第5話 二人きり
翌週。
火曜日に一度委員会のメンバーで集まり、当番など、役割を決めた。
その結果、僕と凛の当番の日は毎週金曜日の昼休みと放課後と言うことになった。
金曜日の放課後は休日の様なものなので、そこで委員会の活動が入ってしまったのは少し残念だった。
そして、今日は金曜日である。
この一週間、毎日のように凛は僕たちと一緒に昼食を食べ、その度に僕は周りから注目されてしまった。
一年生の女子は特に気にしていないようだったが、二年生以上の男女と、一年男子からは注目を浴びてしまった。
女子は不思議そうに見ているだけだったが、男子からは嫉妬や羨望の視線を向けられた。
僕は普段あまり注目されるような人では無いので、そんなふうに見られるとそこに居づらくなり、あまりゆっくり昼食を食べられなかった。
今日で今週の学校は終わりなので、ようやく落ち着いて過ごすことが出来ると安堵しながら、僕は一人で図書室へ向かう。
少し教室に忘れ物を取りに帰ろうとしたら、担任の先生に声を掛けられてしまった為、図書室へ行くのが少し遅れてしまったのだ。
凛は先に図書室に行っているらしいのだが、図書室のドアを開けたら既に人が沢山いるとかいうことは無いだろうか。
凛は学年問わず注目を浴びていて、それでも平気そうにしているのには驚くが、その分既に有名にもなっていて、新しく更新された学校の三大美人にランクインしていた。
その為、凛が図書委員で金曜日の当番だということは広まっているはずである。
昼休みは大丈夫だったのだが、放課後に凛を見たいが為に人が集まる可能性だってあるのだ。
その場合、隣の椅子に座って仕事をしなければいけないのはあまりいい事では無い。
その事を不安に思いつつも歩いていると、図書室の前に着いてしまった。
図書室の前に人は居なかったし、中も静かである。
「大丈夫だよね…うん」
僕はそう小さく呟いて、深呼吸をしてからドアを少しだけ開けた。
そこから中を覗いて見たが、特に誰か人がいる様子はなかった。どうやら余計な心配だったようだ。
僕がそう思っていると、中から誰かの足音が近づいてきた。
なんだろう。と思っていると、いきなりドアが開かれた。
僕がびっくりして後退りすると、そこには凛が立っていた。
「び、びっくりしたぁー」
「ふふふっ。驚いてくれたなら良かった。別にそんなコソコソ覗かなくても、普通に入ってきてくれていいんだよ?」
「あぁ、ごめんね」
凛に手を引かれて、図書室の中に入る。
すると、奥に一人くらい居るのかと思ったが、本当に誰もいないようで、図書室の中はシーンと静まり返っていた。
「金曜日はみんな早く帰りたいのかな? ここに向かってくる人も見なかったし、私が来てから入ってくる人もいなかったよ」
「そうなんだ……暇になりそうだね」
僕がそう言うと、凛がクスクスと笑いだした。
「どうしたの?」
「あ、ごめんね。ちょっと嬉しくて」
「嬉しい?」
「うん、そう」
そう言うと凛は僕に近付いてきて、
「二人っきりだね」
と言って、凛は僕の肩をポンと叩いて受付の中へ入っていった。
僕は少しの間そのまま立った状態でいて、急いで受付の中へ向かう。
(確かに、二人きりなら余計な注目もされないし、そう考えると金曜日の放課後は別に悪くないかもしれないな)
僕はそう思い、二人きりというのもまだ悪くないなと考えながら、受付に入り、僕から見て奥にある入口側の、凛の右側の椅子に座る。
「「……」」
誰も居ないのはいいのだが、無言の時間が続くのは気まずいなと思っていると、凛が僕をつついてきた。
「これ、貸してあげるから読んでみて」
「これは?」
「私の好きな本持ってきたの。暇だったら読んでくれると嬉しいな」
「ありがと。丁度暇だったから助かるよ」
凛が渡してきたのは幼馴染モノのラノベだった。ラブコメなど、恋愛系の本はあまり読んだ事がないため、新鮮でいいかもしれない。
そう考え、僕はその本を読み始める。凛は僕が本を読み始めたことに満足したようで、他の本を取り出して、同じく本を読み始めた。
意外と面白くて読むことに没頭してしまい、ふと時間が気になって顔を上げる。時計は僕の左側にあるため、そちらを向く。
すると、本を読んでいる凛の姿が目に入った。
夕日が差し込み、全体的に赤く染った図書室。そこで普段は下ろしている横髪を耳にかけ、集中して本を読む凛の姿。
