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第7話 戦職


「お風呂の時とかにフライングしてないよね?」


「する意味がないだろうが。せっかくこれだけ準備したのに」


 机には白いテーブルクロスが敷かれ、俺の家とは違い食欲を損なわないようになっている。


 その上にピザ、寿司、フライドチキン、コンビニのサラダ、そしてシャンパンと多量の酒の缶。


 各々の前に花柄の取り皿と格好つけたシャンパングラスが置かれ、妙にデザインの凝ったシルバーのナイフとフォークまで用意されている。

 食べ物こそバカみたいなテイクアウトだが、こうして並べて見れば、そこそこのパーティに見える。


 正確な時間を確認できていないが、おそらく日付は超えているだろう。


 その時間からこれだけ食べるというのは実に犯罪的だ。



 ちなみに酒は紆余曲折を経て飲むことになった。

 

 お互い酒を飲むことは日常的にあったが、出会った当日の男女が酒を飲みながら一晩明かすのはどうなのか、というところが争点となった。

 結局今更なにを言ってんだということで落ち着いた。


「じゃあじゃあ、まずは乾杯をしましょうか?」


「献杯になる可能性も考えると、先に確認しておくべきだろう」


「んー…まあそれも今更って話じゃん?お通夜みたいなテンションでこれを食べるのだって相当きついし。そんなにひどい戦職ではないでしょ。たぶん」


「じゃあどのタイミングで見るのが適切だ?」


「んー…んーー…やっぱ今?」


「俺も今が1番だと思う」


「ね、そうかも。じゃあせーのでパネル開こ?で、見たら一旦黙って、一個ずつ教え合お。叫んじゃダメだからね」


「叫ぶとしたらカスミの方だろ」


「はいはい。 ――よし。じゃあ、心の準備はいい?」


「とっくにできている」


「せーのーで開くからね!『の』で!」


「わかったから早くしろ。飯が冷めるぞ」


「じゃ、じゃあ本当にいくよ! ――せーーーのっ!!」



 教わった時のようにステータスパネルを開く。


 あの時は埋まってなかった項目が埋まってるはずだ。



 右の手元にパネルが見える。

 見えてはいるが首を動かすのが、少し、緊張する。


 準備はできていると言ったくせに情けない話だ。


 正面を見るとカスミは真剣にパネルを見ている。

 その表情は明るくも暗くもない。一体どういう感情なんだ、それは。



 よし。

 情けない自分を蹴り飛ばしパネルを確認する。



 いろいろ確認したいことはあるが、まずは戦職が目に入るはずだ。





―――――――――――――――――――――――


[UR] 5 [Lv] 2 (EXP23%) [カルマ] 100


[PN] アリサ  [戦職] S執行者  [チーム] なし

―――――――――――――――――――――――


[氏名]聖園 愛梨紗 [性別] 男 [年齢] 18


[STR] 64 [INT] 67 [MND] 120 [AGI] 62

[DEF] 80 [RES] 79 [DEX] 80 [HP] 350

―――――――――――――――――――――――

[Passive skill]

【1】回帰する命

【2】執行者

【3】なし

【4】なし


[Active skill]

【1】処刑人の剣

【2】なし

【3】なし

【4】なし

―――――――――――――――――――――――

・【アイテム】0%

・【時計】01/09/23 00:41:15

・【マップ】

・【装備】

・【周囲のユニット】1

・【辞書】

―――――――――――――――――――――――





 『執行者(しっこうしゃ)


 執行者?


 あまりにもピンとこない戦職過ぎて思考が止まる。


 名前的に、スキル名的にもなにか仰々しい戦職のようだが、ステータス配分を見るとどうも防御系の戦職のようにも見える。


 そして戦職のSランクというのは高い方だと思う。

 流石にABCから始まり、Rの下のランクということはないだろう。Aの上のはずだ。


 URは5まで上がったが、これが高いのかどうなのかがよくわからん。

 ステータスも高いのか低いのかがあまりにもわからなさすぎる。これらは比較対象がないと判断ができんことだ。



「おい、確認できたか?」


 比較するためにはカスミと比べなくては。


 だが俺だけSで覚醒していて、カスミがEとかFだとしたらどうすべきか。


「ん、おっけー。まずは戦職から?せーの、で言う?」


「お互い落ち着いているし、一旦冷静になって飯でも食いながら話をするか。いや、とりあえず戦職だけ言って乾杯するか」


「…よかった。アリサなんかすごい顔してるから乾杯できない戦職なのかなって心配だった」


「ふん、そう言うカスミも乾杯はできそうだな。 ――では俺から言うが、俺はSランクの『執行者』とかいうよくわからない戦職だった。何かこの戦職について知っているか?」


