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第10話 告白


「――というわけで、教会所属プレイヤーになってやる代わりに戸籍を用意して欲しい」



 部屋の前でふらふらしていたカスミを連れ戻り、俺が異世界転移をしてきたことについて2人に説明をした。


 カスミの時と同様、この世界の連中は超常現象に対して寛容で、一度説明しただけで簡単に納得してもらえた。


 運命の日とやらが来ていなければまた違った反応だったかもしれない。俺が転移してきたタイミングはそういう意味でも良かったのだろう。



 カスミにこれまでの流れを説明するのにかかった時間もそれほどかからなかった。


 カスミの方から質問をしてくることもなく、淡々とこれまでの話の要点を伝えるだけで終わった。だから本当に理解しているか不安ではある。



「承知致したました。早ければ明日には、遅くとも明後日中には御用意が出来ますので、その際にまた御連絡差し上げます」


「助かる。ああ、それと俺の所属するチームのメンバーというのは俺が決めてもいいのか?」


「ええと、今のところアリサ様と組んでもらおうと思っている方が2名おりますので、あと1名であればという感じでしょうか。もしその2名が気に入らないようであれば、それはまた、ええはい、考えさせていただきますが」


「丁度1枠で十分だ。もともと俺ら2人と一緒に組む2人を探していたところだった」



 横で座っているカスミの頭に手を置く。


 カスミが来たことによって椅子はカスミとヨシノリのケツに渡った。アキトに加えて俺も起立組になったということだ。



 しかしまあ、渡りに船とはまさにこのこと。


 取材が来ない理由くらいに思っていた連中だったが、まさかチームメンバーまで用意してくれるとはな。


 それもこいつらが精鋭チームとして用意した人材。

 詳しいことは聞かずとも、Dランクではないことだけは確実だろう。


「まあ一応聞いておくか、その2人の戦職とURくらいはな」


「ええはい、勿論です。1人はPNタイガという20代の男性で、UR4の『B盾兵』です。もう1人はPNラノミー、20代女性で同じくUR4。この方は現在3名しか確認されていない『A忍者』という戦職に覚醒しています、はい」


「補足させて頂きますと『盾兵』は『C兵士』の上位職にあたり、その名からわかるようにチームメンバーを守る戦職です。『忍者』は『C盗賊』の上位職で、索敵や暗殺を中心とした隠密行動を得意とする戦職です。 ――ダンジョンについて詳しいことは軍でもまだわかっていない状態ですが、盗賊系戦職のスキルから逆算して、内部に罠や宝箱があるとわかります。この『忍者』と『盾兵』という戦職はチームの生存能力を上げることに特化したものと言えるでしょう」


「…ふん、それは結構なことだが、さっき話していたばかりの回復役がいないな。 ――さっき話していたことと言えばモンスターショックとやらについてをまだ聞いてなかったか」



 俺の異世界転移についてを説明しないといけなくなった理由である『モンスターショック』について聞いていない。

 なにやら『モンスターショック』の時に教会を守るのが俺の1番の仕事になるらしいし、聞いておく必要があるだろう。


「ええ、はい。ええと順番にお話しますと、まずは回復スキル持ちの聖職者系プレイヤーについてですね、はい。 ――実は、アリサ様のチームに入ってもらおうとしているプレイヤーは何人か目星をつけているんです。ですが、いまいち…と言っては失礼になりますね、はい。ですが、まあ、ちょっと潜在能力的に心許ないという感じで、頑張って探してみますが、まあ、カスミ様に入っていただけるのであれば、見つかり次第状況に応じた交代要員として入って頂くという形にしようと思います」


「集会所プレイヤーと同様に回復役はレンタルする形でも別に構わんがな。それでモン――」


「ちょ、ちょっといい?」


 

 モンスターショックについて聞こうとしたらカスミに服の裾を引っ張られた。

 俺はモンスターショックについて聞くことができない呪いにでもかかってるのか?


 ふん、まあいい。

 カスミの発言を許可することを顎をしゃくって示す。



「えっと…ごめんなさい、言いにくいんですけど…私は教会所属プレイヤーにはなれません」



 よほど気まずいのかカスミは俯きながら発言をする。


「…それは、ええと、なりたくない、という話ですか?」


 ヨシノリが困ったように俺の顔を見てくる。


 そんな顔で見られても知るか。俺だってどういうことか意味がわかっていないというのに。


 教会所属プレイヤーになることにデメリットがあると思えない。

 カスミは強さに興味がないというタイプでもない。ダンジョンに優先的に入れるというのは魅力的なはずだ。



 まさか、『モンスターショック』か?


