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5th contract

「はぁ〜。自分が情けないなぁ〜。」



病院のベッドの上で寝返りを打ちながらもう何度目かも分からない溜め息を吐いた。



頭を殴られていたのに無理して迎えに行ったことが災いして傷口がもう一度開いてしまったらしい。



退院したら朝練も程ほどにして同情に通い直そうかな、俺。



胸囲がメートルにまで達している師範を思い出しながらその考えを辞めた。



暇過ぎる。



ネット小説でも見るかな。



繋ぎ終わったので適当にスクロールさせていく。



それから自分好みの小説を読み耽っていると病室のドアがノックされた。



「はい。どうぞ。」



返事をすると勢い良くドアが叩き付けられた。



「よう、修介!元気に病人やってるかえ?親友の浩介君が見舞いに来てやったぞ!感謝しろよな、この幸福モノが!このこのぉ〜〜!」



「よし、帰れよお前。お前と同じ空気を吸っていたら傷口が疼く。」



うん。確かに暇だとは思っていたけどこういう時には来て欲しくないタイプの人間だわ。



俺の切実な想いも虚しく浩介はどっしりと備え付けのパイプイスに座った。



こうなると浩介は足元に根を生やすので諦めてノートパソコンを閉じた。



「駅前の菓子屋でエクレアとシュークリーム買って来たんだけど食べるか?」



「もちろん食べる!うん、浩介が着てくれて俺は心のそこから感謝しているよ。」



駅前のケーキ屋カスタードクリームが美味いんだよな。



ヌメリ気のある視線を感じたけど気にせずにシュークリームを食べる。



なんて言うかな〜。甘いものって幸せにしてくれるよね、うん。



そんなこんなでのんびりと時間を過ごしていると視線を感じ浩介を見ると俺を睨んでいた。



普段とはかけ離れた顔に思わず身が竦む。多分俺の顔は引き攣っていると思う。



「なぁ。」



とても低い声だった。



ここ数年聞いたことのない声だった。



多分最後に聞いたのは高校入学前だったと思う。



「お前、その怪我どうしたんだ?俺聞いてないんだけど。」



なんか拍子抜けするような言葉だった。



茶化そうかと思ったけど目が真剣だったからそれはやめることにした。



「なんだよ、焦らせるなよ。ただちょっと下手しちまっただけだよ。怜次から聞い…。」



『た。』という前に俺の身体は後ろに吹き飛んだ。



腰をベッドの柵にぶつけ、頭を壁に追いやられて、胸を押し込まれた。



息が詰まって、浩介の顔を見上げた。



「誤魔化すなよ。これ以上誤魔化すならおまえの事潰すぞ。」



俺にはコイツがなにを怒っているかさっぱり分からない。



ケンカなんて中学校のときから腐るほどしてるのに今更どうしてこのくらいで怒るのか分からない。



「お前、本当に分かってないのか?…そうかよ、分からないなら教えてやるよ。」



俺を握り締めている力が更に強くなる。



「俺はお前らに怒ってるんだよ!鈴音ちゃんがストーカーされていたのは別にお前らが悪いわけじゃない。



鈴音ちゃんだって女の子なんだからストーカーされていたら心細いと思う。



お前らが鈴音ちゃんを助けようとするのは当たり前のことだし、それは正しいことだと思う。」



一瞬切なそうな色に眼を細めてから『でも…』と続けてから叫ぶ。



「俺はお前の助けになりたかった!例え俺に何が出来なくても…。



