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8.△月△日〜sideアナキス〜

⇢アナベルが頭を打った日からアナベルの様子がおかしくなった。


あれだけ私に"お兄様"と嬉しそうにしていたのにあの日依頼アナベルが私に対してどこかよそよそしくなった。


あの日、アナベルの意識が戻ったと聞き部屋を訪れてもルシフェルはともかく私もすぐに部屋へ入ることができなかった。


いつものアナベルならば私が部屋へ訪れたらすぐに入れてくれていたのに。


その後、ルシフェルを帰らせた。


父上達が帰宅後アナベルの身に起きた事を知り血相を変えてアナベルの心配をしていた。


幸いアナベルは後遺症や大きな外傷はなく私を含めた家族は安堵した。


私はアナベルが元気になったらいつもの様に二人で街へ出かけようと思っていた。

私がアカデミーから帰宅する際は必ず二人で街へ出かけていたからだ。


しかし、アナベルと出かけるどころかアナベルは祖父の家に療養に行きたいと両親に申し出たのだ。


アナベルは療養をとらないといけない程に体調がよくないのかとの心配とやはり私に対してのよそよそしさが気になって仕方たなかった。


あっという間にアナベルが祖父の家に行く日が訪れた。


私もアカデミーへ戻る前にアナベルを見送った。

見送る際もいつもならアナベルの方から抱きついて離れがたいと涙を浮かべていなのに今回はアナベルが抱きついてくることもなかった。

なので私からアナベルを抱きしめた。


アナベルが祖父の家へ発った後に私はアカデミーへと戻った。


アカデミーへ戻る馬車の中で何故急にアナベルが私に対して態度がおかしくなったのかを考えた。


考えた末に"ルシフェル"が関係しているのではないかと思った。


私がその様に思ったのはルシフェルが我が邸へ訪れた事、アナベルが療養へ発った日の午後に私がアカデミーへ戻ろうとした際にカイザー公爵家の公爵夫人からお茶会の招待時が届いた事が理由だった。

