第1話 入学式
最初は少し感覚を短く投稿します。
凛との『幼馴染の関係』を断って一日。
今日は高校の入学式だ。
凛の成績であればもっといい高校を狙えたはずなのだが、凛は僕と同じ、普通の高校を受けて、余裕で合格していた。
首席らしく、入学式ではスピーチをやるらしい。流石凛だ、と言うべきか、凛なら当然だと言うべきか。
何はともあれ、今日から新しい生活が始まるのだ。
周りから置いていかれないようにしなければならない。
スタートダッシュに失敗するのは高校生活に於ける敗北を意味するかもしれない。
しっかり友達を作らなければ。
そう考えながら、僕はクラス表の掲示されている所へ向かう。
掲示板に近づくと、凛の姿が見えた。
凛も僕の事を見つけたのか、僕の方へ近寄ってくる。
折角関係を断ったのに、凛から関わってきてしまっては僕の決断の意味が無いのだが、逃げるのもおかしいので、そのまま凛を待つことにする。
凛は既に周りから注目を浴びていて、男女関係なく殆ど全員が凛の事をチラリと見ていた。
「春樹、同じクラスだったよ。私たち」
「そうなんだ。御厨さん、今年もよろしくね」
周りが少しザワつく。
凛が僕みたいな平凡な男子と仲が良さそうに話したことか、凛が僕を下の名前で呼んだことか。
どちらにせよ、あまりいい状況では無い。
そして凛はというと、少し悲しそうな表情をしていた。
仕方ないのだ。凛を名前で呼んでしまうと、まだ凛と僕の関係を知らない人に勘違いされてしまう可能性がある。
元々、僕が通うこの学校に、同じ中学から来る人は殆ど居ないので、尚更勘違いされてはいけないのだ。
そのため、凛に小さな声でこう伝える。
「取り敢えず、僕の事は笹木くんとでも呼んで」
「……分かった」
凛は苦しそうな顔をしながら僕に返事を返した。
何か、勘違いがある気がする。
僕も、決断して直ぐに凛に話をしに行ったので、考えが纏まっていなかったり、説明不足だったりしたところがあったと思う。
これはどうにかしなければ。
「凛、今日の放課後、僕の家に来てもらっていい? 昨日のこと、もう少しちゃんと説明しなきゃと思って」
「うんっ、分かった。絶対行く!」
凛は此方に体を向けて、小さく喜んでいた。
僕は苦笑しながら凛から目を離す。
ここまで喜ばれてしまうと、自分から言ったことでも『幼馴染の関係』を断った事に罪悪感を感じてしまう。
☆☆☆
僕は凛と一緒に教室まで向かい、凛の後に続いて一年二組に入る。
教室に入ると、先に来ていた人達がこちらに注目する。
勿論、僕を見た訳ではなく、凛のことを見ているのだが。
その次に、その注目の目が僕に向けられる。
まぁ恐らく、「誰だこいつ」「あの人とどんな関係だ」とか言う感じだろう。
半分睨んでいるような奴もいた。別に僕は悪くないし、僕みたいな平凡な男子が凛と付き合ったり出来るわけも無いだろうに。
僕たちは席を確認して、それぞれの席に向かう。
御厨と笹木なので、勿論席は離れている。
「じゃあ、またね。はる…笹木くん」
「うん。じゃあまた」
そう言って僕は自分の、窓側から二列目、後ろから二番目という、そこそこいいポジションの席に向かう。
因みに、凛は教室の前の入口付近だ。
自分の席に着くと、既に何人か周りの席の人が来ていた。
左隣には茶髪の、少しチャラそうな感じのイケメン男子が来ていた。
僕が自分の席に荷物を置くと、まずは隣の席の男子に話しかけられた。
「初めまして。俺、榎本來夢って言うんだ。
こんな見た目だし、名前が結構変わってるから勘違いされやすいんだけど、そんな陽キャって訳じゃなくて、そのー」
そこまで言うと榎本くんは黙り込んでしまった。
確かに、陽キャでも、チャラいって感じの雰囲気でも無い。
寧ろ、僕よりもコミュニケーションとかで言えば苦手そうではある。
「榎本くん、でいいかな。良かったら友達にならない?」