「………え、えす?Sなんてあるの?」

 

「やはり珍しいものか。お前が見ていた情報だと大体どんなもんなんだ?というかカスミはどうなんだ?」


「――あ、そ、そうよね。私はBランクの『剣士(けんし)』。Bランクも割と珍しい感じだと思う。大体Dからで、たまにCとかBがいるみたいな。『剣士』はXでも報告上がってたから、私もそれだといいなとは思ってたんだけど……。 ――てか、ごめん。Sってなに?Aの報告も2人しか見たことないんだけど…」



 カスミは目と口を大きく開けて止まっている。


 とりあえずカスミの話から俺の戦職が下から数えた方が早いようなゴミではないことがわかった。


 自分より冷静じゃない人間を見ると、冷静になれるものだ。

 冷静になってよく見てみると、MNDがやけに高いことに加えて、カルマが100になり、MPと書いてあった場所がHPになっている。


 この辺りから察するに何か特別性のある、神職系の戦職なのだろう。


 SNSでSランクの戦職の報告がない理由は考えるまでもない。母数が少ないことに加え、それぞれが重大な特殊要素を持っているからだろう。不用意に情報を公開すべきではないというのが普通の認識だ。



「ふん、まあいい。とりあえず乾杯をするとしよう。俺はよくわからないがこのランクだけは高い戦職に。カスミは自分が望んだ戦職につけたことに」


 固まってしまった家主に変わり、2つのグラスにシャンパンを入れる。

 シャンパンが好きなわけではないが、乾杯するとなればこれが1番いいだろう。


 グラスをカスミの前に置くと、ようやく意識が戻ってきたようだ。


「ん、ありがと。とりあえずスキルとかステータスとかも話したいし、食べ始めないとね。 ――じゃあ、お互いの戦職と、今日のこの素敵な出会いに、乾杯!!」


「乾杯」


 乾杯の時、俺はグラスを当てる方が好きだ。

 勿論TPOに合わせた行動は取る。親しい人間しかいない場であればなるべく当てるという話だ。


 今回はグラスの持ち主であるカスミに合わせるつもりだったが、心配せずともカスミは軽く当ててきた。



 丁度よく、小気味のいい音が鳴る。


 グラスの中の飲み物が揺れて光が反射する。


 そして互いにグラスへ口をつける。



 ただ掲げるだけの乾杯も上品でいいのかもしれないが、こっちの方が少しだけテンションが上がるというものだ。









 自分で言っていたとおり、カスミの食は細かった。


 買ってきたものを色々つまんで食べていたが、カスミが食べたのは全体の2割程度。残りの8割近くを俺が食べた。


 きつかったら明日食べればいいから残していいよとも言われたが、俺は逆に食べるのが得意なタイプ。この程度であれば余裕で食べきることができる。



 ステータスを確認しながらだったため、食事の時間はフランス人くらいかかり、現在時刻は午前2時30分。


 カスミは酒でグダグダになり始めたからベッドに運び、テーブルの片付けは俺1人で済ませた。とは言ってもゴミの分別くらいだが。



 カスミのステータスは概ね俺と大きく離れてはいなかった。


 INTとMNDだけは明らかに俺の方が高かったが、その他ステータスは誤差の範囲。STRに関してはカスミの方が高かったくらいだ。

 そのせいで腕相撲が行われたが、割とあっさり俺が勝った。腕相撲でSTRは測れないということだ。


 カスミのURも5。

 つまり戦力的に俺とカスミはほぼ変わらないということだ。


 問題だったのはスキルだ。


 お互いにパッシブスキルが2つ、アクティブスキルが1つ解放されていたが、カスミの剣士らしくてわかりやすいスキルに対して、俺のスキルは妙に小難しくて物騒だった。



 まずひとつ目のパッシブスキルが『回帰(かいき)する(いのち)』。


・攻撃時に追加ダメージ【聖】を与える(10s)。

 このスキルでユニットをキルすると肉体の損傷を

