プロローグ 足枷を捨てる
趣味で書いているものなので、軽い気持ちで読んでいただけると幸いです。
僕、笹木春樹は何においても平凡な男子だ。
容姿は中の中。勉強は常に平均点。運動は人並みに。友人はそこそこ。存在感も普通。
とにかく平凡な、目立つことの無い普通の男子だ。
そんな僕だが、一つだけ、他の人とは違う点がある。
それは、僕の幼稚園からの幼馴染である、御厨凛の存在だ。
彼女、凛は、容姿端麗、頭脳明晰、オマケにスポーツ万能で誰にでも優しいなど、天から二物も三物も与えられた、どこから見ても完璧な女子だ。
そのため、人望も厚く、中学の時は生徒会長を務めていた。
スポーツ面でも、中学ではテニス部に所属していて、全国三位といった華々しい成績を残している。
勉強面では、中学の間は殆どのテストで一二を争っていて、成績はオール五だった。
そういった成績をひけらかす事が無いため、凛は人望があったのだろう。
また、凛は優しい性格だったので、幼馴染と言う理由で僕にも構ってくれた。
周りからは多少羨まれたり揶揄われたりする事もあったが、大体の人はそれが凛の優しさであって、僕と話したくて話しかけたとは思っていないようだった。
実際、僕もそう思っていた。
僕と凛は、幼稚園から一緒で、多少親同士の交流があったから昔よく遊んでいたというだけで、凛が僕に話しかけてくれるのは、昔から一緒だからという情けと、一緒だったからこそ話しやすいというだけだろう。
その中に、恋愛感情などは全く含まれていないのだろう。
だからこそ、僕とのこの関係は凛にとって足枷のようなものになっているのではないかと感じている。
だってそうではないか。
凛は僕に関わる必要性は無いし、親や幼馴染という関係に繋がれているから仕方なく関わっている。
そういうことでは無いのだろうか。
勿論、凛は優しい性格なのでそういう風に考えていないことは分かっている。
だが、僕はそれが申し訳なかった。
僕という存在と関わらないことで凛には新たに時間が増えることになる。
その時間を使えば凛は色々な事が出来る筈だ。
だから僕は、凛との関係を、幼馴染という物から変えたいと思っている。
高校の入学式の前日。
そこで僕は凛との今の関係にけりをつける。
☆☆☆
高校の入学式の前日。
明日の準備を終わらせ、凛の家へ向かう。
凛の家の前まで行き、インターホンを押す。
すると、凛では無い別の女の人の声が聞こえた。凛のお母さんだろう。
「すいません、春樹です。凛居ますか?」
「あら、春樹くん。ちょっと待っててね。今開けるわ」
そういうと、家の中からバタバタと音が聞こえてきた。
そこまで急ぐ必要は無いと思うのだが、そこから十秒ちょっとで家の扉が開いた。
「さぁ、どうぞ」
「ありがとうございます。お邪魔します」
「春樹くんは礼儀正しいわねぇ」
礼儀やマナーに関しては、親から守るように言われていたし、今は体に染み付いているので、自然とそういったことは出来るようになった。
僕は脱いだ靴を揃え、家に上がってから凛のお母さんに質問する。
「あの、凛と話がしたいんですけど、今って大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫よ。あの子なら今部屋にいるわ。多分声を掛ければ入れてくれると思うわ」
「ありがとうございます」
僕はそう言うと、二階にある凛の部屋へ向かった。
凛の部屋の前に着き、ドアをノックして声を掛ける。
「凛、僕だよ。今って大丈夫かな?」
「えっ、春樹? ちょっと待っててね」
部屋から凛の返事が聞こえると、次にドタバタという音が聞こえて来た。
暫くその音が続いた後、ドアが開いた。
「ふぅ。お待たせ、春樹。入って」
「ありがと」
凛は息が切れていて、部屋の中で何をしたらそうなるのかと思ったが、聞かない方がいいだろうと思い、凛の後に付いて部屋の中に入った。