きっと私が帰るまでにルシフェルがアナベルへ何か入れ知恵でもしたのだろと思ったのだ。


そして、私は翌日ルシフェルの元へと行き何故我が邸に足を運んだのかを問つ詰めた。

しかし、ルシフェルは純粋に私が戻る日が遅くなるということをアナベルに伝える為だと言った。

私はルシフェルの言葉を疑った。

ルシフェルが友達だからこそよくわかるからだ。

ルシフェルはわざわざそんな理由で面倒なことを嫌う彼が自ら面倒な行動をするとは思えなかったからだ。


しかし、ルシフェルの表情は本当にただの親切で邸を訪れたのかもしれないと感じられた。

私はルシフェルの表情を見てそれ以上問い詰めるのはやめた。


しかし、私がここまで友達でもあるルシフェルに対して疑念を持つのには理由があった。


それは10年前のあの事件があったからだ。


あの事件の事もあり私と両親はアナベルを首都へは行かせず領地へとどまらせていた。

アナベルがアカデミーへ遊びに来たいといっても俺たち家族どうにか理由をつけてそれを阻止していた。


しかし、あの日アナベルが一人でアカデミーへ訪れた日アナベルとルシフェルが顔を合わせてしまった。


キールもロザンもはっきりとアナベルに見惚れていた。

それもそのはずだ。

アナベルは見た目だけでもよく目立つ髪色をしている上に美しい。

そして、中身までも純粋で美しいのだ。

我が妹ながら国で一番美しい令嬢だと思うほどだ。

だからキールとロザンが見惚れていたのも納得がいく。

しかし、ルシフェルは別だった。


あの日、ルシフェルはアナベルを見て間違いなく何かを感じていた。

きっとルシフェルはアナベルをひと目見て気づいてしまったのだろう。


しかし、たとえルシフェルが気づいたとしても私は隠し通すつもりだ。

もちろん両親も同じ気持ちだろう。


それがアナベルの為でもあるからだ。


ルシフェルが悪いやつではないことは分かっているがルシフェルはカイザー公爵家の人間だ。

たとえルシフェルがアナベルに対して兄が妹を可愛いがる様に接したとしてもこれ以上アナベルをルシフェルと関わらす訳にはいかない。

アナベルにとって危険が増えるだけだ。


私にとってアナベルはかけがえのない大切な妹だ。


アナベルを甘やかすのも守るのも兄である私のやることだ。


何故アナベルが私に対して急によそよそしくなったか理由を聞いて早くいつもの様に"お兄様"と甘えてほしい

ものだ。


一先ずアナベルへ手紙を書こう。⇠




アナベルが私に対して急によそよそしくなった。


あの日、アナベルが頭を打ってからだ。


アナベルが私の目の前で強く頭を打ち付けたのを見てどれだけ肝が冷えたことか。

アナベルにもしもの事があれば私は私自身を許せなかっただろう。


しかし、幸いもアナベルは割りと早く目を覚ましてくれた。

医者の話では特に大きな外傷もなく後遺症も大丈夫だろうとのことで安堵した。


すぐにアナベルに会いに行こうと別室にいた私とルシフェルはアナベルの部屋へと向かった。


しかし…


「坊ちゃま、、申し訳ありません。お嬢様はただいまおやすみになられました。まだ少し頭が痛い様でしたので、、。」


私とルシフェルがアナベルの部屋へ訪れるとカナエが出てきて言った。


「痛みが?!アナベルは大丈夫なのか?!」


私はカナエの言葉を聞き慌てて言った。


「お嬢様に坊ちゃまが部屋へ訪れたら自分は大丈夫なのでもう少し休ませて欲しいと伝言をお願いされました。お嬢様は頭に少し痛みがある様ですが頭を打ってすぐなので多少は痛みがあるとお医者様も仰られましたので少し休めばおさまるかと思います。お嬢様が目を覚まされましたらお声がけさせて頂きますので。」


カナエは私を安心させる様に言った。


「そうか、、。わかった。では、アナベルが目を覚ましたら教えてくれ。」


私は仕方なく言った。


その後、ルシフェルには帰ってもらい私は自室で過ごしていた。

しばらくすると両親が出先から帰宅した。


両親が帰ってきた頃アナベルが目を覚ましたとカナエが伝えに来た。

私が両親へアナベルに起こったことを伝えると両親は血相を変えていた。


それからすぐに私と両親はアナベルの部屋へと訪れた。


「アナベル!大丈夫なの?!まだどこか痛むの?」


母上が部屋に入りアナベルを見るなり涙ぐみながら言った。


「お母様、、。大丈夫です。ご心配おかけしました。」


アナベルは申し訳なさそうに言った。


「アナベル、、顔を見せておくれ。」


父上が心配そうな表情でアナベルの顔を触りながら言った。


「お父様も、、ご心配おかけしました。」


アナベルはにこりと微笑み父上を安心させる様な表情で言った。


「本当に、、大事でなくてよかったわ、、。」


「本当だ、、。」


父上と母上が心から安堵した様にアナベルを抱きしめながら言った。


「アナベル、、。」


私もアナベルの元へと近づきアナベルを抱きしめながら言った。


(本当に良かった。アナベルが目を覚まさないかもしれないと考えるだけで生きた心地がしなかった、、。)


