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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
一の巻
5/153

前夜

 連れて行かれた大広間。なんて立派な……!!!


そこは50畳ほどはあろうかと言う、大広間だった。

そう、ただの畳を敷き詰めた大広間。

でも欄間も襖も、障子さえも凝った彫り物がしてあり和紙も

特別に作ったと分かる、豪華な部屋だった。


対面式に御膳が並べられている様相は、見事の一言に尽きる。

この國が豊かであることの象徴であるかのように、

豪華絢爛と言った言葉がピッタリだ。


当然のごとく、上座があるのよね……たぶん……。


予想通り、上座に3人分の席がある……!!!

これって……。

これじゃ、美味しそうなお料理は堪能できないかも……。


傍目から見ても私の表情は笑ってはいるものの、引きつっていたんだろう。

桔梗様が、クスクスと笑っていた。


「まあまあ、雫様。そんなお顔をなさらずとも……。

ご心配はいりません。殿方には大人しゅうしていただきますので……」


心細く思っていた私の隣に桔梗様が座ってくれる。

その隣には当然、勇隼様。

男女同席は良いのね……。

そんな自分の知識との違いが、頭をかすめた時

どうやら招かれた人は全て席についたようだった。


勇隼様は、落ち着いた様子でこの状況を説明し出した。

「皆、もう知っているな?我が國の至宝、雫殿にお越しいただくことに

成功した。まずはこの度の祈りの民の尽力を讃えたいと思う」


勇隼様が、ある一つの方向を見てにこりと微笑んだので、

そこにさっきの装束姿だった人たちがいることが分かった。

さすがに、もう着替えているので誰が誰かは分からないけどね。


「雫殿と力を合わせて、来るべき難局に供えたいと思う。

皆、雫殿は分からぬことも多いと思う。皆の支えが必要なのだ。

よろしく頼む」


そう言って、勇隼様は私の方を見た。

慌ててしまったので、思わずピョンっと跳ねたようになってしまった。

……恥ずかしい……。もう良い大人なのに跳ねるなんて……。

頬が赤くなっていくのが、自分でも分かるくらい恥ずかしかった。

……どうしよう……この、皆の微笑ましい空気……。

一体いくつに見られているんだろう?……いたたまれない……!!!


明らかに場違いな私をよそに、宴会は穏やかに始まった。

皆、楽しそうだ。とても問題がある国には見えない。

お料理も美味しいし、お酒もふんだんに振る舞われている。

お魚もお肉もあったし、調理法もあまり変わらない。

不思議だな、お醤油とかもあるのかな?

代わる代わる、色々な人がお酌をしに来てくれた。

あまりにも列になるので、桔梗様が

お水にするようにと言ってくれたのは助かった。

どう考えても酔い潰れるのは、目に見えていたからね。


そんな配慮をしてもらったにも関わらず、私はあまりの人数の多さに

人と名前を覚え切ることができなかった。

かろうじて覚えられたのは、勇隼様と桔梗様のお子さんだったの。

まずはお兄さんの千隼(ちはや)様。そして妹の(はな)様。

千隼様は20歳、華様は18歳なんだそうだ。

勇隼様にそっくりの銀色の髪に、青い瞳。

桔梗様に似て、2人とも柔らかい空気をまとっているかのような人だった。


「雫様、明日にでもゆっくりお話させてください。

今夜は独り占めすると、お父様達に叱られてしまいそう」

華様は、そう言ってコロコロと笑っていた。

可愛いな〜〜。

女子力の足りない私は、素直にその可愛さに虜になりそうだった。

なんとなく友達になれそうで嬉しい。



 大盛り上がりだった宴会のあと、私はふらふらになりながら

もう1度お風呂に入り、用意してもらったフカフカのお布団に入ったら

はい、お休み3秒でした。


目が覚めたら学校だな。……楽しい夢だったから、ちょっと惜しい気も……。

そんな事を思いながら、睡魔にあっという間に飲み込まれていた。



  そして翌朝、いつもの日常がやってくるはずだった。

そう、夢ならば、そうなるはずだったのだ……。


ーーん、んん……。


目の中に、朝の光を感じて体をモゾモゾさせる。


ああ、朝だ。……学校に行かなきゃ……。

そう思ってパッと開いた目に、見慣れない天井が見えた。


……えっ……?

思わずガバッと飛び起きたの。だって……!!!

昨日見た(ふすま)、ベッドじゃないフカフカのお布団、

パジャマではなく真っ白な浴衣……。

……あれっ?……何が起きたんだっけ……?


愕然とする私の耳に、何やらキュッ、キュッっと泣き声がする。

子犬?

そう思って(かたらわ)を見ると……。


ええ、何度も目を閉じたり開いたりしてみた。

ついてに自分の頬を気合を入れるかのようにパンッッと叩いてみた。


でも、何度見ても……、それは実在しているように見える。


私の目に飛び込んできたもの、

それは……、……小鬼だった……。

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