凛の部屋は全体的に白とピンクで統一した、女の子らしい部屋だった。
一つだけ前と変わった部分を上げるとするなら、高校の制服が掛けられている事くらいだろう。
凛を奥に座らせ、僕は手前側に座る。
今ここで凛との関係を変えると思うと、緊張してしまい、少し体が硬くなる。
「それで春樹、今日はどうしたの?」
「えっと、ちょっと話したいことがあって」
「ふーん。それって何?」
そう言うと、凛はどこか期待を込めたような、そんな目で僕を見つめてきた。
何故そんな目で僕を見てくるのかは分からなかったが、僕は意を決して本題に入ることにする。
「凛、僕は凛との関係を変えようと思ってるんだ」
「そうなの?」
「うん、高校に入るからね」
僕が凛との関係を変えようとしていることを伝えると、凛はさらに目を輝かせ、さらに期待を大きくしたようである。
凛はそんなに僕との関係を断ちたいのだろうか。
そう考えるとやはり悲しくなってくる。
僕が凛にとって足枷となっていたとしても、今まで過ごした時間は僕の中に残っている。
それなのに、凛が関係を断つことを望んでいて、僕を邪魔に思っていたとしたら、流石に嬉しくは思えない。
僕だって本当に関係を断ちたい訳では無い。
ただ、凛の足でまといにはなりたく無かった。
凛というブランドに傷をつけるものにはなりたく無かった。
だからこそ、僕は凛との関係を断つ決断をしたのだ。
僕は深呼吸をして、凛の目を真っ直ぐ見つめる。
「凛、これから僕と関わることは辞めよう」
「……え?」
「僕は、凛の足枷になってしまう。だから、高校では関わることを辞めよう」
そう伝えると、凛の顔からみるみる血の気が無くなり、プルプルと震えて目を潤ませていた。
「な…なんで? 私なんかしちゃった?」
「いや、そうじゃないよ。だけど、僕はあまりにも普通過ぎる。そんな僕が凛と一緒に居ると、凛の株って言えばいいかな。それが下がっちゃうから」
「で、でも、私は春樹と一緒に居たいよ」
嬉しいことを言ってくれる。
だが、そういう訳にはいかない。凛にとって僕はやはり足枷になるだろう。
凛に迷惑を掛けることは出来ない。
僕は今更考えを変えるつもりは無かった。
僕が居なくても、凛はやっていける筈だ。僕が凛に与えることが出来たものは、殆ど無い。
いつも凛に与えられてばかりなのだ。
「ごめんね、僕はもう考えを変える気はないよ。無理して僕に関わらなくてもいいんだ。
…そうすれば、凛も自由に過ごせる時間が増えるだろ?」
「私はそれでも春樹と一緒に…」
「凛は僕の事を好きな訳でもないだろう? 友達が一人減った位に考えてよ。
別に、全く関わらない訳では無いよ。ただ、『幼馴染』として無理に関わる必要は無いって事」
僕は凛と『幼馴染』としての関係を切りに来ただけだ。
全く関わらないと言うつもりは無いし、出来ないだろう。
凛は、殆ど泣いていた。
こんな凛は久しぶりに、小学生の時以来見ていなかったので、心が痛む。
僕は最後に、『幼馴染』として最後に凛を抱きしめた。
抱き締めたまま凛にこう伝える。
「ありがとう。今まで、凛のお陰で楽しかったよ。凛も、これからもっと楽しんでね」
僕は言い終わると凛から離れ、凛に帰ることを伝えて凛の家から出た。
凛の家を見上げ、これが最後になるのかと思い、少し寂しく思いながらも、凛の家を後にした。
読んでくださりありがとうございます。
次話から、高校生活が始まる予定です。
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【連載中の作品】
幼馴染に裏切られた俺、幼馴染を捨てたら最高の生活が始まりました
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