第9話 来訪②
「『教会所属プレイヤー』と言ったな。教会に所属しないと『なにプレイヤー』になるんだ?」
教会所属という言い方をするのであれば、教会に所属しないプレイヤーについての対応にも考えがあるはずだ。
そもそも、プレイヤーやダンジョンの管理を今後どうしていくつもりなのか。
ダンジョンには自由に出入りをできるようにするのか、ダンジョン内で入手したアイテムなんかはどうするつもりなのか。
品種改良してプレイヤーを作っていたような連中だ。そのあたりについてを考えてないとは言うまい。
「私から御説明させて頂きます。まず、今後プレイヤーは『軍』『教会』『集会所』のいずれかに所属することになります。これに例外はなく、日本にいるプレイヤー全てがその対象です」
「参加を拒むとどうなる」
「その御説明をするために、今後の『ダンジョン』の扱いについてを先にさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか」
「構わん。それも聞きたかったことだ」
「はい。結論から申し上げますと、今後国内のダンジョンは全て政府が管理致します。ダンジョンに入場するには政府発行の権利書が必要となり、正式な手続きを踏んでいない不正入場は一切許しません」
「まあその方が安全だろう。その権利書とやらを発行するのが『集会所』や『教会』になるのか?」
「はい。細かく御説明致しますと、まず『集会所』に所属した際に『プレイヤーライセンス』を発行します。これはダンジョンの入退場の他、PNを戸籍と紐付け、ステータスパネル記載情報を全て管理するシステムです」
こういう状況になればいつかはやると思っていたが、まさかすでに用意されていたとはな。
ステータスパネル記載情報全てを管理となれば嫌がる人間も相当数いるはずだが、それを拒めばダンジョンに入ることすらできないというシステム。
汚いとすら思える手段だが、ここまでしないと危険だという政府の考え方もわからんことはない。
俺の審判者のパッシブのような、既存の法体制を崩しかねないスキルのことを考えれば、むしろ施行して当然のシステムとすらいえる。
「そしてダンジョンで入手したアイテムについてもこのライセンスを使って管理します。勿論基本的にアイテムは入手した個人の所有物となりますが、その売買については必ず集会所を通さなければなりません。違法取引を行った場合には、アイテムの没収に加えて罰金やライセンスの一時停止、その規模によってはライセンスの停止も視野に入れております」
「つまり重要と思われるアイテムは政府が没収するということだな」
「…没収、というのは少し言葉が強すぎますが、概ねその認識で間違っていません。個人が所有するには危険すぎるアイテムは政府で管理することになります。勿論、それに見合うだけの対価は用意させて頂きます」
「ふん、いかにも政府の犬の言うことだな。結局どれだけ拒んでも必ず没収するということだろうが」
ふざけた話だ。
自由取引の禁止というのはまだ許容できる。
税金は取れるところから取るものだ。今後頻繁に起こるであろう取引に何の介入もしないなんてことはあり得ない。
だがレアドロップアイテムの没収というのは許されていい話ではない。
一体何のためにプレイヤーが命懸けでダンジョンに潜るのかというのを全くわかっていない。頭の硬いジジイどもが考えたふざけた施策だ。頭が痛くなってくるほどに。
また一度冷静になろうとグラスに手を伸ばしたが、中はもう空だったか。
流石にこいつらに飲み物を出さずに自分だけお代わりするわけにもいかん。カスミが帰ってくるのを待つしかあるまい。
…あいつ遅すぎないか?