私はアナベルを抱きしめながらそんな事を考えていた。


「お兄様、、。ご心配おかけしました。」


アナベルが言った。


しかし、私はその時に妙な違和感を感じた。


アナベルは小さな頃から怪我をしてしまった時や風邪を引いてしまった時にはいつも私に"お兄様"といつも以上に甘えてきた。

自分が眠るまで抱きしめて眠ってくれとよくせがまれていたほどに。


しかし、目の前のアナベルは私に甘える訳もなくただどこかよそよそしさの混じった態度で私へ一言言っただけだった。


私はそんなアナベルに違和感を感じたもののアナベルにとっても今回の出来事は驚きだったのせいだと思った。

アナベルの体調がよくなったらいつもの様に二人で街に出かけようと思っていた。

二人で出かけたら違和感もなくなるだろうと。


しかし、翌日アナベルの口から出たのは母方の祖父の家へ療養へ行きたいという話だった。


私と両親は療養という言葉を聞きやはりアナベルは無理を大丈夫と言っていたのかと不安が込み上げてきた。


しかし、アナベルは療養とは名ばかりで祖父や祖母に顔を見せにいくついでにのんびりゆっくり過ごしたいと言った。


両親は祖父の家ならばとアナベルが祖父の家に滞在する事を了承した。


私はアナベルが祖父の家に滞在すると決まってからアナベルが心配で話をしようとアナベルの元へと訪れた。


「お兄様、、。」


アナベルは私が部屋へ訪れると一瞬だが戸惑った表情を浮かべながら言った。


「アナベル今少し入ってもいいかい?」


私はアナベルの表情を見て一首戸惑ったがすぐに優しく微笑みながら言った。


「あっ、はい。どうぞ、、。」


アナベルは少し戸惑った表情でいうと私を部屋へ入れてくれた。


私はいつもの様にアナベルのベットへ腰を下ろした。 

アナベルも同じようにベットへ腰を下ろしたがいつもより距離感が遠い様に感じた。


「それで、、本当にもう頭の痛みなどはないのか?」


私は心配気にアナベルへ尋ねた。


「はい、、。もう大丈夫です。本当にご心配おかけして申し訳ありませんでした、、。」


アナベルは申し訳なさそうに言った。


「アナベルが謝る事ではない。私は本当にアナベルが大きな怪我などもなく目を覚ましてくれただけで安心したのだから。」


私はアナベルがこれ以上自分を責めない様に優しく言った。


(アナベルは昔から優しい子だ、、。きっと今回も私や父上達に自分のせいで迷惑をかせてしまったと申し訳なく思っているだろう。)


私はそんな事を考えていた。


「はい、、。」


アナベルが困り笑みを浮かべて言った。


そして、何故か少しの間沈黙が続いた。


(いつもならアナベルは私が部屋へ訪れるとアカデミーの話を聞かせてくれとせがむんで来るのに何も聞いてもこない、、。一体どうしてなのだ?やはり私が感じた違和感はあっているようだ、、。)


私はアナベルの急な私に対する態度に困惑しつつ考えていた。


「お祖父様のところへはどの程度滞在するの予定なのだ?」


私は沈黙を破り言った。


「そうですね、、。半月程は滞在しようかと思っています。」


アナベルが言った。


(そんなに長くなの?!)


私は思わず思った。


「そうか、、。いい機会だからゆっくり過ごしてくるといい。」


私は困惑を隠しつつ優しく言った。


「はい、、。」


アナベルが小さく頷きながら言った。


その後は結局大した話も出来ないまま私は自室へ戻った。


(やはりアナベルの私に対する態度がよそよそすぎる、、。私は何かアナベルにしてしまったのだろうか、、。いつもならばアナベルが私の部屋に来て一緒に寝ようと言ってきていたのにな、、。)


私は一人ベットへ寝転びながら考えていたのだった。


そして…

アナベルが祖父の家へ発つ日が訪れた。


私はアカデミーへ帰る前にアナベルを両親と共に見送る事にした。


「では、行って来ます。」


アナベルが微笑みながら私達へ言った。


「あぁ。気を付けて行くんだよ。」


父上が言った。


「はい。」


アナベルが頷きながら言った。


「あちらに着いたら手紙を出してちょうだいね。」


母上が言ったを


「わかりました。」


アナベルが言った。


「お兄様、、アカデミーへ気をつけてお帰り下さいね。」


アナベルが少し戸惑った表情で私へ言った。


「あぁ。アナベルも気をつけて。」


私はそんなアナベルの表情を見て複雑な気持ちになり言った。


(いつもなら私がアカデミーへ戻る時にアナベルは寂しいと言って私に抱きついてくるのに今日はまったくそんな気配すらないのだな。)