それでもお前の痛みを知りたかったんだよ!それなのにお前らは!お前は……。」



胸に空気が入り込んでいく。浩介は手を払ってそのまま出て行ってしまった。



「お前の気持ちだって分かるさ。もし俺がお前と同じ立ち位置に居たならそうしたさ…。」



でも嫌なんだよ。



お前に負けたくないんだよ。



一つでもいいから多くなにかお前よりも優れているって思わないと心が狂いそうになる。



俺が一人で勝手にお前とけんかしてることなんて分かってるよ。



「でも、お前が悪いんだぞ。浩介。



お前が俺の一番欲しいものを手の届かないところに持っていくから、悪いんだ。



お前に敵わないから勝つしかないだろ…。」



そうだ、お前が悪いからなんだ。



ごめん、浩介………。



俺はただ、溢れ出る嗚咽を布団に漏らすことしか出来ず、時間を過ごした。






―――退院後―――






「いい加減浩介と仲直りしたらどうかな?二人とも眼も当てれないよ。」



退院準備をしている怜次はその手を止めて苦笑いをする。



「…あぁ、また近いうちに飯にでも誘って仲直りするよ。気ぃ使わせて悪いな。」



ジーパンのチャックを閉じるのをいったん止め、笑い返すとまだ疑っているらしく怪訝そうな瞳に数秒睨まれると『絶対だからね。』と釘を刺されたのでもう一度頷く。



「それよりも鈴音ちゃん落ち込んでなかったか?あれから一度も顔見てないんだけど…。」



鈴音ちゃんは昔から優しくて責任感が強いから責任感じてなかったらいいんだけどな。



「うんかなり感じていたよ。初めの二日三日なんてまるでお前が死んだみたいに泣いてた。



最近ようやく落ち着いてきたけどそれでもまだ無理してるから連絡してやって欲しい。」



「わかった。今晩あたりにでも電話してみるわ。」



どうやら思っていた通りらしく小さい頃から変わっていないのだな、と改めさせられた。



妙な親近感を覚えるのって俺だけなのかな?



ようやく荷造りも終わりエナメルを肩に担いで二週間弱過ごした病室に別れを告げた。



入院費を払いに行った怜次を見守りながらのんびりと缶コーヒーを啜る。



俺の入院費なのだがその原因は元々怜次にあるとの理由で言いくるめられてしまった。



これからある会社の株を信用買いしたいので俺の中で立て替えてもらった、という風に考えて大人しく立て替えてもらうことにした。



ケータイを開くとこれを見て騙される奴はいるのか?と疑問に思うようなダイレクトメールが数件来ているだけだった。



それらのサイトを迷惑メールに設定してから溜め息を吐いてケータイを閉じた。



入院中にやっぱり瀬尾さんからメールは届くことが無かった。



メルアドを知っているからもしかしたら送ってきてくれるのではないか、などと甘い考えを抱いたのが間違いで怜次や両親、時々つるんでいる友達からしか来なかった。



初めてメールを送ったときもありきたりな文章が何度か行き届いた後、あちらからそろそろ寝るので止めます、とのメールを最後に音信不通になってしまった。



確かにさぁ、俺の気持ちを知らないからってさ。



初めのメール打つのに何十分も考えてたり、メールが帰ってきただけで喜んだ俺が馬鹿みたいじゃんかよ…。



「手続きも終わったからそろそろ帰ろうか?ってどうしたの。



自分が悪いのに勝手に逆恨みしているヒール役みたいな顔になっているよ。大丈夫?」



そんなピンポイントに言わなくても良くないか?



それにしてもヒール役って……。



俺ってもしかして悪者?



ウガァ!



