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百年前の同居人  作者: 境陽月
ある作家はこのように語った
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幽霊の正体見たり、見えてなかったり

「うーっ、頭痛してきたぞ」


出版社からの帰りの列車の中で、私はこめかみを押さえてうめいていました。

睡眠不足と疲労がピークに達していたのです。

あの後一睡もできずに震えていた私は夜が明けるや、家を飛び出しました。

駅に駆け込んで始発列車に飛び乗り、街まで逃げたんです。

そのまま出版社へ駆け込んで、仮眠室を借りて横になりました。

しかし目を閉じてもコン、コンというあの金槌の音が耳に残って眠れない。

その日の編集さんとの打ち合わせの時には神経がボロボロでした。


「体調が悪そうですから、打ち合わせは来週にしましょう」


憔悴しきった顔を見て心配した編集さんがそう言ってくれました。

私は黙って何度も頭を下げて出版社を後にしました。


「やっぱり、幻聴かなにかに違いない」


帰りの列車の中で私はそう思うようになりました。

一応は調べてみたのですが、あの家には幽霊の噂などありませんでした。

私の前にあの家に二十年ばかり住んでいた人とも連絡を取ったのですが、特に隠し事している様子もなかったのです。


「第一、金槌の音だけの幽霊なんて聞いたことないし」


時間が経つにつれて昨夜の記憶は曖昧になっていました。

執筆の合間のうたた寝で見た夢ではなかったか、とも思えてきたのです。

列車を降りて改札を抜け、帰り道を急ぐ間に私は自分に言い聞かせていました。


「あれはやっぱり夢だったんだ。引越しと仕事で疲れていたからな」


三十分ばかり歩いた私は自分の家の玄関前に立っていました。

鍵を差し込もうとして、触れるのを一瞬ためらいました。


「よぉし……」


静かに深く深呼吸を二回、三回。

顔をパンパンと叩いて気合を入れて、鍵をガチャリと回し、バンと勢いよくドアを開け放ちました。


「オイ、大工の幽霊、中にいるなら出て来きやがれ!」


無人の家の中に怒鳴り声を叩きつけました。

それから大股で家の中に(ちょっとだけビクビクしながら)足を踏み入れました。


「聞いているのか、幽霊野郎?それとも俺様が恐いのか」


待つこと十秒……二十秒……一分経過。

返事はありません。


「……はぁあぁぁぁ」


何も出てこないと分かって、一気に気合が抜けました。

同時に無人の家で大声でわめきちらしていた自分がすごく恥ずかしくなりました。


「……本当に馬鹿みたいだ」


深呼吸して落ちつけて、もう一度気合を入れなおしです。


「さ、仕事仕事。次が書けなきゃ飢え死になんだからな」


ドアを後ろ手で閉め、私は仕事部屋に向かいました。

この時、もうしばらく玄関に留まっていたなら私は再び恐怖したことでしょう。


ギィィィッ……。


開いてもいないドアが開く音だけが響きました。

続いてパタンと閉まる音が最初から閉じたままのドアからしました。

そして誰もいない玄関でささやくような声が……


「おかしいのう?誰か大声でわめきちらしとる奴がいたような気がしたが。村の衆がまた何か文句でもいってきたか?と思うたんじゃが」


……なんて具合に爺さん、あの時は言ってたんだろうなあ。

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