私は戸惑いつつそんな事を考えていた。


「はい。」


アナベルが頷きながら言った。


そしてアナベルが馬車へ乗り込もうとした。


その時…


私からアナベルを抱きしめた。


「アナベル、少しでも体調が悪くなったらお祖父様かお祖母様に言うんだぞ?いいな?アナベルが思うだけゆっくりしてくるといいからか。」


俺はアナベルをギュっと抱きしめながら言った。


「っ!?、、はい。わかりました。」


アナベルは小さく私を抱きしめ返して言った。


そして…アナベルは馬車へ乗り込み祖父の家へと向かった。


私もアカデミーへ戻る支度をして戻ろうとしていた時に手紙と共に招待状が届いた。

カイザー公爵家からのものだった。


私と両親はカイザー公爵家からの手紙と招待状を確認した。

手紙と招待状の差出人は公爵夫人だった。

我々フルート侯爵家を夫人が開くお茶会へ招待したいとの事だった。


「アナベルまでお茶会へ招待だんて、、。どうしたらいいのかしら、、。」


手紙を読み母上が困惑した表情で言った。


「そうだな、、。先日、カイザー公爵邸へ伺った際にはお茶会の話など出なかったが、、。」


父上も困惑気味に言った。


「父上達は先日カイザー公爵邸へ行かれたのですか?」


私は初耳だったので驚き言った。


「あぁ。少し前に公爵から連絡を貰っていてな。アナキスが戻った日に我々はカイザー公爵邸にいたのだ。」


父上が言った。


「そうだったのですか。その時にアナベルの話などしていませんよね?」


私は真剣に父上へ尋ねた。


「もちろんだとも。アナベルの名前は出していない。アナベルの話になりそうな時はこれまでも上手く流してきたからな。」


父上が言った。


「そうですか、、。」


私は言った。


「手紙にはルシフェル様の友達のアナキスの妹のアナベルに一度会って話してみたいと書いてあるが、、。何故急にアナベルに会ってみたいなどと、、。どうしたものだろうか、、。」


父上は困惑気味のまま言った。


「一先ず、アナベルは療養という名目でお祖父様のところへ行ったのですからアナベルの体調不良ということでお断りするのがいいかと思います。」


私は父上達に提案した。


「そうだな。実際にアナベルの体調は本調子ではないわけだから体調不良が理由というのは嘘にはならないしな。よし、、今回のお誘いはお断りする事にしよう。」


父上が頷きながら言った。


「ええ。そうしましょう。」


母上も頷きながら言った。


こうしてカイザー公爵家からのお茶会のお誘いは断った。


そして、私はアカデミーへと戻った。


戻る道中に何故アナベルの態度が急に変わった事について何度も考えた。

考えた末に出た答えは"ルシフェル"だった。


アナベルは私がアカデミーから戻る日を楽しみにしていた。

手紙のやり取りからもそれは伝わっていた。

しかし、アカデミーから戻ってみると急にアナベルの態度がよそよそしくなった。

頭を打ったせいなどでもなさそうだ。

そうなると考えられる理由はルシフェルしかなかった。


実際にルシフェルが私に黙って侯爵邸を訪れていたし、急にカイザー公爵家からお茶会の招待状が届いたのも不自然だ。

私とルシフェルが友達関係にあるとしてもこれまで一度もお茶会の招待などなかったからだ。


(きっとルシフェルが侯爵邸へ訪れた際にアナベルに何かを吹き込んだの違いない。そうでなければアナベルがあれほど急に私に対してよそよそしくなるはずがないからだ。それにあの日偶然にも父上達も不在だった上に私も急遽帰るのが難しくなったのも引っかかるしな。)


私はそんな事を考えていた。


(明日、絶対にルシフェルにアナベルに何か余計な事を吹き込んだか問いただしてやる。)


私はそんな事を考えていた。


そして、翌日私はルシフェルへ何故我が邸に来たのかを問いただした。

しかしルシフェルは親切心でアナベルへ私が帰る日が遅れる事を伝えに行っただけだと言った。

執事のパリトスにもルシフェルが訪れた時の話を聞いたが親切心からの様だと言っていた。

パリトスの表情から嘘は言っていなかったが、、。

本当に友達である私の妹だからだというだけの親切心からなのか?

その後も疑念ははらえなかったが思わずアナベルが療養に行っているのとを言ってしまいそうだったのと、たとえ親切心からではなかったとしてもルシフェルなら絶対に言わないだろうと思いそれ以上問いただすのはやめた。


