第6話 後編 遊びだよね
映画を見終わり、僕たちは映画館から出る。
「面白かったね。原作にも忠実だったし、映像も綺麗だったし」
「それなら良かった。来たかいがあったね」
「凛は面白かった?」
「勿論。私もあの漫画読んでたから、見に行きたいと思ってたの」
凛がつまらなかったらどうしようと思っていたのだか、凛も楽しんでいたようで少し安堵した。
ただ、これで終わりでは無いらしく、凛は僕の手を引きながらどこかへ向かっていた。
「あの、凛」
「春樹、どうかしたの?」
「ちょっとトイレに……」
僕は近くのトイレを指差しながら凛にそう言う。Lサイズのドリンクを買っていたため、映画を見終わった時点からトイレに行きたくなったのだ。
しかし、映画を見終わるなり次の場所へと歩き始めてしまったので、行く機会を逃してしまったのだ。
「あぁ、うん。分かった。あそこで待ってるから、行ってきていいよ」
「ごめんね、ちょっと待ってて」
結構限界だったため、僕は小走りにトイレへ向かう。あまり待たせてはいけないし、少し急がなければ。
☆☆☆
特に混んでいる訳でもなく、時間にすれば数分も経たずに僕はトイレから出て、凛が待っているところに向かって、少し走り出す。
その場所に近づいてくると、何やら言い争うような、男性と女性の声が聞こえてきた。女性の方は…凛?
近くの柱の影に隠れ、僕は凛のいる方を伺う。もしかしたら、知り合いと会ったのかもしれないし。
「ーー本当に少しお茶するだけですから。ね?」
「駄目です。今人を待っているんです」
「あそこのカフェ美味しいんですよ。少しだけですから」
「無理です。やめてください!」
「じゃあせめて、連絡先だけでも……」
話しかけられているのは凛で間違いなくて、その前には高身長イケメンな若い男の人が二人立っていて、どうやらナンパのようだった。
凛も困ってるみたいだし、何とかしなきゃ。そう思い、特に考えも無いまま僕は凛の方へ向かう。
「り、凛!」
「あ、春樹……」
「本当に人を待ってたのか……すいませんでした、それでは俺たちは失礼しますね」
イケメンたちはまぶしい笑顔で大人しく去っていった。どうやら、引き際を分かっているようである。
イケメンたちが見えなくなったのを確認して、僕は凛の方に向き直る。
「凛、大丈夫? 遅くなっちゃって」
「春樹……春樹っ!」
「うわっ」
凛は安心したのか、僕に抱きついてきた。
きっと、自分より大きな男二人に囲まれ、ナンパをされた事が怖かったのだろう。今は、こうしている方がいいだろう。
僕は暫く凛の頭を撫でながら、凛が落ち着くまでそうしていた。
「ーー落ち着いた?」
「うん、ありがとうね。春樹」
「いや、大丈夫。……じゃあ、次はどこ行くの?」
「あぁ、うん。あそこのカフェ行こ?」
そう言って凛が指したのは、さっきのイケメンたちが言っていたカフェであった。
カフェなんて行ったことが無いので少し緊張するが、また凛に手を引かれ、僕はカフェに入った。
☆☆☆
カフェに行ったり、昼食を食べたり、服を買ったりと、その後も色々な事をして、気づくと夕方になっていた。
「そろそろ帰る?」
「うん、そう……あっ、最後に一ついい?」
「うん、大丈夫」
凛は僕がそう聞くとキョロキョロとしだし、何かやりたい事を見つけたようである。
凛は近くにあったゲームセンターに入っていき、少し奥まで行く。すると、そこにはプリクラがあった。
プリクラを撮るつもりなのだろうか。僕は今まで当然プリクラを撮ったことなど無いため、勝手がよく分からないのだが、大丈夫だろうか。
「ホントに撮るの?」
「いいって言ったのは春樹でしょ? それに記念にやりたいなって」
「うーん……」
「もう、迷ってないで。ほらっ!」
写真そのものがあまり得意ではないため、僕が躊躇していると、それにしびれを切らしたのか凛が強引に僕の手を引っ張る。確かにいいと言ったのは僕なので、あまり文句は言えない。
僕は凜に手を引かれるままにプリクラに入っていき、初めて入ったプリクラにキョロキョロとしている間にコース設定などが終わっていた。
「……ねぇ凜、これってどんなポーズすればいいの?」
「私に合わせてみて」
「あ、うん」
初めてなので勝手が分からず、とりあえず凜の指示に合わせてポーズをとる。
「まずは指でハート!」
「え? えっと、こう?」
最初からどこかおかしい気がするのは、僕の気のせいだろうか。
「腕を組んでピース!」
「は、はい!」
さっきより普通なのか? もしかしたら、普通はこんな感じなのかも。
「肩組んで!」
「ん」
これはまだ分かる。前半二つは男女の友達でやるものなのだろうか。
「二人でハート!」
「え、えぇ?!」
凜が出した手と合うようにハートの半分をつくる。やっぱりこれ、おかしい。僕がそう思っているのに気づいていないのか、凜はまた次のポーズを言う。
「春樹はここにしゃがんで」
「はい…ってえぇ!」
凜が後ろから抱き着いてきて、僕は驚いて体勢を崩しそうになった。
「これおかしくない?」
「……おかしくないおかしくない。ほら次、お姫様抱っこして」
「え? え?」
凜に睨まれたので凜をお姫様抱っこする。思ったより軽くて、僕でも簡単に持ち上げることができた。凜は僕の首に腕を回してきたので、またしても僕は驚いてしまった。
「はい最後! き、キスするよ!」
「いやいやいや! ダメだって」
「むぅ、じゃあ手で狐作って、それでする」
最後にとんでもない要求が来たため、僕は慌てて拒否する。凜は少し恥ずかしそうにしながらも、別のポーズをとることにしてくれた。
これで撮影が終わり、凜は何か書いているようだった。僕が覗こうとすると凜に止められたため、僕は凜が書き終わるまで待っていた。
☆☆☆
プリクラの撮影が終わると、凜は写真を持ってすぐに出口へと向かっていった。耳がほんのりと赤くなっていたので、凜も恥ずかしかったのかなと思った。恥ずかしいなら別のポーズにすればよかったのに。
何だか最後は慌ただしくなってしまったが、これで今日は帰ることとなった。帰りのバスの中で、僕は凜に何故プリクラであんなポーズをとったのか聞いてみる。
「ねぇ、なんでプリクラあんなポーズとったの?」
「春樹は嫌だった?」
「別にそういうわけじゃないけど、でも……流石に距離感近くなかった?」
「気にしないでいいのっ」
凜はそう上機嫌な様子で言うと、窓の外を眺め始めた。どうやら僕に教えてくれるつもりはないらしい。プリクラで撮った写真も貰ってないし、これは凜の秘密のようだった。
秘密と思うと気になってくるが、こういうのは聞かないのが正解だろうと思い、僕も凜と同じく窓の外を眺めることにする。
「……恋人っぽいことがしたかったなんて、絶対に言えないや」
外で一台の車が大きなエンジン音でバスを抜き去って行き、凜が何かを言った気がして凜に尋ねる。
「なにか言った?」
「ううん、何も」
凜は窓の外から視線を離さずそう答えたため、僕は気のせいだと思うことにした。
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作者多忙のため、しばらく続きが書けません。申し訳ありません。