 回復する。ダメージと回復量は現在のHPに応じ

 て増加する。


 とりあえず、10秒ごと1度に攻撃が強くなるというパッシブスキル。ただどのくらいダメージが増えるのかが書いてない。

 回復もそうだ。どのくらい回復するのか、現在のHPが高ければいいのか低ければいいのかも書いてない。


 そしてこの『肉体の状態』というのと『HP』の差がよくわからない。


 カスミがどれだけ調べてもHPという概念はなさそうだった。これは明らかに俺特有のものだということだ。



 パッシブ2は『執行者』。


・カルマ値が100で固定される。

 攻撃対象のカルマ値に応じて与ダメージが増加

 ([自身のカルマ値−対象のカルマ値]%)。


 ここはおそらく戦職の名を持つパッシブスキルなのだろう。カスミは『剣士』というパッシブスキルだった。


 このパッシブは要するに悪人に対して強いですよ、ってことだ。モンスター相手にどのくらい機能するのかはモンスターのカルマを見ないとわからない。



 ただこのダメージ増加の割合は明らかに狂っている。


 俺の攻撃用ステータスが低めなのはこのパッシブスキルのせいというのもあるかもしれない。


 単純に今日会ったあの夫婦相手には6割近くダメージが伸びるというもの。ひとつのスキルで上がっていい量ではない。



 そして、1番おかしいのがこのカルマ値の固定。


 これはつまり、いくら罪を犯しても構わないと神に言われているようなものだ。


 勿論、そんなことをする気はない。

 する気がない俺だからこそ、この戦職を授かったのかもしれないが、それにしても今ある日本のルールを壊しかねないスキルだ。


 どうにも、俺には何か役割が与えられてるのではないかと勘繰ってしまう戦職。純粋にSランクを喜べないのはその考えがずっと頭の中にあるからだ。



 そんな俺に追い打ちをかけるスキル名なのがアクティブスキル1『処刑人(しょけいにん)(つるぎ)』。


・HPを消費して指定方向へ物理攻撃【聖】を放つ

 (5s[射程C,範囲D])。このスキルでダメージを与

 えたユニットが悪だった場合はHPを回復し、善

 だった場合は追加でHPを消費する。



 カスミの持つ剣士のアクティブスキル1は『閃剣』。


・MPを消費して指定方向へ物理攻撃【風】を放つ

 (10s[射程B,範囲D])。



 大体同じような効果だが、俺の場合はMPの代わりにHPを消費する。そしてまた悪人を殺せと言わんばかりのスキル名と追加効果。

 執行者とはつまり神の意思に反するやつを殺せと命令される立場なんだろうか。



 ただまだ諦めるには早い。


 アクティブスキル名を除けば、プレイヤーを殺すことを示唆する内容はどこにも書かれていない。


 新しく追加された【辞書】の機能によると、『ユニット』とはプレイヤーやモンスター、ペットなどを指すとある。


 この『プレイヤー』こそがステータスパネルを持つ人間のことであり、執行者は悪のモンスター特攻の戦職という可能性も大いにあるということだ。




 食器を洗うところまで終わり、一息をつく。



 教会で戦職を受け取った時や、戦職を確認した時にあった高揚感はすでに消え、不安だけが残っている。


 俺はゲームのように遊べると思ったから異世界転移を喜んでいたが、神の命令に従って人を殺すために召喚されたのであれば話が変わってくる。


 良くも悪くもこの半日で俺はこの世界の人間が、元の世界の人間と何ら変わりがないことを知ってしまった。


 プレイヤーを殺す役割こそが俺の転移理由だとするのであれば、今すぐに元の世界に戻る方法を探さなければ。



 洗い終わった食器は水切りラックに置き終わり、これで眠る前にする全てのことが終わった。


 どうにも眠れそうにないが、明日は服を買いに行くと約束したため、そろそろ横になって目を瞑るだけでもしよう。