私はルシフェルと別れた後も考えていた。

絶対にルシフェルが何か企んでの行動だという疑念がはらいきれなかったからだ。

ルシフェルとはアカデミーの入学時に話す様になり自然と友達になっていた。

だからこそ分かる。

友達の私ですらルシフェルは他人にそれほど興味がなく友達の私の前ですらも淡々としていた。

女性相手ならあからさまな嫌悪を示していた。

そんな彼がただの親切心でそこまでするのか、、。


それに疑念が振り払えない一番の大きな理由は……


今から10年前に起きたある事件だ。


10年前…

私が8歳、アナベルが5歳の時だ。

その日は、アナベルにとって初めて首都へ出かけるアナベルにとっては楽しみで仕方がない記念すべき日だった。


「お兄様、首都の街には色々なお店があるのですよね?私達の領地の街よりも沢山のお店があるのですか?」


首都へ向かう馬車の中で私にぴったりとくっつき嬉しそうに笑いながらアナベルが言った。


「あぁ。首都の街には私達の領地の街よりも沢山の店があるから色々と見て回るといいさ。」


私は嬉しそうにするアナベルへ微笑みながら言った。


「本当ですか?わぁ〜い!嬉しいです。」


アナベルは嬉しそうに目を輝かせながら言った。


その時の私はまさかその後にアナベルに危険が迫るなどと思いもしなかった。


首都に着くと両親は街中にあるフルート侯爵家と取り引きがある商人と商談をする為に商会へ向かった。

その間、私とアナベルは護衛をつけ街中を散策する事にしていた。


早速アナベルと共に街にある色々な店へと行った。

アナベルは本屋、ケーキ屋、雑貨屋と自分が好きなものを売っている店へ目を輝かせながら入っては次の店へと首都の街を堪能していた。

最後に薬草を販売している店へと入りアナベルは幼い少女なのにも関わらず店の店主から薬草の話を夢中で聞き楽しそうにしていた。

私は父上達のところまで戻るのにもう少し時間があったのであと少しだけアナベルと店主の話を邪魔しないでおこうと私と護衛は店の外で待っていた。


「早くこっちへ来い!」


私と護衛が店の外で待っているとすぐ近くから男の怒鳴る様な声が聞こえた。


(なんだ?)


私は思い声のする方を見た。


すると、大の大人がアナベルほどの幼い少年の手を無理矢理引っ張っていた。

少年は恐怖に怯えた様子で必死に抵抗していた。


「この野郎!さっさと来ねぇか!」


男が少年が抵抗するのを見て苛つきながら怒鳴ると少年を殴ろうとした。


「やめろ!」


私は咄嗟に体が動き男の手を止めて男を睨みつけ言った。


「坊ちゃま!」


護衛が私の行動に慌てて言った。


「何だてめぇは!」


手を止められた男は私を睨みつけながら言った。


「この様に幼い子にこんな事をして恥ずかしくないのか?」


私は男を軽蔑する様な目で見て言った。


「そんな事お前の様な小僧には関係ないだろう!」


男は苛立ちながら言った。


すると…


ガバッ!


護衛が一瞬で男を押さえつけた。


「ウガッ!な、何かしやがる!離せ!」


男は押さえつけられながら抵抗して言った。


しかし男がどれだけ抵抗しようと貴族に仕える護衛に勝てるはずもなかった。


「坊ちゃま、、肝が冷えました。坊ちゃまに何かあったらどうするおつもりですか、、。」


護衛はげっそりしながら私へ言った。


「すまないな。ついな。」


私はフッと笑みを浮かべて言った。


そんな私に護衛は困った表情を浮かべていた。


すぐに街の警備隊がやってきて男を連行して行った。

どうやら少年が迷子になり泣きながら母親を探している途中に男にぶつかってしまった様で男が激怒し少年を引っ張っていき母親を見つけて金をせびろうとしていたようだった。


少年の母親は子供とはぐれたと警備隊のところに駆け込んでいた様ですぐに少年は母親の元へと返された。


(本当に最低最悪なクズな男だったな。フルート侯爵領と違い首都には危険な奴が沢山いそうだな、、。しかし、あの少年今日の事がトラウマにならなければいいが、、。アナベルくらいの子だったからつい反射的に体が動いてしまった。)


私は少年が母親の元へと戻るのを見届けそんな事を考えていた。


私は幼少期から子供の割に冷静な子だと言われていたが自分でもそれはわかっていた。

しかし、アナベルが生まれてから私は少し変わったと思った。

生まれたばかりのアナベルを初めて見た時小さなアナベルの手で私の指を一生懸命掴んだ。

その瞬間…私の中で初めて愛おしいと思う感情が込み上げてきた。

それと同時にこの子は私が守ってやらなければと思った。

アナベルは見た目も愛らしかっが何よりも私を慕って懐いてくれるのがたまらなく愛おしかった。


(父上達の元へ戻る途中にアナベルへお菓子でも買ってやろう。)