父親からの電話だったようだが、何か重要な話をしているのか、それとも帰ってきたくなくて適当に廊下をうろうろしてるのか。まあなんでもいいが。
「…『集会所』については大体わかった。要は参加しなければそもそもプレイヤーとして碌に動けないということだろう?さっきした『参加を拒むとどうなる』についての解答は『拒む理由がない』ということになるわけだ」
「仰る通りで御座います。ライセンス登録制度につきましては本日の正午に交付され、明日より施行されます。そして同時に『教会所属プレイヤー』についても本日正午に説明が出されます。まずは今後の教会の役割について御説明させて頂いても宜しいでしょうか」
「せっかくなら司教から聞きたいところだな」
ずっと退屈そうにしているヨシノリに声をかける。
アキトと会話をしていると息が詰まるし、もしヨシノリが説明できるならヨシノリにされる方がいい。
「あ、はい。そうですね、ええ。えーと、そうですね。まず、私共教会では現在『聖職者系戦職』を持つプレイヤーの方に声をかけさせていただいております。ランクの低いものから順に『修道見習い、修道士、司祭』などですね、ええ。そのうち『修道士、司祭』の方は教会所属のプレイヤーになっていただけないかと話をしているところです」
「その『教会所属プレイヤー』というのの恩恵はなんだ。集会所に登録しなくて良いということか?」
「ええはい、そういうことになります。もちろん集会所とは別の枠組みで政府にステータス登録をすることにはなりますが。 ――この理由のひとつに、『回復スキル』を持つプレイヤーが、全体数に対して少なすぎることがあります。回復スキルを持つプレイヤーのチーム参加を自由意志に委ねてしまうと、回復スキルのないチームが全体の7割にも及んでしまうという統計データがでているのです」
「…それを教会が管理するとどうなるというんだ?管理したところでその数が増えるわけではないだろう」
「ええ、ですので、『集会所所属チーム』は基本的に3名で組んでもらうことになります。そして、参加するダンジョンに応じて、教会から『教会所属プレイヤー』を呼ぶか、人数合わせとして『集会所所属プレイヤー』を呼ぶかを選ぶという形になります。 ――また、教会の数を全国に増やしつつ、常に1人は聖職者系ユニットを常駐させます。こうすることで、ダンジョンから帰れさえすれば誰でも回復スキルを受けることができるようになります」
「なるほど、大体のことはわかった。 ――大体のことがわかったから言っておくが、俺は『回復スキル』なんて持っていないぞ」
教会所属プレイヤーというものを作る理由はわかった。
ヒーラーの母数が少ないから、簡単なダンジョンに行く時はなるべく使わず、難しいダンジョンに行く時に誰もが使えるようにしておきたいということ。
要するにヒーラーなしで高難易度ダンジョンに突っ込まれると死傷者が増えるからやめてくれということだ。
それはわかったが、そうなってくると俺を教会所属にしたい理由の見当がつかん。
現状俺はちょっと使いにくいがちょっと強い剣士くらいのポジション。高難易度ダンジョンに放り込まれたところで、自衛くらいはできるかもしれないが、人助けできるスキルなぞひとつもない。
役に立つとすれば『執行者』というネームバリューくらいだろう。教会に背くとあいつに殺されるぞ、的な…
――ああ、そういうことだったか。
「…俺に人殺しをしろと言っているのか。教会所属プレイヤーを守るための番犬として」
「え、えぇ!?いや違いますよ、そんな!そんなことをさせるわけがないですよ!アリサさんには『教会所属チーム』として活動をしてもらおうと思っているんです!!」
……どうやら早とちりだったようだな。
最近そんなことばかり考えていたせいで、どうもそっちの方向に思考が傾いていってしまった。
ヨシノリは冷や汗まで垂らして驚いている。
冷静になって考えれば、この男がそんなことを言うとは思えない。
ふん、それもこれも帰ってこないカスミが悪い。
あいつがいないせいで碌に飲み物も飲めず、考えが煮詰まってしまった。
「『教会所属チーム』だと?」
「ええ、はい。ええとですね、簡単に言いますと教会所属プレイヤーのためにアイテムや装備を集めるための精鋭部隊という感じになります。なので、軍属のチームのように特別枠として優先的にダンジョン入場券が得られます。もちろん、教会所属プレイヤーには教会所属チームの方も含まれますので、入手したアイテムはご自身が優先的に装備できますよ」
「たしかに、レンタル要員として使われる教会所属プレイヤーは金稼ぎやアイテム回収ができなさそうだ。そして、今後身の丈に合わないダンジョンに連れて行かれることになる可能性も高い。装備くらいは整えてやりたいというのが善人であれば当然の考え方だな」
装備集めのための部隊。
ゆえに優先的にダンジョンに入ることができる。
ダンジョンが解放されてみないと、入場券の競争率がどの程度になるのかはわからん。
だが、どれだけの倍率になろうとも入場が確約されるとなれば、それだけでも教会所属プレイヤーになる価値は十二分と言える。
「仰る通りです。ですが、包み隠さずに御伝えするとアリサ様が仰ったような、言わば『番犬』のような役割についても否定致しません。無論、教会に対する反逆者の処罰などを御願いすることは御座いませんが、教会に対して手を出せなくする抑止力としての役割は担って頂きます」
補足のような形でアキトが口を開く。
まあヒーラーばかりの集団では危ない連中に狙われやすそうか。
首輪の繋がれた番犬くらいの役割なら別にしてやってもいい。
「そして何より、『モンスターショック』の際に教会を優先的に守って頂きます。これこそが教会所属チームの1番の役割だと言っても差し支えありません」
……
……モンスターショック、だと?
全く聞いたことがないのに、やたらと重要そうな単語が出てきた。
「……はぁ、いよいよ説明を避けられなくなってきたな。 ――少し待っていろ、家主を連れ戻って帰ってきたら大事な話をする」
しようとは思っていたが、面倒だと後回しにしていた。
だが流石に『モンスターショックとは何だ?』と聞けば、おそらくこいつらは『あなたは何だ?』と返してくるだろう。
そのくらい知ってて当然のようにこの単語を出してきた。
まあ、仕方あるまい。
重い腰を上げて玄関へ向かう。
説明するとなれば、話の信憑性とコーヒーのお代わりの為に、カスミを連れ戻さなければいけない。