 カスミが教会所属プレイヤーになりたくない理由が、モンスターショックとやらだとすれば納得がいく。

 モンスターショックから教会を守るのが実はメリットを全て帳消しにするほどのデメリットだとすれば、俺ももう少し考えるべきだったか。



 本当に何なんだモンスターショックというのは。


 教会を守るということはモンスターがダンジョンの外に出るということか?それとも何かしらかモンスター級の『ショック』が教会に落ちるのか?



 カスミは俯いたまま黙ってしまった。

 まあ、言いにくい理由なんだろう。


「…ええと、ええ、まあ無理に理由はお聞きしません。 ――それで、その場合アリサ様は…ごめんなさい、今聞くのはやめておきましょうか」


「いや、俺はカスミがどうするかに関係なく教会に所属させて貰おう。戸籍も、ダンジョンに優先的に入れる権利も、優秀なチームメンバーも捨てることはできん。カスミに受けた恩や、いまだよくわからん『モンスターショック』を考慮しても、だ」



 非情に思われるかもしれんが、俺からすれば当然の選択だ。


 カスミは転移先で最初に出会った人物というだけの話。そこから色々世話にはなったが、今後の生活を天秤にかけてカスミを取るほどのことではない。


「…ふん、だがまあこのままこいつを捨てて1人で教会所属チームに入るのは人道に反する。 ――カスミのチームメンバーを探すのに教会と軍の力を貸して欲しい。受けた恩に見合うだけの働きはすると誓おう」


「ま、待って、違うの」


 アキトとヨシノリに下げた頭をカスミに揺すられる。


 丁度いい位置にあったから仕方ないが、珍しく俺が頭を下げたというのにそれを邪魔するとは、この女はつくづくいい度胸をしている。



「…何が違う?どんな理由でもお前を軽蔑したり突き放したりすることはないから言ってみろ」


「えっと、その、私がアリサと同じチームに入れないのは、特殊な事情があるからとかじゃなくて……丁度さっき、電話でパ、父から地元に帰ってくるように言われたからなんです。これからは危険なことも多いから、一人暮らしはやめて北端エリアに帰って来なさいって…」


 俺だけではなく、アキトとヨシノリにも聞こえるように前を見て話す。

 俯いていたが特に泣いたりしていたわけではない。ただ、俺たちが盛り上がってる所に水を刺すような話をするのを躊躇っていただけのようだ。


 それならば、まあいい。


 おおかたさっきの電話が関係していそうだとは思っていたが、思っていたよりずっと単純で普通な内容だった。複雑な家庭の事情ではななく、娘を持つ父であれば当然取るような対応だ。