 スタート地点であるベッドの方に戻ると、すでにカスミが眠っていた。


 丁寧に奥の方で仰向けになり、枕も半分譲るような位置に頭を乗せている。

 いくら何でも無警戒すぎるそのアホヅラを見ると、なぜか少しだけ安心する。



「電気はどうする?」


「ん…オレンジのやつにして…」


「ちなみに俺は真っ暗が好きだ」


「やだ…」


 話しかけるとふにゃふにゃした返事が返ってくる。

 まだ眠っていたわけではなかったようだ。


 仕方なく家主に従い常夜灯をつけたままでベッドに腰をかける。


 俺と気が合うとは言ってもベッドの好みまでは一緒ではない。あの拘りの楽園に戻れる日は来るのだろうか。


 金を稼いだら元の部屋と同じような環境を作りたいものだ。

 あそこは間違いなく俺にとって世界一幸せな場所だったのだから。



 …ふん。

 よくわからない戦職のせいで柄にもなく弱気になってきたな。


 甘ったるい匂いは今日の食事に上書きされ、部屋の中にはジャンキーな香りが充満している。窓を開けているため、起きる頃には元の匂いに戻っているだろう。



「…どうしたの?」


「これで眠るのかとうんざりしていただけだ」


「……じゃあ消していいよ。そのかわり、私にくっつくかれても文句言わないでよ。文句も言っちゃダメだけど手も出さないでよ」


「ふん、言われるまでもない」



 鬱陶しい常夜灯を消して横になる。


 流石に枕と掛け布団の共有は気が進まない。

 枕をカスミの頭の下に押し込み、空いたスペースに頭を置く。多少首が痛いが許容できる範囲だ。


「絶対首痛いでしょ。枕使いなよ。照れてんの?」


 押し込んだ枕が元に戻され、俺の頭を押し除ける。

 挑発に乗るのも癪だが、このまま頭を押され続けては休むこともできん。

 仕方なく枕の上に頭を乗せる。


「布団も」


 タオル生地の布団が腹にかけられる。

 抵抗するのも面倒だからされるがままにしておく。


 仰向けになって目を開けば、我が家と変わらないように見える天井がある。部屋こそ違うが、この天井の紙はきっと我が家と同じものだ。何の変哲もない白い天井だが、何となく絶対に同じだとわかる。


 それにしても、ここまで暗くても天井が見えるとは。


 少し気になって左を向くと、カスミと目が合った。


「何だお前、仰向けで寝るタイプじゃなかったのか」


「その日によるかも。うつ伏せだけはないけど」


「ならなぜわざわざこっちを向く。向こうを向くか仰向けになるかにしろ」


「アリサだってこっち向いたくせに何言ってんの?」


「俺は視力の確認をしたかっただけだ」


「?暗いとこでも見えるようになったの?猫みたいに?」


「カスミは変わってないのか。視力はどうだ?」


「視力はめちゃくちゃ良くなったよ。てかさ、暗いとこでも見えるか試したないなら部屋の方見ればいいのに、何で私の方を見たの?」


「何を期待してるのかわからんが、用事があったのはお前の顔じゃなく髪の毛だ。近くにある黒くて細かいものを正確に数えられるかが気になっただけだ」


 妙にニヤニヤしていたカスミが一瞬で不機嫌になる。

 よくもこんなに表情が動くものだ。


 ずっとこの距離で顔を見ているのも気まずいから、首の向きを元に戻す。


 天井ばかり見ていても何も変わらないので目を瞑る。

 やはりアルコールの力を借りても、そう簡単に眠ることはできなさそうだ。



「…そんなに気になる?普通に悪魔とかそういうモンスター用の戦職なんじゃないの?」


「わざわざ異世界から連れてこられて、そんなことのために『執行者』に任命されるとは思えん」


「連れてこられって…。それと戦職のことは分けて考えなよ。たまたまこっちに来ちゃって、たまたますごい戦職になったってだけじゃん。難しく考えすぎ。 ――それとも、俺は選ばれた特別な人間って思いたいの?」