「っ! ありがとう。最初に失敗したくなくって、結構不安だったんだ」
「うん。僕もそうだったよ」
「そっか。えっと、名前って…」
そういえば名乗って無かったなと思い、榎本くんに名前を教える。
名前を教えると、榎本くんは、「春樹…いいなぁ、うん。いい名前だ」などと呟いていた。
そんなに「來夢」という名前が嫌なのかと思ったが、本人の性格からすると、確かに少しイメージとは違うので、苦労したことがあるのかもしれない。
その後少し榎本くんと話していると、意外と話が合うことが分かった。
僕は、メジャーな漫画やアニメから、かなりマニアックな物までその多くを見ていた。
榎本くんも意外にもそういったものが好きらしく、思っていたより今放送中のアニメで話が白熱してしまった。
その他にも、ラノベやゲームなど、所謂「オタク」と言われるような趣味の大半が被っていた。
榎本くんは、イケメンだったこともあって、あまりにそういった話が出来なかったらしく、結構嬉しそうにしていた。
俺たちがそのまま話していると、続々と他の人たちもやってきて、クラスの殆どの人が教室に揃った状態になっていた。
全員が揃ってから暫く経ったあと、教室の扉が開かれて、先生らしき人が入ってきた。
どうやら、担任の先生らしい。男の先生だが、怖そうな感じでは無いので少し安心した。
「よーし、全員揃ってるな。出席番号順に並んで体育館まで行ってくれ。体育館の場所知ってる奴いるか?」
その先生の質問に、真面目そんな感じの女子が手を挙げたので、僕たちはその人に連れられて体育館まで移動し、入学式を受けた。
☆☆☆
入学式といってもそんなに面白いものではなく、記憶に残っているのは抑揚のない生徒指導の先生の声と、見事に禿げ上がっていた校長先生の頭。
そして、凛の新入生の代表挨拶くらいだ。
といっても、その全てに於いて何を言っていたかは殆ど聞き取れなかった。
それくらい、入学式は退屈だった。
教室に戻ってからも暫くはボーッとしていて、先生が来るまでは半分位は夢の中だった。
先生が教室に入ってくると、教室の中が完全に無音になった。
「おー、お前ら静かでいいな。
まずは入学おめでとう。今日は入学式が終わったから、後は自己紹介と配布物を配って終わりだ」
その言葉に、教室の中が少しザワつく。
まぁ、中学校から卒業したてなので、少しでも遊びたいのだろう。
遊びに行こうといった声が少しだが聞こえてきた。
その後、先生の指示に従って自己紹介が行われた。
僕と榎本くんは普通に自己紹介をした。
榎本くんが「アニメとか好きです」と言ったときは少しザワっとしたが、榎本くんは気にしていない風だった。
実際、気にしていないのだろう。朝の様子を見ていればそれくらいは分かる。
…で、問題なのは凛の自己紹介だ。
「○○中から来ました。御厨凛です」
ここまでは良い。
名前を言っただけで周りからは拍手が起きていた。
問題はこの次。本来ならば趣味などを言うところだ。
「笹木春樹くんとは幼稚園からの幼馴染です。一年間よろしくお願いします」
それだけ言うと、凛はサッと席に着いた。
教室中の視線が僕に向いたことは言うまでもない。
暫く時間が止まったようにすら感じたが、先生が次の人に進めてくれたお陰で何とかそこは耐えることが出来た。
……だが、僕は結局男子だけではなく、教室中の生徒に捕まることになってしまった(榎本くんを除いて)。
その中には、大人しそうな感じの人も含まれていたので、凛にはやはり驚いた。
帰ろうとしたところで止められ、リーダーっぽい男子から質問される。
「笹木くん、君、御厨さんとどういう関係?」
…はぁ。これでは高校生活の先行きが不安になる。
僕は少し悩みながらも、面倒なことになりたくはなかったので彼らと話す事にした。
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