「…そうでしたか。そうですね、北端エリアにも教会はあるのですが、残念ながらアリサ様にはこの東京エリアにいてもらいたいのです。なので…」


「はい、わかっています。それに、私は兄と一緒のチームに入ることになると思いますので…。 ――ごめんね、私のことも考えてくれてたのに」


「ふん、別に当然のことをしていただけだ。むしろお前の方が俺のことを気にかけすぎだ。もう少し自分と父親の心配をしてやれ」


「んふっ。なに、それ?そんなに心配ならうちについてくる? ――アリサがそれを選ぶなら、私はちゃんとパパに話をするよ?」



 今の誘いにどの程度の気持ちがあったのかをわからんほど鈍い男ではない。



「行かん。俺はここで教会所属チームに入る。決めたことだ」



 だがそれに絆されるほど軽い男でもない。


 どれだけ気が合ったとしても、所詮カスミとは出会って3日の関係。自分の人生と天秤にかけられるほど大切な人間関係ではない。


 まあこれがもし、2度と会うことができないとか、ついていかないとカスミが死ぬとかであれば話は大きく変わっていただろう。


 だがあくまでも遠くに離れるだけのこと。

 それも同じ世界の同じ国という、俺からすれば遠いかどうかすら微妙な距離だ。



 だから俺は普段通りに素っ気なく返す。


 誘いを断られた人間が深く気にしないように。



「はいはい。だからこの話はこれで終わり。話、止めちゃってすみませんでした。もう一度父と電話して来ますので、席、外しますね」


「何だお前、あれだけの時間電話していたのにまだ話すことがあったのか」


「もしかしたら1人連れてくかもって話してたから、その話がなくなったって言うだけですー。それに外にいた時間のほとんどスマホいじってただけだから」


「ふん、お前のせいで俺の喉が渇いていたとも知らずにな」


「別に勝手にすればよかったじゃん。てか2人を困らせてるから。もう、ほんとにすみません」



 アキトとヨシノリに一礼をし、カスミが玄関へと戻って行く。


 椅子は空いたが、どうにも座る気にもならん。


 微妙になってしまった空気を整えるために、残った3人のグラスに飲み物を注ぐ。


 無音だと余計に気まずくなる。

 カスミに追加してもらった氷を無駄にかき混ぜる。


 …後で氷を作っておかないと夜になってから困るな。


 そういえばあいつがいつまで東京にいるつもりなのかを聞きそびれた。


 引越しの準備もあるし、今すぐというわけではないだろうが、ダンジョンが開放される前にとなれば残された時間は少ない。



「…良かったんですか、本当に」



 沈黙を破ったのは意外にもアキトだった。


「言ったはずだ、3日前に会っただけだと。お前が勘繰るような仲ではない」


「…そうですね、きっと貴方からすればそうなんでしょうね。ですが、もう何が起こるかわからない世の中です。それこそ貴方がこうしてここにいるように。側にいないと、後悔するかもしれませんよ?」



「ふん、だとしたらそれまでだったというだけの話だ。しかし意外だな、お前らは俺に教会所属チームに入って欲しかったはずだろ?」



 俺のことを誘いに来た当の連中が、その誘いを受けると決めた俺を訝しむとは。


 アキトは今日一番の悪意のある視線を俺に向けている。警戒や疑念とも違う、軽蔑や落胆といった方の感情だ。



「今の発言は強がりだとしても、よくないと思いますよ。アキトさんの言葉に思うところがあったのかもしれません、ですが、ええ、自分の心に嘘をつくようなことを言うべきではありません。カスミ様へ向けられたアリサ様の想いは、そのような冷たいものではないはずです。『どうなってしまっても構わない』なんて、口が裂けても言うべきではありません。ええ、絶対に」


 ヨシノリのそれは、軽蔑や落胆以上に強い感情。


 俺に対して怒りを向けている。

 誘いを受けてやったのに、だ。


 勝手にヒートアップした2人をクールダウンさせるために、少し時間を置く。

 せっかく入れたコーヒーも、今度こそ氷が溶け切る前に飲まないと勿体無いしな。



「お前らは何もわかっていない」


「…はい?」


 アキトはいよいよ感情を隠さなくなってきたな。


 もともと隠すのが下手なタイプなのかもしれんが、時間を置いたのが悪手だった可能性もある。さっきよりも一段と俺に向ける視線が厳しい。



 手に持っていたグラスを机に置き、空いていた椅子に腰掛ける。



「俺とカスミが短期間で深い関係を築けたのは、互いを理解し、信頼し合えたからだ。だからあいつが俺から離れることに心配はない。それが裏切られたのであれば俺達はそれまでだったという話」



