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でたらめを諦めるな

作者: 唐揚げ

 冬休みの宿題として、読書感想文を言われた。

 冬休みの宿題らしくない事であって、どういうわけかと困惑していたが、どうにも担任の教師が夏休みの宿題として配布をする予定だったものをすっかりと忘れ去っており、それを冬休みの宿題として配布する事で、なんとか事なきを得ようとしているらしかった。

 果たしてそれで本当に事なきが得れるのかというのは、疑問があったが、とかく出された宿題は対応しなければならない。それが、学生としての身分として与えられた義務であると思っていた。


「というわけで、読書感想文なんだが、何を読むんだ?」

「それが困ってるんだよねぇ」


 私はリビングに置かれた炬燵に入りながら、困ったように、兄からの質問に答えた。

 天板の上に積まれているみかんを手に取ると、ゴロゴロとみかんの山が崩れる。皮を剥き、その一房を口の中に放り込んだ。


「さっぱり思いつかないの」

「何でもいいから適当に本読んで、読書感想文っぽいこと書けばいいんじゃねぇの?」


 兄が自身のみかんの皮を剥きながら答えた。彼は豪快に一つ丸々を口にすると、美味そうにその顔を綻ばせる。

 

「お兄ちゃんもそう思う? だけどねぇ……」


 私は視線を動かした。

 視線の先には本棚がある。父と母が読書家である故に、リビングにも本棚がある。父親が集めている本は旅行に関する本が主であり、母が集めている本は料理や生活に関する本であった。そして本棚の大半を占めているのは、ほとんどライトノベルだ。ラノベを読んで、それで読書感想文を書ける気がしない。

 私は読書家ではないので、はっきり言って、あまり関心がない。

 

「そうだなぁ……ライトノベルとかじゃ読書感想文はちょっと厳しいな」


 意気消沈した様子を一瞬、兄は見せたが、ふと思いついたようで顔を上げた。


「存在しない架空の本を、読書感想文で書けばいいんじゃないか?」

「え、なにそれ」

「例えば、今ならChatGPTがあるじゃないか。それに架空の本を出力してもらって、その感想文をさらに書いてもらうんだ。どうだい、いい案じゃないか」

「でたらめだよ」


 私は兄に対して言った。とはいうものの、内心では、ありではないかというのを考えていた。実際に存在しない小説を考えてもらうというのはよくないが、何かしら適当な文章で埋め合わせてしまえばいい気がする。


「やってみようかな」


 私はみかんの白い筋を取りながら、兄に提案した。

 早速、PCを立ち上げてChatGPTに接続すると、架空の小説を出力する旨の指示をする。とはいえ何でもいいというわけではないだろうから、とりあえず文章は私が書く事を条件とした。


「じゃあ『恋する小惑星』でやってみようか」


 ChatGPTに指示をすると、即座にその小説が出力された。そして、数秒の後に終了した。しかし……これが突拍子もない内容であり、はっきり言って、お世辞にも面白いとは思えないような内容だった。が、それであれば、読書感想文として書いたとしても、許される気がする。


「お兄ちゃん、これでもいい?」

「いいんじゃないか」


 兄は適当な返事をして、再びみかんを剥き始める。すっかりと、私の宿題については興味を失ったようだった。もっとも、私自身も、あまり興味を持っていないというのだから、それよりもさらに関係ない兄が興味を失うのは当然だった。

 かくして、私は読書感想文を書きあげた。でたらめな内容だったが宿題として提出するには問題ない気がする。おかげで、一つ宿題を片付けられた私は、冬休みを悠々と過ごすことが出来た。


「あのちょっと」


 冬休みが終わって、担当教師に呼び出された。


「あの、ごめんなさい。読書感想文の事なんだけど」

「はい」

「実は教育委員会の方から、あなたの作品を表彰したいという事が来ていて」

「はい?」

「ごめんなさい。やっぱり、読書感想文の枠を越えるものとして捉えられたようで……それで、学校として表彰をしようという話になってるの」

「……そうなんですか」


 私は呆然とした。

 架空の話を、読書感想文として書いただけでしかないのに、こうなってしまうと大事だ。だが、素直に、認めるのも出来ない。怒られてしまうというのもあったし、ここまで話が大きくなっているとあっては、もう後戻りできない。

 が、そうであっても、私としては嘘は吐きたくない。

 素直に、実の所、と読書感想文が架空の存在であると担任に伝えた。

 

「じゃあ、今回の表彰は辞退したいんですけど」

「何言ってんの。表彰なんて受けておきなさいよ。最後まであきらめないで」


 という経緯を経てから、私の手元には読書感想文の表彰が届いた。

 表彰状には特に関心を持たなかった私は、表彰理由が記載された用紙に注目していた。


『 ――貴殿は、愛する惑星についての読書感想文を―― 』


 間違いを訂正してもらうかどうか。

 私はその用紙を手にしたままにじっと考え込むことになるのだった。

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