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百年前の同居人  作者: 境陽月
風がやむ時
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一枚の写真

「ハイ、わかりました」

「おい、奴ぁどうなったんじゃ?」


電話は警察からでした。

あの後、すぐに通報して警官が来て村中大騒ぎになりました。

声を出せなくなったじいさん、そうとうストレスが溜まっていたみたいです。


「ちょっと待ってろ、じいさん。……無事、保護されたんですね?」

「なーんじゃ、もう捕まったんか。あのマヌケ」


「静かにしてろよ、あ、こっちの話で……どうもお手数を……」

「もうちょい根性出すかと思っとったんじゃがなー」


「横からうるさいなぁ、ったく!……すいません!ハイ、私は大丈夫です。ハイ、ハイ」


カチャ……枕元に寄せた電話を置き、私は安堵しました。

こちらの時代はこれで一件落着……とまではいきませんが、なんとかなるでしょう。

私はかたわらに『いない』じいさんにむかって顛末を伝えました。


「あいつ、無事に警察に保護されたってよ。ここから五キロほど離れた線路の上でうずくまって泣いてたそうだ」

「ふん、そうかい」


「怪我もかすり傷ですんでたって。ほんとうによかった」

「お人好しじゃのぅ、お前さんは」


じいさんの言葉に私はクスッと鼻で笑ってました。

自分を殺そうとしていた相手の心配をするなんて確かにお人よしでした。

でも、私には事件を起こした彼は鏡に映った自分、それも救いを得られなかった自分そのもの。

気になってしかたなかったのです。


「それでさ。そっちはどうだったんだ?事故はどうなった、娘さんは助かったのか?」


ベッドに横になって私はじいさんに尋ねました。

すぐにでも尋ねたかったのですが、あの後、警察はくるわ、私も熱が上がってブッ倒れるわで。

尋ねる余力はありませんでした。


「娘の件か……うーん?どう伝えていいものやら」

「え……」


じいさんは悩んでいるようでした。

まさか、まさかまさか!


「もしかして助からなかっ……」

「おっしゃ、百聞は一見にしかず、じゃ」

べキッ。


ベッドの下で何かスゴイ音がしました。

床板を力ずくで引っぺがしたような。

メリメリッと板をはがした音に続き、トンカントンカンと釘を打つ音が聞こえてきました。


「おい、じいさん?何を始めたんだ」

「よっし、完成じゃ。ここの床板、はがしてみぃ」


どうやらいつものように、何かを床下に隠したようです。

いつかのように写真でしょうか?

しかし今は娘さんのことが先決です。


「おいおい、今はそんなことして遊んでる場合じゃないだろ」

「いーからさっさと開けてみんかい!」


「チェッ、わかったよ。ったく病人にはもっと気を使えってぇの…………」

「ふん、ちょいと雨に濡れたくらいで風邪ひくなんぞ、日頃の鍛え方が足りん証拠じゃ」


情容赦のない毒舌を浴びせられました。

普段の私なら怒り出しているところでしたが、今日はなんだか愉快な気分でした。


(ま、じいさんにこれだけ余裕があるんだ。娘さんは無事だったということなんだろう)


幾分、体力も戻ってきたようですし、じいさんの言葉に従って私はベッドから出ました。

まだ片付けていなかった大工道具を持って戻ってきてベッドの下に潜りこみました。


「おっ?あった、あった。この下に隠したのか」


床板の継ぎ目はすぐに見つかりました。

さっそく釘抜きで錆びた釘を抜きにかかりました。

ベッドの下という動きにくい場所なので、なかなか思うようにいきません。

それでも五分ほどで問題の床板をはがすことができました。

そこで見つけた茶色い大きな封筒。

中からは黄色く変色した一枚の新聞紙、そしてもうひとつ出てきた物。


「ハ……ハハ、ハハハハハ!」


私はついつい大笑いしてしまいました。

出てきたのは古びた写真が一枚。

写っているのは総勢八人の大所帯。


真中で仏頂面しているじいさん、その左には笑いを堪えたご婦人、いうまでもなく娘さんです。

そして右には緊張気味の男性、この方が旦那さんなのでしょう。

その旦那さんの前で背筋をピンと伸ばして胸を張っている少年は十歳くらい。

足下に座りこんで眠そうにしているのは弟でしょう。

一方、母親の手にしがみついてジッとカメラを見ているのは七歳くらいの少女。

娘さんの若い頃の面影が少し残っています。

そのお姉さんに隠れるようにしてこちらをのぞいている妹さん、やっぱりお母さん似です。

そして極めつけはじいさんの腕の中で眠っている赤ん坊。

末の弟はじいさんに、いやいや祖父に抱かれて心地良さそうです。

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