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スマホ少女は空を舞う~AI独裁を打ち砕くお気楽少女の叛逆記~  作者: 月城 友麻


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25. ハリボテの科学

 青い顔をしている瑛士の瞳を、シアンは嬉しそうにのぞきこむ。


「もちろん、そんなおとぎ話でも可能性はゼロじゃないし、はるか昔、それこそ何千兆年前にそんなことがあったかもしれない。でも、この世界がそんな奇跡の中の奇跡の結果だなんて科学的にはあり得ないじゃん? 少しでも確率計算したら、あり得ないってすぐにわかるからね」


 瑛士は反論しようとしたが、確かに世界を創ることができる技術があるのだとしたら、百億年にわたる奇跡の結果というより、作られた結果の方が圧倒的に納得感があった。


「じゃ、じゃあこの世界は誰かが創った世界……?」


 この世界が人工的な創作物だという荒唐無稽(こうとうむけい)な話に直面し、瑛士は混乱し言葉を失う。生まれてからずっと信じて疑わなかった現実に対する疑念に心は乱され、さらには自己の存在そのものにも疑いは広がっていく。自分の記憶、感情、さらには自分自身が本物かどうかさえ確信が持てなくなり、思わず頭を抱えた。


「何よ! 私たちのこの世界がハリボテとでも言いたいの!?」


 横で聞いていた絵梨がイラつきを隠さずに叫んだ。


「あら、ハリボテじゃない証拠ってあるの?」


 シアンは嬉しそうにニヤッと笑って碧眼をキラリと光らせる。


「えっ!?」


 絵梨は言葉を失ってしまった。世界は精緻で広大だ。でも、それだけでは作り物ではない証拠になんてならない。


「証拠! 証拠! くふふふ……」


 シアンは楽しそうにカンカンと配管を叩いた。


「探査機とか他の惑星に飛ばしていたけど……」


 瑛士は話に聞いた天文学の知識を思い返すが、この世界を創った存在がいたとするならば、そんなのいくらでも操作可能だろう。圧倒的な技術力を持つ者からしたら人類の観測機器を欺くことなんて朝飯前……。瑛士はため息をついて首を振った。


 しかし……、そんなことって可能なのだろうか? こんなリアルで高精細な世界を創るとしたらどんな方法が?


 瑛士は以前見せてもらったVRMMOのゲームがふと頭に浮かぶ。かなり前の技術だったが、それでも高精細な世界を実現していてみんな楽しそうに遊んでいたのだ。あれを突き詰めていったらこの世界も……できる?


 瑛士は背筋を襲う突然の寒気に身震いし、自分の手のひらを眺めた。


『これが全部合成像? 馬鹿な……』


 瑛士は両手をにぎにぎと動かし、とても作られたようには思えないリアルな手のひらのしわの寄り方に首を傾げた。だが……、技術的には不可能ではない。その事実が胸をキュッと締め付ける。


「じゃあ何? この世界を創ったのがあなただって言いたいの? あなたは神だとでも言うの!?」


 上手い返しができなかった絵梨は、シアンに食って掛かる。


「さぁね。それより、いよいよ目的地だゾ」


 シアンは鋼鉄製の扉をスマホで照らし出し、好奇心を押さえられない様子でカンカンと叩いた。



       ◇



 一行は金属製の階段を百メートルほど上っていく。息を切らし、しんどくなってきた頃いきなり視界が開けた。見上げると鉄骨だらけで作られた巨大空間が巨大なパビリオンの様に広がっている。ついに風の塔にたどり着いたのだ。


「おわぁ……。風の塔の中ってこうなってたのか……」


 瑛士は肩で息をしながらその巨大構造物を見上げる。


 高さは百メートル規模の、円筒を斜めに切った門松の竹みたいな形の風の塔。上層部が核爆発の時に破壊され、青空がのぞいていたが、ほぼ原形をとどめていた。


「わぁ……。私も初めて見たわ……」


 絵梨も見上げながら感嘆の声を上げた。移動を禁止されてしまった人類にとって、川崎の住民と言えど、アクアラインはもはや誰も近づけないAI専用道路となってしまっている。


「さてと、では、いよいよクォンタムタワーを倒すぞー!」


 タッタッタと風の塔の出口に急いだシアンは、ノリノリでドアをガン! と景気よく開ける。


 いよいよやってきた運命の時。瑛士はバクンバクンと激しく高鳴る心音を聞きながら慌ててシアンを追いかけた。



          ◇



 出口のドアを抜けると、目の前には真っ白な壁が視界を遮っていた。


 へ……?


 瑛士は上を向いて、それが太さ三百メートルあるクォンタムタワーの巨大な壁面であることに気づいた。


「マ、マジかよ……」


 まるで宇宙にまで届いているかのように一直線に空を突き抜けていく巨大タワー。その圧倒的な規模は想像をはるかに超え、瑛士は思わず後ずさってしまう。


「いやぁ、デカいね。きゃははは!」


 シアンは手で日差しを遮りながら、霞む塔の先端を見上げ、喜びに満ちた笑顔でその光景を楽しんでいた。



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