「少なからず特別ではあるだろう。それに嫌な役割であればあるほど他の世界の人間に押し付けそうなものだ」


 カルマ値を固定しても問題がない人物。

 それはこの世界で『善い』と定義されるプレイヤー。つまり神からすればお気に入りのユニットのはずだ。


 そんな人物に神が人殺しの役割を押し付けるだろうか。


 神が使い捨ての道具として、異世界から都合のいい人間を連れてきたとすれば全てが納得いく。


 HPを削って戦うようなスキルだって、本当にお気に入りのユニットには与えたりしないはずだ。



「難しく考えすぎだってば。そんなの関係なくとりあえず一生懸命生きてみて、そういう状況になってから考えなよ。あんなにワクワクしながら私を教会に連れてったんだから、モンスターとかダンジョンとか、そういうのが楽しみなんでしょ?今はそれでいいじゃん」





「……ふん」


「なに、それは納得したってこと?」


「とりあえず楽観的なお前のように生きてみるのも悪くないと思っただけだ」


「私のおかげで元気づけられたってことね」


「否定はしない」


「素直にありがとうくらい言いなさいよ」


「いいから寝るぞ。明日も出かけるんだろ」


「君の服を買いにね。私の用事みたいに言わないで」



 自然と瞼が落ちてきたので、そのささやかな眠気に身を委ねる。

 気になるものは気になるが、気にしてもしょうがないというのもまた事実。今そんなことを考えたところで戦職が変わるわけでも、ましてや元の世界に帰れるわけでもない。


 それにダンジョンという楽しみがすぐそこまで来ている。


 1週間もしないうちにゲームが開始となる。

 そして俺はゲームを楽しめるだけの戦職を与えられた。今はそのことだけで十分なはずだ。



 そうだ。

 そのためにはまずチームのメンバーをあと2人探さなくては。


 カスミも俺も近接の攻撃職。

 必要なのは『B魔道士』や『B修道士』といった後方担当だろう。


 その前段階である『D修道見習い』がある修道士とは違い、魔道士の前段階は報告が上がっていない。チームに魔道士を入れることは簡単ではなさそうだ。


 その他に気になったのは『C盗賊』だ。


 罠や宝箱を担当する戦職らしくダンジョンで重宝しそうだが、Cランクということもあり、まだ掲示板にほとんどいない。


 掲示板というのはチーム募集掲示板というサイトのことだ。


 食事の時に2人で軽く覗いてみたところ、すでにダンジョンに向けたチーム募集が活発に行われていた。

 俺らも早いとこ探さないと、優秀な人材は皆チームを組み終わってしまうだろう。




「……はぁ」


 チームを組むことに不安も不満もない。

 メンバーを探すこともチームゲームの楽しみのひとつだ。



 俺が溢したため息の理由は隣の女にある。



 こっちが考え事をしているのを知ってから知らずか、カスミがぎゅっと密着してきた。


 どう考えても許していい距離感ではないが、こっちが弱っていた時に言質を取られたせいで追い払うこともできない。

 今になってよく考えれば常夜灯がついてる方がマシだっただろう。



 まったく。

 嫌われるよりは100倍マシだが、たった半日で妙に気に入られてしまった。


 まあ俺もカスミのことを今まで出会った人間の中で1,2を争う程に気に入っている。そうでなければ同じベッドで眠るなんてことはない。


 やはりこの女とはどうも波長が会うようだ。



 しかしそれはそれとして、ここまでベタベタされるのは違う理由で困る。




「……あつい」


「……」



 さっきまで帰ってきていた返事の代わりに、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。


 耳は良くなったが、小さな音でもうるさく感じるようになったというわけでもない。

 耳元からする寝息が眠りの妨げになることはないが、ぴったりとくっつかれた左半身は明らかに俺の安眠を妨害している。



 外から聞こえてくる虫の音は元の世界と変わらない。


 そして気温も全く変わらない。



 つまるところ、人にくっつかれて寝るには9月の夜は暑すぎるという話だ。


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