私は昔の事を思い出しつつそんな事を考えていた。


そして…


「そろそろ父上達のところへ戻ろう。アナベルを呼びに行こう。」


私は護衛へ言った。


「はい。」


護衛が言った。


そして私と護衛は薬草の店へ戻った。


しかし店の中にアナベルの姿が見えなかった。


「先程まで店主と話していた少女はどこですか?」


私はアナベルの姿が見えないので慌てて店主へ尋ねた。


「え?つい先程お兄様の所へ戻ると言って出て行きまたけど、、。」


店主はキョトンとした表情で言った。


「何だって?!」


私は店主の言葉を聞きゾッしながら言った。


そして私はすぐに店の外へ出て辺りを見渡した。


(アナベルが居ない、、、。)


私は頭が真っ白になり考えていた。


「ルキア!アナベルがいなくなった!私は近くを探すからこの事を急ぎ父上に伝えてきてくれ!」


私は護衛のルキアへ混乱しつつも言った。


「なんですって?!お嬢様が?!承知しました。すぐに侯爵様にお伝えしてまいります!」


ルキアは驚いた表情で言うもすぐに冷静になり言った。


「頼んだ。」


私は言った。


ルキアはその後すぐに父上達のいる商会へ向かった。


私はすぐに店の周辺を探した。


「アナベル!アナベル!!」


私は必死にアナベルの名前を呼びながら周辺を走り探した。


しかし、アナベルの姿はどこにもなかった。


(私のせいだ、、。私がアナベルから目を離したせいで、、。きっとアナベルは私とルキアの姿がないから自分は置いて行かれたと思ったのだろう。きっと私るルキアを探す為に一人でどこかへ行ってしまったのだ、、。)


私は自分の無責任さに嫌気がさしながら考えていた。


そして…

私はハッとなった。


(アナベルはまだ5歳だ、、。もしも先程の少年の様な目にでも遭っていたら、、。しかしアナベルは貴族の娘だ、、。下手をしたら先程の少年よりも怖い思いをしているかもしれない、、。)


私は身体中から冷や汗が流れるのを感じながら考えていた。


(ダメだ、、。悪い方向に考えるのはよくない。一先ずアナベルを見つけるのが先だ。)


私は自分に言い聞かす様に考えていた。


そして、もう一度薬草の店へ戻りアナベルが戻ってきていないかを確かめたが戻っていなかった。


(アナベル、、一体どこへ行ったんだ、、。)


私は悔しさと焦りを感じながらそんな事を考えていた。


「アナキス!」


その時、父上と母上とルキアがこちらへ急ぎ足で向かってきて父上が私の名前を呼んだ。


「父上!母上!」


私は思わず両親へ駆け寄った。


きっとあの時の私の表情は今にも泣いてしまいそうだっただろう。


そんな私を見て両親が抱きしめてくれた。


「父上、、母上、、申し訳ありません、、。私がついていながら、、。アナベルが居なくなったのは私のせいです。もしアナベルに何かあったら私はどうしたらいいのでしょうか、、。」


