄色も混じっていて、それが印象的だった。でも、その時見た彼の顔の白いパーツが全て歪み、軋み、その中に埋まる目の中にある強く、美しい光には負けていた。


腕の中の黒を梳かしながら続ける。それからの彼は鬼のようだった。彼の道を阻むものも、彼の道を拒むものも全て切り捨て、撃ち殺した。「えらく」などという夢は言わなくなってしまったが、彼は敵の殲滅と彼の地とやらへの帰還に拘っていた。彼の地に対して疑問を呈するものもいたが、彼のルビーのような瞳を見てそのような問いを二度と出そうと考えるものは現れなかった。


しかし、戦場に赴かないときの彼は過去の陽気さを出しておりいつの間にか出来ていた部下たちに対して世話をよく焼いていた。その時の彼の表情は穏やかで、まるで親を思い浮かぶものだったがゆえに彼を慕わない部隊の人間はいなかった。でも、彼の顔はどこかつまらなく、人形のようだった。


人形、そう人形だった。あの日彼は死に、我が国の窮地を救うためだけの人形が一体出来上がったのだ。敵には死を、味方には生を、身内は死に、多くを生かす。人工的なようで、自然じゃないと出来上がらない祖国のための道具。


瞼を撫ぜる。本当は知っていた。あそこには敵国の新兵器が導入されていて、それを潰すために我が国が彼の故郷ごと敵を爆弾で爆破させたことも。それを敵国のせいにしたうえで、彼の地という存在しない場所を提示して彼に希望を与えたことも。全部聞いていた。それを彼に伝えたら、彼は真の仇を討てる代わりに希望を失うだろう。しかし、俺はそれを彼に伝えることは生涯なかった。


何故なら、俺も同じだったからだ。ただし、彼のように悲劇があったわけではなく生まれたときからそうあるように生きていただけだった。同じ、我が国の道具だったのだ。伝えたら、彼は道具から人に戻ってしまう。それはひどく、辛酸を舐めるような、爪を剥がして塩を塗り込むような、辛い気持ちになった。


腕の中の「彼」を見つめ続ける。彼は壊れてしまった。自力で人に戻りかけてしまったのだ。あのときの爆破にずっと疑問を持ち続け、ついに知ってしまったのだ。だから、撃った。人になる前に、壊さなければならないと思ったから。でも、あそこまで体を壊されるとは思わなかった。これじゃあ体は直せない。仕方がないが、全て取り替えるしかないだろう。


初めての同族、同じお人形。人になんてならないでおくれ。さすれば、俺は俺をやっと肯定できる気がするから。

詩から始めたかっただけ()

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