思わず、見とれてしまった。
「……どうかしたの?」
「…えっ? あっ、いや、なんでもないよ」
「そう?」
暫く見つめてしまったため、凛にも気づかれてしまった。
僕は目を逸らして、また本を読み始める。
(気をつけなきゃなぁ。凛は凄い美人だから仕方ないかもしれないけど)
今回みたいに見とれてはいけないなと思い、気をつけようと思った。
結局時間を見るのを忘れていた為、時間を確認する。
もうすぐ十七時半になろうかというところだったので、凛に声をかける。
「凛、もう終わるからこれ返すよ」
「え? もうそんな時間? というか、本は貸してあげるから読み終わったら感想教えて」
「あ、ありがとう。読み終わったら教えるね」
本を返そうとしたのだが、返そうと差し出したところを凛に手で止められ、そのまま僕が抱える様な形で戻されてしまった。
続きが気になっていたので、貸してくれるのはありがたい。
凛から受け取った本を鞄に仕舞い、図書室から出て鍵を閉める。
「僕が返してくるから、凛は帰ってていいよ」
「そう? ありがとっ」
凛はそう言うと、小走りで図書室から離れていった。
僕も鍵を返しに職員室へ向かい、鍵を返してから昇降口まで向かう。
靴を履き終わって外に出ると、柱の影から何者かが飛び出してきた。
「うわっ!」
「はーるーき! 帰ろっ」
「凛か…驚かさないでよ」
凛は両手を後ろで組んで、前屈みになりながら上目遣いで僕を見つめてくる。
こうやって驚かされているのは心臓に悪いので、やめて欲しいと言えばそうなのだが、これも含めて凛なので、このままでいて欲しいという思いもある。
「ていうか、先帰ればよかったのに」
「いいでしょ? 話したいこともあるし」
「まぁ、うん」
辺りも段々と暗くなってきているので、一人で帰らせてしまうのも危ないかもしれない。
何かは分からないが、凛が言いたいことがあるらしいし、送って帰った方がいいだろう。
僕は凛と並んで歩き、凛の家へ向かう。そこまで僕の家と離れていないので、送って行っても大して遠回りにはならない。
「それで、話したいことって?」
凛の家に近付いてきたが、特にいつもと違う会話をした訳では無いので、話したいことについて聞いてみる。
すると、凛は立ち止まって下を向いてモジモジしだした。
「えーっと、そのぉ……」
「うん?」
「あー、えー…」
凛は口篭っていて、何か恥ずかしがっているようにも、考えているようにも見えた。
(まさか特に話したいことが無かったとか?)
僕がそんな風に考え始めたとき、凛が突然ハッキリ話し始めた。
「遊びに行こう! うん」
「え?」
「明日遊び行こ? 十時に春樹の家行くから、待ってて?」
「いや、ちょっ」
「用事あるの?」
「別にそうじゃないけど…」
「じゃあいいよね! 明日楽しみ!」
「えぇ…」
凛は何か納得したかのように話し出し、そのまま勢いで明日遊びに行くことになってしまった。
土日と言っても、帰宅部の僕はゲームやアニメを見るだけで、用事なんて無いので、拒否しても凛が押しかけて来そうな気がして、断ることが出来なかった。
すると、凛が突然真っ赤になり、「じ、じゃあまたね!」と言って走っていってしまった。
「……何だったんだ?」
何もかもが突然すぎて、これが本当に起きたことなのか分からなくなってしまったが、少なくとも明日用事がある可能性が出てきてしまった。
凛が行ってしまったので僕は自分の方向へと足を向けて歩き出した。
☆☆☆
凛side
走って家に帰り、自分の部屋に急いで飛び込んでからさっきのことを思い出す。
(うわぁぁあー! なんで突然あんな事言っちゃったの?)
自分がやった事に恥ずかしくなり、枕に顔を埋めて足をバタバタさせながら考える。
(本当はただ春樹と一緒に帰る口実が欲しかっただけなのに、テンパってデートの約束しちゃった…)
春樹の考えていたことは正解であったと言える。凛はただ春樹と一緒に帰りたかっただけなのだ。
(どうしよう、明日どうすればいいんだろう。うぅー…)
私は明日の服装やプランについて考えながら、自分のした事が恥ずかしくなり、更にベッドの上でバタバタと動いていた。
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