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異世界帰還事業、今日も稼働中。  作者: ウタゲ
Case:005 沼人転写
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008/008 「ただいま戻りました」

「そんなにやばい神様だったのかい?」

「ええ、力も十分な上に、根っこの部分に人間らしさがあって、そこがまたタチ悪いって感じで。」

『一応提出用にあちらの世界の歴史書などもスキャンしてきましたが、なかなかにスリリングな資料となります。』


 センター、そう呼ばれる異世界救助任務の入口にして出口。

 人波と案内音声が交錯する構内は国際空港にも似ていた。

 その建物内の一角、和洋中の香りを各々の店から登らせるフードコートで神谷はきつねうどんを啜りながら、同業の知り合いと喋っていた。


「それで、佐伯くんはあとどのくらいかかりそうかな。」

「直前の試験で耐性青でしたからね。

 まあ、あと三時間ってところじゃないですか?」


 神谷は外に出していた芋天を汁に沈め、ちらりと時計を見てからそう答える。

 時空間移動耐性の違いは、エスコーターとしての活動時間に残酷なまでに差をつけることがわかる一幕である。


「追跡もないみたいだし、先に神主さんに話も通したんだろう?」

「はい、規約に照らすだけで即縁切りなんですけどね。

 一応提出したんですが……」

『審査官が吐いたって聞きました』

「そんなに。」


 そっと、神谷に向けて柏天の皿を押し出す。

 神谷の向かいに座り、楽しそうに会話を弾ませる相手の名は、風間 四季。

 日本に十五人しかいない、甲級エスコーターの一人であり、帰還業務の最大手でもあるクロニクス・エクスパンドの社員でもある。

 クロニクス・エクスパンドは帰還作業しか行っていないクロネコ運輸と業務規模が段違いに大きい。

 異世界との通商、資材融通、研究とそこから発生する特許など、さまざまな分野に手を広げている。

 結果的に複数の事業を行う子会社を傘下に収める形の複合企業体といえた。


 そんなところでエースと呼べる地位についている風間は同じ甲級エスコーターである神谷とは仕事柄よく話す相手でもあった。

 糊が効いていると言うよりは、すっきりと角があるというようなミラノスタイルのスーツコーディネート。

 いかにも仕事ができる男という感じで、辺りの婦女子の視線は神谷を視界の外に飛ばすかのような勢いで風間に注がれていた。

 賦活している魔力による若造りも相まって、風間は常に婦女子の目線を集めている。


「しかし、神谷くんの直弟子か。

 二人目だったよね。」

「そっすね、前のあいつはまぁ、鍛えてる最中ではあったんですが。」

「今でもうちの女子社員なんかは酒の席になると良く話してるよ、あの大恋愛。」

「周りから見てる分には楽しい話ですからね。」

『一実働隊員から実質大使館レベルの窓口ですから、成功譚としても面白いのでは?』

「うん、それもあるね。」


 久しぶりに時間に余裕のある甲級エスコーター同士の会話は気楽で軽やかに進む。

 スポーツの勝ち負け、贔屓チームの選手層、読んだ本に新しくセンター内にできた甘味処。

 仕事に関する話というよりはお互いの近況報告に近いそれは、仕事のための情報交換ではなく、お互いの無事を喜び合うようなものだった。


 過酷な局地救助、それを生業にする者同士の共感のようなものであり、すり減った精神による不調はないことの互確認。

 ライバルとか同業による足の引っ張り合いなどといったものをする余裕もない業界事情は神谷、風間双方にとって逆に好ましい事態のようだ。

 お互いに余裕のある現在、仕事となれば即座に出動するため、気を抜くべき時には抜くという性質が共通しているのも、お互いの仲の良さの原因でもあるのだろう。


 食事を済ませ、フリースペースに移動して互いに話をしながらボードゲームに興ずる。

 先に申請を出した神谷を探して来た出張神主や他の休憩中のエスコーターを巻き込んでボドゲ大会が俄かに開かれた。

 そうして時間を潰し、神谷が七割の土地を占有するボードに全員が頭を突き合わせどうやって打開するか相談しあっている最中にノアから報告が来た。


『神谷さん、そろそろ。』

「お、確かにいい感じか。

 神主さん。」

「ん、もうか?」

「はい、お願いします。」


 神谷の促しに立ち上がる神主。

 ゲームは途中になるがコミュニケーションという意味では十分に機能していただろう。


「じゃあ、カザさん、お先。

 他の皆さんもまた今度。」

「うん、神谷君もまた今度一緒にご飯行こう。」

「頑張ってくださいね。」


 かけられる声を背に、神谷と神主二人で異世界移動用の部屋に向かう。

 部屋に戻れば、佐伯たちが帰ってくる予定の移動室を望むオペレーターたちも集まりはじめていた。

 移動室に設えられた祭壇に座り、祝詞の書を読み出す神主、そして万が一のために控える神谷。

 部屋に満ちる適度な緊張感。

 祝詞の読み上げが終わり、三方と呼ばれる台の上に安置されている匕首に手をかざし、神主はじっと佐伯達の帰還を待つ。

 それからしばらく、部屋の宙空に光が走り、穴が開く。

 そこから飛び出してくる人影が三つ。


 佐伯、鹿野、そして一文字沙也加の記憶を持つ、クラリッサ。

 ノアによる一瞬のスキャンで魔力変異の無いことを把握すると、神谷は「よし!」と声を出す。

 それに続き、神主の右手が匕首を掴み、裂帛の気合いと共に供物を載せる台でもある、今まで匕首を置かれていた三方(さんぽう)を真っ二つに切り割った。

 通常なら自然に閉じるはずの佐伯達が通って来た空中の穴、それが二重にブレたと思うと、耳障りな音を立てて消えていく。

 縁切りによる強制断絶、それが通路にも波及した結果だった。


