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浮島編8

 厚木、伊勢原に続き、サイト担当者は平塚北部の倉庫業務も紹介してくれた。しかし、アクセスが悪いうえ、賃金はディズニーランドの1DAYチケット程度。


 日雇い仕事への心配も増していく中、割と近所に「医療機器洗浄」の求人を見つけた。日給は、ディズニーランド1日に土産のクッキーを足したくらいのものではあった。ただ何より、医療関係という、自分にとって未知の分野に、私の心はくすぐられた。


 この洗浄業務の広告サイトに連絡すると、こちらの話も障壁なく進んだ。(偶然にも)厚木のオフィスで、数字遊びのような知能テストをパスしたのち、車で平塚の巨大倉庫に連れて行かれた。


 ドライバーを兼務する、三枚目風の男性担当者は、奇妙にも思えるほど丁寧な態度を保っていた。いざ倉庫に入場する際、彼はガラス扉の前で、神社にでも入るかのように深々と礼をした。業務0日の私も、何の逆鱗(げきりん)にも触れぬよう、後ろでただその動作を真似た。


 階段を三階分ほど上がり、再び現れたガラスドアの前で、しばらく二人待機をした。それから(いか)めしい顔つきの倉庫長が内側から扉を開け、我々は中へ通された。


 窓一つないその一枚のフロアは、100メートル四方ほどの巨大な空間であった。リノリウムなのか、緑色の床に無数の作業机が整然と並び、そこに向かうそれぞれの作業者が、極秘実験のごとく機器の検査に没頭している。


 一通り作業場を案内される間、私はいつものあの安っぽい慇懃(いんぎん)さにより、内定の返事をもらうことが出来た。

 厳めしい倉庫長の気立ては優しいらしく、十分な分別と常識も持ち合わせているらしかった。


 厚木、伊勢原と面倒を見てくれた、前の担当者に「週5で、医療洗浄の仕事が決まった」と断りの電話を入れた。これは、それまでの斡旋(あっせん)に対する、私なりのせめてもの感謝の印であった。


 しかし、全くの別サイトを通したためか、その担当者は「頑張ってくださーい」とつまらなそうに言い、電話を切った。


 向こうが私に対して抱いていた期待を裏切ってしまったのは申し訳なく思う。しかし、こちらとしても、定まらない日雇いをいつまでも続けるわけにいかなかった。

 

 思惑を言葉に乗せて伝えるのは難しいものだ、と思いながら、支給された作業着を試しに着てみた。それは、かなり前からの使い古しらしく、ボタンが一つなくなっていた。

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