悶絶しているとクスクスと音を立てて笑っている怜次が十メートルほど進んでいたので走って追い駆ける。



それからしばらく歩いていると俺のケータイが鳴った。



電話の相手はお袋で怜次と鈴音ちゃんを夕飯誘いなさい、というものだった。



そのことを伝えると怜次は戸惑いながらもお袋の口車に乗せられて了承した。



ちなみにお袋は俺よりも鈴音ちゃんを可愛がっている。



そして親父の奴は俺よりも怜次のことが気に入っているらしい。



そんなわけで怜次達が来るその日の夕食は豪勢になる。



ランクが民宿から国際ホテルくらいに跳ね上がる。



悔しいがまぁ自分もおいしい思いが出来るので大人な俺は素直に喜ぶのだった。






―――長谷川家―――





「怜次君いらっしゃい。あら、前に見たときよりもかっこよくなったわね〜。



ほら修ちゃん、お母さんは怜次君とお話しするから夕飯よろしくね。



材料は適当に冷蔵庫のものを使ってね。さぁ、それじゃあリビングにでもいきましょうか怜次君。」



おい、母親。俺は一応病み上がりの怪我人なんだぞ。



反抗するのに諦めた俺は大人しく下準備に取り掛かるのだった。



にんじんを花にしているとリビングへと繋がるドアが開いた。



「修介、鈴音が学校が終わったから迎えに来て欲しいって連絡あったから行ってくる。」



「わかった。早いとこ迎えに行ってあげろよ。」



待てよ。



鈴音ちゃんと話すんだったら早いことに越したことは無いよな。



「怜次。俺が迎えに行くよ。どうせいくつか足りないものがあるからついでに買ってくるわ。



そんなわけだからお袋、後のことはよろしくな。下拵えはしたから。」



まだ不安そうにしている怜次の方を軽く叩く。



「安心しろよ。俺は車で行くし、怪我をしていてもお前よりは確実に強いから、な?」



笑いかけると納得したみたいで『分かった。よろしく頼む。』と言ってリビングに戻っていった。



部屋から財布を取って家を出る。



本当は歩いていきたいんだけどなぁ。



まぁ、仕方ないか。



車に乗ってからアクセルを踏んで鈴音ちゃんの待っている学校へと走らせる。



それにしてもあの男はどうなったんだろう。



もちろんここ最近は鈴音ちゃんに近付いているといったことは聞いていない。



そりゃそうだ。



なんて言っても俺が足を骨折させたんだから。



でもずっと胸に引っかかる感じが否めない。



鉄板を仕込んでいたのはわかる。



でもなんでアイツはゴムなんて仕込んでいたんだ?



例えば俺がストーカーの立場だったとしても持っていくとしたら警棒と籠手が精々だ。



第一急所に鉄板を仕込んだっていっても、もし俺がそれ以外を狙っていたらどうするつもりだったんだろう?



まるで俺がスタンガンを使うことを知っていて、しかも俺のケンカのやり方を知っている、そんな風に感じるのは俺の思い込みなのだろうか?



まさか怜次じゃあるまいし…。



でも俺だけじゃなくて浩介にも注意を促した方がいいな。



結局浩介の奴とは一度も話さなかったし、明日にでも練習を見に行くか。



考えをいったん止めて前を見ると学校は既に七十メートルほど後ろにあった。



「はぁ。問題は早いうちに片付けた方がよさそうだな。じゃないとそのうち事故りそうだ。」



反対車線に移ってから校門前で止めて車から降りる。



高校生から奇異の声と視線を感じつつも鈴音ちゃんが出てくるのを待っていた。



「っつ!あっぶねえなぁ!誰だよ、人に向かってカバンを投げるバカヤロウは!」



飛んできたカバンを反射的に掴んで、カバンの飛んできた方を見ると、見知った顔が三つゆっくりとこちらに向かってくる。



「鈴音ちゃん迎えに来たよ。美代子ちゃんに莉菜ちゃん、久し振りだね。」



とりあえず笑いかけると笑顔と舌打ちが帰ってきた。



大人の俺はそんな瑣末なことに反応することはなく…



「……ただのオジサンってことでしょ。」



…反応することなく興味深げに俺の車を覗いている二人に眼を移す。



美代子ちゃんが眼を輝かせながらボディーを触っている。



もしかして乗ってみたいのかな?



「もしも二人が良かったらの話なんだけど送っていこうか?一応四人まで乗れるし。」



「はい。ぜひお願いします。私、ベンツに乗るの生まれて初めてなんです。」



うん。



素晴らしいくらいに気持ちよく思ったとおりになったな。



「じゃあ三人とも俺が責任もって送るから。鍵開いたから好きなところに座ってね。」



全員を車に乗せてからエンジンを入れる。



二人とも国立体育館の近くに住んでいるということなのでユーターンして車を走らせた。






―――車内―――





「この車って誰のものですか?やっぱり先輩のお父さんのものですか?」



「…甲斐性の無い男は嫌われるわよ。」



上から順番に美代子ちゃん、莉菜の順番で疑問やら罵倒やらをぶつけてくる。



「俺の車だよ。半年くらい前に納車したんだ。もう走行距離は五桁に突入したけどね。」



おれがそういうと美代子ちゃんが感嘆の声を上げた。



でも辛かったな。



マーケットだけじゃ足りないから家庭教師のバイトまで毎日入れて…。



うん。



今思い出してもあの時はかなり俺がんばっていたよな。



「すごいですね。やっぱり自分で払ったんですよね。どんなバイトしていたんですか?」



「どうせ、両親に泣きついていたんでしょ。『パパ、ママあれが欲しいよ〜。』みたいに。」



美代子ちゃんが素直に驚いてくれるから莉菜がより一層悪く見えてしまうから不思議だ。



「M&Aとかかな。あとはIT系の会社をやってたよ。鈴音ちゃんのお兄さんの怜次って人は知ってるかな?