 こんなことをわざわざ言わせるなと言う話だが、これからのビジネスパートナーに勘違いされたままというのも具合が悪い。


 無粋というやつだが、最後まで言ってやるとしよう。



「…どうでもいいなんて思ってるわけがないだろう。いちいちそんなことを説明させるな」









「やっと帰ったか。あーあ、なんかさっきまでおじさん達が会話してたところにあったサンドウィッチ食べるの嫌だなぁ、残してもいい?」


 なんだかんだと2時間弱かかった話し合いが終わり、再び2人で机を囲む。

 俺らの朝が早かったおかげでかろうじて朝と呼べる時間だが、朝食は早朝に食べるからこそ気分がいいもの。起きてからここまで時間が経つとテンションは下がる。


「…お前の表現のせいで俺まで食欲が失せただろうが。ふん、まあいい。別に2人とも清潔感はあったし、俺は潔癖症でもない。食いたくないなら置いておけ」


「じゃ、お願いします。あー、でもお腹はすいたぁ。なんか食べるものあったっけ?」


「シリアルくらいないのか?」


「あったかなぁ、?一時期ハマってたから買ってたんだけど、最近食べてなかったから…いや、てか牛乳が切れたんだった…。あーもう!お昼まで我慢するからいい!」


 勝手に朝食を残して、勝手に腹が減ったとゴネられてもこっちはどうしようもない。


「しかし降ってきたな。家に引き籠るとして、飯はどうにかしないとだぞ」


「雨が弱いタイミングで注文しよ。あ、だったら今のうちかな?ちょうど私もお腹すいてるし」


「丁度もクソもあるか。別に注文するのは構わんが、夜までおいておいても大丈夫なものにしろよ」


「はいはーい。じゃ、私のチョイスで適当に注文しちゃうね」


 カスミは椅子の上に体育座りをしてスマホをいじる。

 家にいる時はショートパンツだから問題こそないが、実家に帰ったら怒られそうな姿勢だ。


「そういえば、お前はいつ北端エリアに帰るんだ?」


「うーん、荷物をまとめ終わったら?でもダンジョンが出る前には帰りたいから、明後日の夜にはこっちを出ないとかな」


「なるべく早い方がいいだろう。どうせ暇になったんだから今日中に荷物をまとめてしまおう。いや、どのみち業者は手配しないとか」


「あ、ううん。この部屋はそのままにして家に帰るから、手荷物を整えるだけだよ。服も1番大きいスーツケースに入るだけにしときなさいって」


「なんだ、それなら今日の夜には出られるだろう」


「…そんなに早く追い出したいですか?言っとくけど、私がこの家から出たら君にも出てってもらうから。教会以外のとこに1人で置いといたら女連れ込みそうだし」


「お前は俺のことを何だと思ってるんだ。ライセンス登録のこととかも考えたらできるだけ早い方がいいと思っただけだ」


 お互いに理解し合ってると思っていたのは間違いだったかもしれない。


 まさか格好つけたセリフから1時間も経たないうちに前言を撤回することになるとは。アキトとヨシノリに合わせる顔がない。



「ふーん…ねえ、ひとつ確認してもいい?」



 カスミはスマホを置くと、足を下ろして真面目な話し合いの体制になる。



「ケーキは飯扱いにならんぞ」


「茶化すの禁止。あとご飯はもうピザを頼んだから」


 話の内容は大体予想がつく。

 どうにかして誤魔化したい内容だと。



「アリサって私のこと好き?恋愛的な意味で」



 こいつ、どう足掻いても誤魔化せない聞き方をしてきやがった。

 やはりこいつは俺のことを理解しているのかもしれない。

 

「随分と直球できたな。普通はもう少し照れたり、回り道をしたりするもんだぞ」


「あのー茶化すの禁止ってついさっき言いましたよね?」


「茶化していない誤魔化しただけだ」


「じゃあ誤魔化すのも禁止。これ以上逃げられないように言っとくけど、私は君のことを好きだから聞いてるんだよ」


 じっと見つめてくるまっすぐな瞳。


 カラコンが入っていないせいで、見慣れたものより少し色が暗く、ほんの少しサイズが小さい。


 ほぼすっぴんで告白してくるとは大した自信だ。



 顔だけで言えば勿論、恋愛対象になる。

 メイクをしていなくても全く問題はない。


 あと告白の仕方と、喋り方も。

 仕草や、食べ物の好み、服の好み、笑い方とか怒り方とか。

 子供っぽい食べ方とか家の中での癖とか、思いつく要素全て、



 ……まあ、そういうことだ。



「出会ってたった3日でそこまで断言してくるとは。喜べ、一目惚れだ何だと軽い連中を除けばお前が最速だ」


「そろそろ本当に怒るから」


「……仮に、俺が好きだと言ったらお前はどうするつもりだ?」


「どうって、普通に付き合うってのはダメなの?」


「これから離れるのにか?お互い無駄に縛られるだけだろ」


「はぁ?君に首輪をつけるために今告白したんですけど??」


 今日1番の強い軽蔑。

 アキトのそれを余裕で飛び越えてきた。


 この一点だけに関して、こいつは俺に対する認識を間違えている。俺はそんなに軽い人間ではないというのに。


「遊びたいとかそんな意味ではなく、離れてる間にもっと好きになる人間と出会うかもしれないだろう。その時、無駄に律儀なお前は俺に気を遣ってそいつを選ばないはずだ。俺はそういうのが嫌なんだ」