私は両親が来た事で不安だった気持ちが溢れ出してしまい思わず涙を流して言った。


「アナキス。大丈夫だ。アナキスせいではない。それにきっとアナベルは大丈夫だ。すぐ見つかるさ。」


父上が私を抱きしめながら私へ言った。


「そうよ。アナキス、、あなたのせいではないわ。ここへ来るまでに警備隊の方々に事情を話してきたから警備隊の方々もアナベルを探して下さるから。すぐに見つかるわ。」


母上は私の背中を優しく撫でてながら言った。


「、、はい、、。」


私は両親をギュっと抱き返しながら言った。


その後、1時間経ってもアナベルは見つからなかった。


私達はアナベルが居なくなって2時間以上経っていたため不安ばかりが募っていった。


警備隊も協力してくれ探す範囲を広げるもアナベルは見つからなかった。


そして私達はもう一度薬草の店アナベルが戻ってきていないかを確認する為に戻った。

やはりアナベルは戻ってきてはいなかった。


私達が肩を落としていたその時…


「お兄様〜!」


アナベルの声が聞こえた。


「「アナベル!?」」


私達はアナベルの声が聞こえ同時にアナベルの名を呼んだ。


「お母様〜!」


アナベルは母上の事を呼びながら私達の方へ走ってきた。


「「アナベル!!」」


私達はアナベルの姿が見えた瞬間に声をあげてアナベルの元へ急ぎ足で駆け寄った。


「アナベル!!」


私はアナベルを抱きしめ言った。


「うわぁぁぁぁ〜ん!うわぁぁぁぁ〜ん!」


アナベルが急に大泣きしだしたのだ。


「アナベルどうした?!アナベル!その怪我はどうしたのだ?!」


私は急にアナベルが泣き出し事に驚いたが更にアナベルが怪我をして汚れている事に気づき言った。 


「アナキス。一先ずここでは目立つ、、。一旦馬車へ戻りアナベルを落ち着かせてやろう。」


父上が言った。


「はい。」


私は頷きながら言った。


そして、アナベルは父上が抱き抱えて馬車まで運んだ。


馬車へ着くと母上がまずアナベルの着替えを済ませた。


「ヒック、、お兄様が急に居なくなったので、、置いて行かれたかと思ってお兄様を探していたのです、、ヒック、、。」


着替えを済ませたアナベルは泣き止み私にしがみつきながら言った。


「あぁ、、すまない、、。すまない、、。アナベル。私が悪かった。私が少し店の前を離れた私のせいだ。」


私はアナベルの言葉に胸がナイフで刺された様な感覚になりながら言った。


(こんなにもアナベルを不安にさせてしまった上に、、アナベルにこんな怪我を負わせてしまった、、。)


私は胸が締め付けられながらそんな事を考えていた。


その後、アナベルから薬草の店を出てから何があったのかを聞いた。

アナベルは私達に話した後に限界がきたのか私の腕の中で眠ってしまった。


アナベルの話によると私が居ないことに気づき私を探すために近くを歩いていた時に薬草店の店主から聞いた珍しい薬草が取れる森を見つけた様で森の中へ入っていったようだった。

そこで悪い魔女が王子様に酷い事をしていたと、、。

アナベルは自分がいつも持ち歩いていた自作の魔法の粉を使って魔女をやっつけて王子様を助けたと言った。

王子様をきちんと助ける為に森を抜けて街まで大人を呼びに行った時に私達の姿を目にして戻ってきたようだった。

アナベルは魔女と王子様が出てくる絵本が好きだったのできっと表現が魔女と王子様だったのだろうがアナベルが危険に晒されたのは間違いなかった。


アナベルの怪我はその魔女とらやに頬を思い切り叩かれたうえに宙ぶらりんにされた状態から地面に落とされた様だった。

それに加えて針を刺されそうになったと、、。


私と両親はアナベルの話を聞いて周りに比べたらしっかりしているがまだ5歳の幼い少女にそんな怖い思いをさせてしまった事にショックを受けた。


一先ず急ぎ領地へ戻りアナベルを休ませる事になり領地へ戻った。


思いの外アナベルは元気だったことに私達は安堵した。


しかし…

その日夜、アナベルは高熱を出した。

たまに魘されている様に苦しそうにしていた。

アナベルの高熱は3日も続いた。

私達が思っているよりもアナベルはこの日の出来事が耐え難いものだったのだ。

大人でも高熱が3日続けば辛いのに幼いアナベルには耐えがたい辛さだ。


そんな苦しむアナベルを私達は出来る限りの事はして見守る事しかできなかった。


(アナベル、、。代わってやれるものなら代わってやりたい、、。)