その怜次と二人で会社立ち上げたんだ。今はもう他の人に譲ったけどね。



最近はマーケット、つまり株取引が主な仕事かな。本当はだめなんだけどね。」



美代子ちゃんには理解できなかったらしく首をかしげながら宙になにかを書いていた。



莉菜は気に入らなかったらしく鈴音ちゃんと話しをしている。



「美代子ちゃん。悪いんだけどダッシュボードから適当なCD選んでかけてくれないかな。」



『わかりました。』と小さな声と一緒にガサガサとダッシュボードを漁る音が聞こえてきた。



今の席順は運転席に俺。助手席に美代子ちゃん。後部座席で俺の後ろが鈴音ちゃん、その隣が莉菜、といった感じで並んでいる。



俺はてっきり鈴音ちゃんが座ると思っていたから少し驚いた。



まぁ鈴音ちゃんは車に興味が無くて、車に興味を抱いている美代子ちゃんが助手席に来るのは当たり前なのかもしれない。



しばらく走らせていると莉菜が『停めてください。』と言ったのでそれに従って停めると反対車線にある大きな堀の方へと歩いていった。



中に入る前に手を振ってきたが多分俺は除かれていると思う。



クラクションを軽く二度鳴らしてから美代子ちゃんの家を目指す。



しばらく莉菜の言ったとおりに運転していると県でも有名な閑静な住宅街に着いた。



「へぇ〜。莉菜の家ってここら辺なんだ。意外とお嬢様なんだな。」



美代子ちゃんの方がイメージに合ってるんだよな。



そんなことを考えていたのがばれてしまったらしくて不機嫌そうに『彼方のイメージに沿うことが出来なくてとても残念ですわ。』と外を見ながら言った。



まさか聞こえているとは思ってもみなかったので聞こえなかった振りをした。



そしてもうしばらく走らせていると見慣れた風景が眼に入った。



この先の信号を右に曲がったら浩介の家…か。



「この先の信号を右に曲がってそのまま少し進んで。」



まさかなぁ…。



世界は広いんだしそんなことあるわけ無いか。



そして制止の声がかかったのは見慣れたい絵の隣だった。



「世界が広くても世間は狭いもんなんだな。」



「は?運転してる間に頭のネジが吹き飛んだの?腕の良い精神科医教えよっか?」



本気で心配されてしまった…。



凹んでいると鈴音ちゃんに肩を叩かれたのでスーパーに向かった。



 「鈴音ちゃん。俺の怪我のこと気にしなくてもいいからね。」



後ろに座っている鈴音ちゃんが驚いて跳ねたらしく少し振動が伝わってきた。



『ちが…。』と否定しようとしているのでもう一度口を開いた。



「違わないでしょ。だからいつもなら助手席に乗るはずなのにわざと俺に顔を見られないように真後ろに座ったんだよね?昔から一緒にいるから分かるよ。」



黙っているってことは肯定ってことだよな。



「今も言ったけど鈴音ちゃんが気にすることないよ。鈴音ちゃんは悪くないから。」



「違います!私が悪いんです。私のせいで修介さんは…。」



「そうだね。確かに鈴音ちゃんのことが原因で俺は怪我をしたよ。」



後ろから息を呑む音と卵のパックの軋む音が聞こえた。



多分俺が肯定するとは思っていなかったんだろうな。



「元々の原因は鈴音ちゃんかもしれないけど直接的な原因じゃないだろ。なら悪くない。」



俺は車を脇に止めてから後ろに振り返った。



鈴音ちゃんが涙を堪えながら、それでもこちらを見ているのが見える。



「あのね。俺だからこのくらいの怪我で済んだんだよ。



もし怜次ならもっと入院していたかもしれないし、浩介なら勝っていただろうけどでも出場停止になっていたと思う。



鈴音ちゃんが誰にも言っていなかったらもっと酷いことになっていた。



俺だからいいんだよ。」



「でも私のことなんだから私自身が解決しないといけなかったんです。」