「そう簡単に出会わないよ。18年生きてきて初めてだったんだから」


「出会って3日で好きになるやつのどこに説得力があるんだ」


「だ、だから、それは、う、運命の…出会い。みたいな?」


「何だそれは気色悪い。急に乙女みたいなことを言うな」


「ぐっ、めっちゃ酷いこと言われてるのに言い返せないっ…!」


 告白する瞬間ですら顔色ひとつ変えなかったカスミが茹蛸のように真っ赤になった。


 『運命の出会い』


 なかなか思ったところで口に出すのは憚られる単語だ。



「あーーもうっ!!じゃあアリサは私のことが好きだけど、離れ離れになるから付き合うのは無理ってこと!?今の対応で『いや、別に好きとは言ってないだろうが』とか言ったら本当に殺すからね!?」


「その認識で間違ってないから殺そうとするな」


「あのねぇ…女の子が一世一代の告白したんだから、好きなら好きくらい言ってよ」


「ふん、俺は告白には真面目に答えないようにしているんだ。色々な経験を経た結果だから今更変えるつもりはない」


 告白なんてものは基本的にしてくる方の自己満足に過ぎん。


 今ここでわざわざ説明してやるような話でもないから言わんが、真面目に向き合ってやる方がその後の関係を悪化させるというのが俺の中の結論だ。



「…さぞモテるアリサさんでしょうから色々あったんでしょうけど、せめて了承する時くらいは真面目に向き合ってくれてもいいんじゃないでしょうか?」


「了承していないだろうが。お互いの確認が済んだだけで、今のところ関係を変えるつもりはない」


「いや、無理だから。付き合わないってのは100歩譲って納得してあげてもいいけど、関係性はぜっったいに変わるから。てか、私は変えるから」


「勝手に変えればいいだろ。俺は変えない。それだけだ」


「じゃあどうしたら変えてくれるの?私がこっちに帰ってきたら?」


「…どうしたら、か。 ――まあ、そうだな。そうじゃないか?お前がこっちに帰ってきたら交際をするということにしておくか……って、何だ急に。グイグイきてたくせにいざ告白が成功したら急に恥ずかしなったのか?」



 せっかく元の顔色に戻っていたのに、また真っ赤になって震えている。


 こんなにコロコロ顔色を変えていたら体に悪いんじゃないかと思ってしまうような頻度だ。



 絶妙に気まずい空気が流れ始めたからコーヒーをかき混ぜる。


 居心地が悪いわけでもないが、なんとも形容し難い絶妙な空気だ。何でもいいから言葉を返してほしい。



「……」


「……ふん、だからといって一旦北海道に戻ってからすぐにこっちに顔を出しにきたりはするなよ。せめて髪が肩甲骨下まで伸びてからにしろ」


 何も言わなくなったカスミに変わって俺が間を繋ぐ。


 俺ばかり喋っていると、俺まで緊張しているように思われそうなのが気に入らん。



 いつまでもコーヒーをかき混ぜる俺と、髪をいじり続けるカスミ。


 黒髪ボブも悪くはないが、俺は長い方が好きだし、カスミは長い方が似合いそうだ。



「……か、髪、のばします、ね」


「ああ」


「………」




「…おい、いい加減にしろ。このままピザが届くまでこの微妙な空気を続けるつもりかお前は」


「ちょ、ちょっとくらいいいでしょ!私、告白されたことはあってもしたのは初めてだったの!」


「そういうやつは普通告白する時にそうなるんだ。終わってから緊張してどうする」


「だってまさか、こんな普通に、こんな、こんなにあっさりOKだとは思ってなかったから…!」


「嘘つけ。正直俺にどう思われているかくらいわかってたから告白してきたんだろうが。ああ、もう、この話は一旦ここで終わりだ。とりあえず、お前が帰ってくるその日までは、普通に今まで通りだ。いいな?」



 このままでは埒があかん。


 何だか知らんが急に乙女モードになったカスミを元に戻すために一旦離席する。


「…どこいくの?」


「トレイだ」


「あ、はい」


 何だか思ったよりもめんどくさい関係になった。


 この様子では明後日までこっちに残るだろう。

 それまでの間、この乙女モードのカスミをあしらわなければならんとは。



 俺も頭を冷やす必要がある。


 カスミに対して自分が好意を持っていると気がついていたが、思っていたより少しだけ、その想いが強かったようだ。


 これから待ちに待った異世界生活本番が始まるというのに、こんな普通の大学生みたいなことに悩まされていてはもったいない。

 どうにかしてカスミのことは頭から切り離すべきだろう。



 カスミと離れるまであと2日。


 何とかして理性を保たねばならん。


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