第6話 神様ズ その3
『起きるのだ』
誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。
さっきまで真っ暗だった空間にバレーボールほどの大きさをした淡い光が私の前に浮かんでいた。
『おい、早く起きるの――』
「起きてるわよ?」
『……む?』
「起きてるって言ってるの。ところでここはどこ? あなたは誰? 夫の優一がどこにいるか知らない?」
『あ、その……』
姿は見えないが声は聞こえるので幾つかの質問をするが、私の返事が意外だったのか妙に慌てているらしい。
「さっさと答えなさい!」
『わ、我の名は破壊神イシム。死と破壊を司る神である』
「ふーん。……で?」
『え?』
声の主は破壊神と名乗るが別にどうでもいい。
私が知りたい質問に早く答えてほしいだけ。
確か私は寝ていたはずなんだよね。
優一は徹夜続きだった人形の修理が終わり寝る前に私に声をかけてくれたのを覚えている。
「やっと最後の修理が終わったよ」
「ユウ、お疲れさま。明日はゆっくり休んでね」
「ありがとう、ユキ。おやすみ」
何の変哲もない夫婦の会話なんだけれどそこからの記憶が一切ない。
そして違和感を感じて目を覚ましてみれば異様な空間。
イライラするなと言う方が無理。
「ねえ、イシム。ここはどこなの?」
『ここは世界の狭間だ。お前は異世界に選ばれ――』
「私の名前は紗恭」
『……お前は異世界に――』
「さ・ゆ・き」
紗恭の目がスゥッと細くなり何も見えないはずの暗闇の一点を凝視する。
『……紗恭は異世界に選ばれたのだ』
「……まあいいでしょう。それで夫の優一はどこ?」
『彼はお前より一足先に――』
「イシム、次はないからね?」
『……彼は紗恭より一足先に異世界へ旅立った』
なぜ私たちが選ばれたのか意味がわからない。
それに異世界という単語。
小説は好きだから読むけれど本当にあるんだ。
「そこへ行けば優一に会えるのね?」
『うむ、会える』
「帰る時はどうするの? 私も優一も仕事があるし帰らなきゃマズいんだけど?」
『悪いが我は知らないのだ』
「はぁ!?」
勝手に呼んでおきながら見知らぬ土地で現地解散させる?
間違いなく事件にになると思うわよ。
『帰る方法は異世界に行って探してもらうより他はない』
何もない暗闇を睨むが本当に知らないらしい。
はぁとため息をつく。
「誰が仕組んだのか知らないけどこの落とし前は受けてもらうわよ。……あとそっちのあなたも隠れてないで出て来なさい!」
破壊神イシムとは違う方向の暗闇へ叫ぶ。
しばらく睨んでいると女の人の声が聞こえてきた。
『わ、わかりました』
「私たちの話をずっと聞いてたわよね? あなたは何者なの?」
『はい、私は創造神トーレアです』
「そう、トーレアさんね。今から異世界に行くけど朝ごはんとか昼ご飯とか夕ご飯はどうなるの?」
小さな声で『全部食事ではないか』と聞こえたのでイシムを睨むと黙った。
『私たちの力を授けるので大丈夫です。神の加護でよほどのことがない限り傷付くことも死ぬこともありませんから紗恭さんの自由にして下さい』
『魔法や魔物が存在しているがゲームのようなものだから問題なかろう』
「え、私はゲームはやらないよ?」
優一はゲーム好きだったから仕事が終わったら遊んでたけれど、私は見る方が多かったしゲームより本を読んだり体を動かす方が好きなのだ。
『で、では異世界に送りますね』
「わからないことがあれば連絡するわよーーっ?」
この言葉を最後に優一の妻、唐栗紗恭も異世界へ旅立つ。
そして何もない空間には破壊神イシムと創造神トーレアが残った。
『……』
『なぜ、神である我らの方が追い詰められているのだ? 破壊神イシムとなって数百年経つが「で?」と聞き返されたのは初めてだ』
『私もなぜ隠れてたのがバレたんだろう……どちらにしても異世界へ向かったし関わらないでおきましょう』
『うむ』
破壊神イシムと創造神トーレアの意見が一致する。
異世界へ旅立った以上、向こうから接触することはできないのだから。
そう思った瞬間「聞こえてるわよ?」と紗恭の声がする。
『『ぎゃぁぁぁーーっ!』』
破壊神と創造神の叫び声が何もない空間に響き渡った。
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