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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
一の巻
7/153

助走

 朝餉に呼んでもらった私は、少しソワソワしていた。

寝起きから興奮したのが原因だろう。


勇隼様達、家族でとることになっているらしく、

穏やかで、つつましやかなホッとする朝食だった。


「よく眠れましたか?」

桔梗様が、朝から美貌を振りまきながら

優しく尋ねてくださる。


……朝から、眩しいです……!!

美人の微笑みは、どんなものより破壊力があると思う……。

自分の容姿を思うと、せめて誠実さが滲み出るようにと願いながら、

「はい、おかげさまでグッスリと眠ることができました。

朝も、女官さんにお世話していただいて……」

と、答えた。


「それはよろしゅうございました。何かご希望はございませんか?

着るものや、食べ物、お化粧道具など、なんでも構いません」


そう桔梗様に尋ねられたが、これ以上望むなんてとんでもない。

ありがたく辞退させていただいた。

そんな様子を、お二人の息子、千隼様がおもしろそうに見ている。

……また、失敗した……? う〜〜ん、どれが正解かが分からない……。

密かに後悔しながらも、ゆっくりと朝食を楽しませてもらうことにした。

うん、それが良い気がする。食べながらだと、会話が途切れても

おかしくないもんね。


華様は、そんな私に気を使ってくれたのか、

ニコニコと色々な話題を振ってくれたの。ホント、助かる!!

華様の優しさは、その話題の中にあったと思うの。

私の世界のお天気や、お花の名前、動物はどんな種類がいるのか、

当たり障りのない会話で、でも皆にとって共有できる話題だったんだもの。


食後のお茶をいただく頃には、すっかり緊張はほぐれていたと思う。

緑茶、最高!! 砂糖とか入ってなくて良かった!!!


「さて、雫殿」

勇隼様が、にっこりと話を切り出したわ。

さて、今日はどうするんだろう?


「本日は、千隼が案内をします。年も近そうですし、

遠慮なく千隼に頼ってください」


……嫌な予感が……。

「あの、……すみません、頼りない年長者で……」

右も左も分からないので、確かに誰かに教えてもらうしかない。

でも、年下の青年に習うことになるとは思わなかった。

国主の息子だ、……当然、彼も忙しいだろうと思っていたのだ。

まさかとは思うが、念の為にやんわりと年上アピールをしてみた。

そう、誤解は早く解くに限る。

昨日、お酒飲んだから分かっていると思ったんだけどな……。


勇隼様は、その瞬間、少し目を見開いたが微笑んだ。

彼は作戦錬磨できた人生なんだろう。

優しさで驚くそぶりを隠してくれたのだ。


「これはこれは、失礼いたした。きちんと聞かなんだ私の落ち度だ。

華と同じか、1,2歳下かと思っていたのです」


ありがとう……勇隼様!! すっごく良い人……!!!

この際、落ち込まないように良い方にとっておこう!!

でも、……実年齢で引かれるよねぇ……?


「あの……、勇隼様。私、……24歳なんです……。

何か、……すみません……」

ああーー、穴があったら入りたいって、こういう時にも使えると思う。


そう答えると、華様が嬉しそうに手を叩いた。

「まあ、ではお姉様ですのね? 雫姉様とお呼びしても良いですか?」


「華、いくら何でも至宝様に失礼でしょう?」

桔梗様は、止めているが、私はむしろ

そのほうがありがたかった。


「いえ、気さくに呼んでいただける方が私も嬉しいです。

もし、華様がお嫌じゃなければ……」

「まあ、嬉しい!! お父様、お母様、よろしいでしょう?お願い!!」


勇隼様は、にっこりとしていたが、しばらくの沈黙の後に答えを出した。

「そうだな、雫様のせっかくのお気遣いだ。華、この屋敷内だけなら

特別に許そう」

「嬉しい!!ありがとうございます雫様」

礼儀正しく指先を畳について頭を下げてくれる華様に、

またしてもアタフタして、遠慮する私。

皆の笑い声の中、和やかに朝食の時間は済んだ。


 朝餉の後、30分ほどしてから部屋を訪れてくれた千隼様は、

背筋をピンと伸ばし、でもさして緊張感があるわけでもなく

柔らかく話出したの。


「雫様、見てみたいものはありますか?やってみたいことでも、

どうぞお聞かせください」

そう言ってもらって、少し悩んだんだけど、

千隼様に質問してみることにした。


「千隼様、この國には剣術というものがありますか?」

「はい、ございます。道場もありますよ。ご覧になりますか?」

オテンバだと思われないだろうかと、意を決して尋ねたのに

千隼様は何の躊躇もなく答えてくれた。

……ということは、女性も剣術の稽古ができる……?

私の世界では当たり前のことだが、この国はどうか分からない。

一つ一つ確かめていくしかないのよ。

「見せていただきたいです」

「わかりました。実は、私も道場にお誘いしようと思っていたのです」

「私を道場に……、ですか?」

「ええ。そうなんです。不思議そうなお顔ですね?」

「あ、はい。実は、女性も道場に入って大丈夫なのかなって思っていたので……」

「雫様の世界は、女性は道場に入れないのですか?」

「いいえ、今はそんなことはありません。でも、禁じている時代もあったんです」

「なるほど、そういう訳だったんですね」

「ええ、そうなんです。こちらでも女性も剣術をするんですね」

「ええ、でも圧倒的に人数は少ないですよ。本人に力量があれば、

といったところでしょうか」

「それは、実戦があるということですか?」

「試験に受かって、剣士になれば実戦は覚悟しなければなりません。

市中の見回りや、街の(まつりごと)を治めなくてはなりませんから」


なるほど、政を第一に考えられるなら、今は戦時下ではなさそうだわ。

思っているより、ホッとするものなのね。

この時、私はなぜ千隼様が道場に誘ったのか

深い意味を理解してはいなかった。ただ屋敷内の案内だと思っていたのだ。

そう、ここは屋敷のような造りなだけで、一国の城なのだ。

屋敷のようだというだけで、油断していた自分を

後から恥ずかしく思うことになる。そんなことは、まだ思いつきもしていなかった。


「さ、では雫様、参りましょうか」

「はい、千隼様。よろしくお願いします」

私は思わず、道場でするかのように頭を下げたのだった。

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