 これでもう、佐伯達が先程まで居た世界は、神谷達のいるこの世界を認識することすらできなくなった。

 コピーを行うことも、佐伯達を追ってくることも、どのような方策を取ろうと、既に神谷達の世界とあの異世界とは、決して交わることはない。

 細く長く、神主が息を吐き呼吸を整えている。

 その横を歩き、神谷は帰還してきた三人に近づいた。


 神谷からしてみれば数時間ぶり、三人からしてみれば一秒も経っていない再会。

 そんな三人を確認し、神谷は鹿野とクラリッサにペットボトル入りのスポーツドリンクを差し出した。


「二人とも、おかえり。」

『お帰りなさい。』


 鹿野のための精密検査、クラリッサのための住居等登録。

 全ての準備は済んでいる。

 後は専門家に任せるだけ。

 その説明をしようとした神谷だったが、クラリッサの表情に口を閉じた。


「……醤油の匂いだ。」


 ペットボトルを受け取りながら、クラリッサがぽつりと呟く。

 宙をさまよう視線、そこに映るいかにも清潔で直線によって構成された、日本らしい部屋。

 それらを視覚と嗅覚で感じたことで、こらえきれなくなったのだろう、小刻みに震えながら、眼からぼろぼろと涙がこぼれ落ちていく。


「帰った、帰ってきたんだよぉ………うあぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 涙をぬぐうこともせず、流れる雫をそのままに床に座り込み、思いっきり泣き叫ぶ。

 おろおろと手を行ったり来たりさせる鹿野に触らないように、と神谷は制止をかけ、オペレーター室に呼んでいたカウンセラーを招いた。

 帰還は、間違いなく成功した。

 それを感じた神谷は、初めて肩にかけていたすべての重さを下した気がした。

 泣きながら鹿野に抱き着き、カウンセラーにやさしく語りかけられるクラリッサ。

 そんな二人の顔をしっかりと見つめ、目に焼き付けると後輩、佐伯の肩に神谷は手を置いた。


「お疲れ。」

「あ、はい、えっと……」


 聞きたいことはあるだろう、転移直前のアクシデントなども佐伯にとっては初めてのこと。

 だが、それを置いてまず、佐伯はいつものように自分を見てくる先輩に、警官がするように手を額につけ、敬礼をした。


「佐伯悠真! ただいま戻りました!!」


クロネコ運輸 簡易業務報告書


業務概要:帰還業務・保険適応・特異事例


対応者:係長(実働部員)神谷 隼


処理内容:

 ・現地にて要救助者を確認。召喚形式および現地住人の行動に危険性を認めたためノアによる調査を開始、情報収集中に現地の召喚者と思しき相手との会談を実行。

 ・召喚者は現地の住民でクラリッサ=エストリーヌ=ド=モンテヴィル、被召喚者は新潟在住、鹿野氏と確認。

 ・召喚者に特別な事情を検知、後述する。

 ・送還時、現地の宗教権威としても実在する高位生命体、俗称「神」と呼ばれる存在に足止めを食らう。

  その際に緊急用装備を使用、力量としては特級の変換能力を検知できたが、おそらくそれだけではないと思われる、推論はノアとあわせ別途提出。

 ・帰還後の縁切り申請及び実行に立会済。



処理内容(詳細・召喚者について):

 ・明らかに地球のことについて熟知していたように見えたため、ガイドラインに則り確認したところ日本人の記憶を保持していることが確定。

 ・本人の自覚している存在が保険対象として継続中だったため、記憶転写式であることを仮定。

  前例NRC−184763922(検索タグースワンプマン)より前例に沿った処置を提案、AI判定では可能だった。

 ・佐伯による帰還を実行、現地勢力による介入はあったが問題は無し。

 ・戸籍作成などについてはプランナーに対応依頼を連携、ノアより書類番号TE−076Aの形式で鬼塚さん経由で本日申請済。

 ・緊急避難用仮申請は適宜神谷の監視下で佐伯による申請をさせます。

  召喚被害者である鹿野氏の弁護士より、クラリッサ嬢と鹿野氏の接触要請があったため、これは鬼塚さんの方でうちの弁護士に投げてよしなにしてください。

  学生二人分のUSJのパス代とか返されても知らぬ存ぜぬで突っぱねてください。



経費・備品申請:

 ・富士山の美味しいみず2L

 ・カロリーブロック4個入り×3(個人装備)

 ・エナジードリンク1パック(個人装備)

 ・カモミールティー350ml(個人装備)



備考・その他:

 ・お行儀良くしてました、変な魔法も使ってません。

 ・個人装備は再購入時のレシートをドライブに保存しています。

 ・装備使用の報告と、補充のために神宮の方の本社殿に直接お礼を言いに行きますので、ご機嫌伺いのお水も計上しています。


確認者:社長  [承認] お疲れ様、プランナーさんとはこの前飲み会で話したので私からも話を通します。仮の申請ありがとう。

再確認者:ノア  [差戻] お疲れ様でした。一文字さんの事態を鑑みれば、遊園地の年パスくらいなら経費で落とせますので追加して再提出してください。

              わが社は青少年・少女の健全な恋愛を応援します。



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クロネコ運輸 簡易業務報告書


業務概要:帰還業務


対応者:佐伯 悠真


処理内容:

 ・鹿野 友樹君を連れ戻しに行きました。

 ・一文字沙也加さんも居ましたので一緒に帰ってきました。

 ・初めての人を伴った転移は緊張しました


確認者:社長  [承認] ご苦労様でした、ちょっとずつ対人依頼もこなしていってください。

再確認者:ノア  [差戻] 簡易にも程があります、まずは佐伯さん付きの私に添削を依頼することから始めてください。


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