その言葉に俺は頭の中でブチッとアキレス腱が切れるような、そんな音が響いた。



俺はイスとイスとの間に身体を潜らせて息と息が触れ合う、そんな距離にまで縮めた。



『え?』と間抜けな音が聞こえたけどそんなことは無視して鈴音ちゃんの隣に腰掛ける。



固まったままの鈴音ちゃんの両手を交差するように掴んで窓ガラスに押さえつけた。



口を首筋に這わせて右手で太ももを撫で回す。



「ひゃっ!」



驚いたらしく耳に残る声が鈴音ちゃんの口から漏れる。



しばらくの間同じように鈴音ちゃんの身体を弄繰り回していた。



多分それから五分くらい経ったと思う。



さっきから何度も『辞めて…。』と反抗する言葉を無視して遊んでいた。



太ももを撫でていた右手をゆっくりと離した。



鈴音ちゃんから安堵の声が洩れた。



そして俺は鈴音ちゃんのセーラー服を右にずらした。



鈴音ちゃんの肌の白とセーラーの黒の間にピンク色のブラが見える。



鈴音ちゃんに上唇をペロリと嘗める。



ブラを横にずらしてから唇を鎖骨に這わせた。



「修介さんやめてぇ!お兄ちゃん助けて!」



鈴音ちゃんが悲鳴を上げる。



そして俺は両手を放した。




「っく。ひっく。うぅぅ。ひっく。」




俺はずっとすすり泣いている鈴音ちゃんの頭を撫で続けている。



いくら分からせるためにしたと入っても罪悪感が募る。



結局俺のしたことはあのストーカーのしようとしていたこととなんら変わりない。



むしろ実行に移した俺のほうが鈴音ちゃんを傷つけているしな。






「修介さんは変体なオオカミさんです。」





あれから十分してから初めに出てきた言葉がこれかよ。



軽くグレながら鈴音ちゃんの愚痴というかなんというか、とりあえずそんな感じのことを延々と聞かされていた。



まぁ確かに俺が悪いんだけどさ。



でも一言目が『変体なオオカミ』はいくらなんでも酷い。



愚痴を聞いている間、俺も頭を撫でながら心の中で愚痴を溢すのだった。



「…私が悪かったのはわかっています。



でもいくらなんでも手で乙女の柔肌を汚したんですから一つくらい言うこと聞いてくれますよね?」



おーおー聞いてやるよ。



どうせ俺は穢れきった汚いケダモノですよ。



「はいはい。何なりとお申し付けくださいませ、お嬢様。」



「じゃあ、私を抱き締めて…。…それから背中を撫でてください。」



俺はその言葉でハッとなった。



いくら知り合いだからってそんなにすぐ許せるわけ無いじゃん。



それなのに頑張って、無理矢理明るくしているだけなんだ…。



俺はただ鈴音ちゃんが痛いと言うほど強く抱き締めた。



俺が運転席に戻ったとき、胸はひんやりと風を受け止めていた。



結局俺は家に着いてからベッドの上で考えている内に眠りについてしまい、眼が覚めたのは暁だった。






―――それから一週間と数日後―――





「おい満田。浩介何処にいるか知らないか?」



「さっき室内練習場を出て行ったきり知りません。



それより早く浩介先輩と仲直りしてくださいよ。最近毎日機嫌が悪いんですから。」



「おぉ。今日はそのためにここに来たからな。」



『マジで頼みますよ。』と満田に再三念を押されてから別れた。



普通なら満田と一緒に外に出るはずなのに俺は練習場に歩いていった。




「……なんでだよ。」




ドアを開けると自然に口から洩れていた。



俺はそこに向かって走っていた。



走った勢いを殺さずに手首を掴んだ。



驚いた顔が映った。



なんでまだここに居るんだよ!



怒りに任せて…。



「っ!」



…俺はそいつの、瀬尾星夜の唇を奪っていた。





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