私はアナベルの手を握りしめながらそんな事を考えていた。


私は1日中アナベルに付き添った。


4日目にようやく熱が下がったがアナベルは恐怖体験からか眠りが浅く夜中に泣き出しては寝てを繰り返していた。


そんなアナベルを見るのが私も両親も辛く私達はある決断をすることにした。


アナベルに催眠療法を用いることにしたのだ。

その催眠療法はある一定の記憶を頭の中から消し去るというものだ。


魔法ではないので幼いアナベルにも支障をきたすこともなかった。


催眠療法を実行してもらった日からアナベルは本当に魔女と王子様に出会った事はもちろんその日1日の記憶がなくなったのだ。

アナベルはその日から普段通りのアナベルに戻ったのだった。

私と両親は本当に安堵したのだった。


アナベルも普段通りに戻りいつもの日常が戻ってきたとホッとしていた時に予想外の話が舞い込んできた。


それは…


あの日、カイザー公爵家のご子息が伯爵令嬢に誘拐されたという話が国を騒がせたのだ。

ご子息を誘拐した伯爵令嬢は処刑され令嬢の家族は他国の奴隷として国を追い出されようだった。


この話を聞いた時に私も両親も真っ先にアナベルが思い浮かんだ。

きっとあの日アナベルが言っていた王子様がカイザー公爵家のご子息で魔女が伯爵令嬢だと、、。


私と両親はその事件にアナベルが関わった事は絶対に隠し通すことにした。

せっかくアナベルの記憶を消し去ったというのにその事件にアナベルが関わらっている事が知られればアナベルが記憶を取り戻しアナベルを苦しめてしまうかもしれないからだ。


私はこの事件をきっかけに今まで以上にアナベルを絶対に守ると誓ったのだった……


それから10年間穏やかな日々を過ごしたが私がアカデミーへ入学する為に首都で生活をする事になった。

アナベルは首都にも行きたいしアカデミーも見てみたいと言ったがどうにか理由をつけてアナベルを領地へとどらまらせた。


しかし…

あの日…

アナベルが一人で首都へ出てきてアカデミーへやってきたのだ。


私と両親が一番避けたかった事が起きたのだ。


私はアカデミーへ入学してすぐにカイザー公爵家のご子息、、つまりアナベルがあの日助けた彼、、ルシフェル・カイザーと気づけば友達になっていた。

私はまさかルシフェルと友達関係になるとは予想外だったが変に避けてもおかしいと思い友達関係を続けていた。

ルシフェルとは共通点が多かった。

貴族の子息で次期当主、他人にさほど興味がなく女性を嫌悪しているというところだ。

ルシフェルの女性嫌悪はあの事件がきっかけになったのだろうとはすぐに理解した。

ルシフェルは私がアナベルの話をしても興味はなさそうだったので内心安心していた。

きっとあの時ルシフェルを助けたアナベルの事も忘れているだろうと…


しかし…

アナベルがアカデミーへやってきた日にそれが違った事に私は気づいた。

アナベルを一目見てキールとロザンが見惚れていた。

私とルシフェル同様、女性にうんざりしているキールとロザンがアナベルに見惚れたのは兄としていい気はしなかったが仕方ないことだとは思った。

アナベルは我が妹ながら見た目も中身も美しいからだ。

しかし、ルシフェルは別だった。

ルシフェルはアナベルを見た瞬間にこれまで見たこともない表情でアナベルを見ていた。


(ルシフェルは、、アナベルの事を覚えていたんだ、、。)


私は直感でそう思った。


アナベルは父方の母、、つまり私達にとっては祖母に似て珍しい髪色と目の色をしていた。

一度見たら記憶に残るだろう。


(まさかルシフェルがアナベルを覚えていたのは予想外だった、、。あれ程までに女性に対して嫌悪しているルシフェルがアナベルを見てあの様な表情を浮かべるとは、、。)


私はルシフェルの表情を見てそんな事を考えていた。


しかし、幸いにもアナベルはあの日の記憶だけがないからルシフェルを見てもあの時の王子様だとは気づいてなかった。


だからこそ今回のアナベルの私への態度の変わりようにルシフェルが関わっているという疑念を払えなかった。


あんな事があったのだから父上と母上がカイザー公爵家からのお茶会の招待を快く受けれないのも仕方ないことだった。


だからこれ以上ルシフェルをアナベルに関わらせる事は避けなければならない。

アナベルがルシフェルに関わりいいことなど一つもないからだ。


アナベルが万が一あの日の事を思い出したらまたアナベルが傷つく、、。

それは危険すぎる、、。


兄である私がアナベルを守らなければ。

あの日…私のせいでアナベルを危険な目にあわせてトラウマを背負わせてしまった。

だから…これまでもこれからも私がアナベルを守らなければ、、。


幸いアナベルは今、お祖父様のところに滞在しているからルシフェルと遭遇することはない。


今はとりあえずアナベルが何故私に対する態度が変わったのかを知らなければならない。


アナベルへ手紙を出し近々お祖父様のところへ訪れよう。


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