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これがあの小説にまつわる、若き日の私の体験なんです。
ついでにいうと、この日会った娘さんが今じゃ私の奥さんだったりしてね。
あれ?やっぱり信じられませんか。
そうですか…………無理もないですね。
妻だって全然信じてくれなかったんです。
ちょっと残念ですよ。
まあ、普段から法螺吹き小説ばっかり書いてますから、信じてもらえなくて当然ですかね……。
なぁに、構いませんよ。
信じるか信じないか決めるのは私じゃない。
読者なんですから。
退出する記者を見送る私。
その口元に浮かびかける笑みをこらえながら。
やがて虚空に向かって一言。
「記者さんは帰ったよ。もう声を出しても大丈夫」
「ふーっ、何時間も黙って座ってるのって辛いですぅ」
たちまち返ってくる元気な女の子の声。
ただし人の姿は私以外にはありません。
「でも面白かったですよ?百年前の取材ってああやってデータを記録してたんですね」
「ほう、面白かったかね?原始的な記録方法というのは」
無の空間からの女の子の声に私は密かにほくそえむ。
私の話し相手は我が家の居候の女の子。
ただし百年後の時代の。
「やっぱりオジサマって大作家だったんですねー、取材の人がこんな田舎までくるなんて」
じいさんの時代から二百四十年後でも、この村は相変わらず田舎なのか?
と思ってたら地球そのものが田舎ということらしい。
「大作家なんてとんでもない……本棚ひとつを一杯にするのに四十年もかかった、つまらん作家さ」
傍らの本棚に目をやる私。
輝くような白は四十年の間にくすみ、薄汚れた、しかし歳月の重みを感じさせる色合いへと様変わりしている。
「今日もこれから執筆ですかぁ?どんなお話なんですかぁ?」
「そりゃ君の方がよく知ってるんじゃないか?私がこれから書く物語は全部読破したんだろ」
「でもでもぉ、お話が生まれる瞬間ってとっても感動的じゃないですかぁ!」
未だ生まれぬ未来の熱烈なファンの声に少しくすぐったいような気がした。
「いや、今日は疲れたからね。すまんがいつものアレ、頼めるかな?」
「アレですね、オッケーオッケー。曲もいつもの?」
「そう、いつものアレだ」
「オッケ―!」
数秒の沈黙の後、部屋全体の空気が震えました。
いかなる大音量のオーディオでも生み出せない臨場感と迫力を伴って、あの名曲は始まりました。
ジャジャジャ、ジャ――――――ン……
「ベートーベン作曲、交響曲第五番『運命』か……何もかもみな、懐かしい……なんてな、フフ」
未来の楽器が奏でる音に抱かれ、ソファに深く身を沈めてまぶたを閉じて。
私はしばし思いを馳せました。
過ぎ去りし過去とまだ見ぬ果てしない未来の、長い長い時の流れに。
「ああ、本当に、最高に……いい気分だよ。じいさん」
触れ合うことができなくても。
姿をみることもできなくても。
絆は確かに存在する。
この物語をUPしていて、そう思うようになりました。




