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3ed impostor


「昨日のことはいったいなんだったんだろう。」



普段なら怜次に起こされるまで起きない自分が午前五時という時間に起きてしまったのはやっぱり昨日のことが頭から離れないからだと思う。



起きてから怜次を起こしてしまわないように部屋から抜け出して気分転換のつもりで顔を洗うと余計に頭が冴えてしまいやけくそでシャワーも浴びてしまった。



もう六時前か…。



いつも鈴音ちゃんに作ってもらってるし、たまにはお返しでもするか。



流石に昨日掃いた下着をもう一度着るのはいやなので怜次の下着を借りた。



シャツは流石に小さかったのでポロシャツだけ上に羽織り、キッチンに行くと鈴音ちゃんが仕度を始めようとしていた。



「あ、おはようございます。もう少し待ってくださいね。これから朝食作るので。」



昨日のことが頭から離れない。



つい、返事をするのが遅くなってしまい不思議に思った鈴音ちゃんが振り返った。



「おはよう、鈴音ちゃん。今日は俺が朝食作るから鈴音ちゃんはゆっくりしたらいいよ。」



『でも…。』とおろおろする鈴音ちゃんの口を丸め込んで予定通り俺が作ることになった。



エプロンをつけていただけらしくコンロの上には何もなく、食パンの袋が置かれているだけだった。



冷蔵庫からベーコンと卵、レタス、トマト、ツナ缶を出す。



フライパンに火をつけてからパンをトースターに突っ込む。



ベーコンを焼き始めていると鈴音ちゃんの視線を感じたのでチラ見すると挙動不審だった。



ベーコンがカリカリになったので皿の上に乗せてから卵を四つ落とす。



怜次は半熟で、鈴音ちゃんは半熟よりもやや固めだったよな。



昔から一緒にメシを食べてきたから自然と好みを覚えてしまった。



慣れって偉大だな。



「あともうちょっとで出来上がるから怜次の奴起こしてきてくれるかな?」



「分かりました。すぐに呼んで来ますね。」



イスから立ち上がって階段へと消えていった。



コーヒーカップとマグカップにインスタントコーヒーを入れてお湯を入れる。



ベーコンの隣に軽く洗ったレタスと輪切りにしたトマトを添えてから和風ドレッシングを適当に振りかけてからお盆にお茶碗と皿を載せて準備を済ませる。



飲み物を取りに行ったときに後ろのドアが開いた。



「おはよう、怜次。」



「……はよ…。」



まだ半分寝ぼけた怜次の声がした。



うん。いつも通りの低血圧具合だな。



改めて怜次の低血圧歩合を実感しながら牛乳をグラスに注いでから席に着いた。



「いただきます。」



「ただきす。」



とりあえずコーヒーを一口飲んでから怜次を見る。



コーヒーを飲んだらしく瞼が若干さっきよりも開いていた。



それからはしばらく三人とも何も話さずに黙々と食べていた。



これまたいつも通り俺が一番最初に食べ終わったので紅茶を淹れる為にたった。



ティーポットとティーカップを持って席に座った。



それにしても怜次の奴いつになったら俺が今日は送るってこと言うのかな…。



それとも今日じゃなくて明日とか?



でもなぁ〜。俺、明日は四コマあるからきついんだけどな〜。



てか浩介に朝練休むって言っておかないとな。



それより、瀬尾さんは今頃何してるのかな〜?



「…修介、顔が気持ち悪いくらいにニヤけてるよ。気持ち悪い。」



「気持ち悪いはないだろ…。」



キモいよりもダメージ高いぞ。何気に。



「それと鈴音。今日学校に行くときは修介に送ってもらってね。そのあとは適当に街でも散策しておいて欲しいんだ。大体六時過ぎまで。」



「ちょっと待て。六時までとは一言も聞いていないぞ。」



落しそうになったカップをテーブルに置いてから怜次を睨みつける。



そしてそれをなんともないようにスルーする怜次。



「だって今思いついたからね。大丈夫、修介に拒否権なんて存在してないから。」



おーおー。



可愛い顔してえげつないこと言ってくれるね。



全力で拒否を拒否ってやるよ!



「昨日、ダウトで七回負けたのは何処の誰なんだろうね。」



「うわー。なんか急に鈴音ちゃんとデートしたくなってきたなー。」



ニッコリと黒く微笑んだ怜次に幼稚園児に勝るとも劣らない大根役者ばりに答えを返した。



いや、まぁ。もともと今日は誰かに代弁してもらうつもりだったからいいけどさ?



いくらなんでも一言も言ってくれないのは酷くないか、怜次?



それよりもさっきから青くなったり赤くなったり白くなっている鈴音ちゃんが異常に気になる。



「実はな、お前がストーカーされてること修介は知ってるんだ。



俺が送っていければいいんだけど生憎今日はもう少ししたら家を出ないといけないから修介に頼んだ。」



う〜ん。怜次が鈴音ちゃんに真面目な話してる姿って久し振りに見たな。



なんか違和感ありまくりだな。



そんな鈴音ちゃんはと言えばなんとも言えない、強いて言うのなら不安と期待を入り込んだような顔をしていた。



「お兄ちゃん。私は大丈夫だから修介さんは気にしないでください。



それに今日は大学ありますよね?私なんかの為に授業サボっちゃだめですよ、分かりましたか?」



人差し指を唇にあてて、『メッ』と可愛らしく注意されてしまった。



ん〜怒られてるんだろうけど全然気にならないのは何でなんだろうかな?



「……………修介、あとで部屋に来て…。」



さっきと変わらない笑顔のはずなのに口元がヒクヒクと動かしているせいでとっても恐ろしい。



「気にしなくていいよ。朝送るのは最近運動不足だからだし、放課後は俺が欲しいものあったから一緒に来て欲しいんだけど。だめかな?」



用事なんてないけど良い機会だから何か小物でも買おうかな。



そういえば最近アロマ焚いてないからいいのがあったら買おう。



今日の夕方の予定を立てていると鈴音ちゃんに小突かれた。



「でもさっき、六時までってお兄ちゃんが言った時に驚いていたのはどうしてですか?」



うっ。無駄に鋭いな。こういう時だけ怜次みたいになるの止めてくれないかな。



「違う、違う。昨日、放課後のことは話してたけど時間までは聞いてなかったから。それで驚いただけだよ。もしかして俺とだといやかな?それなら、仕方ないね。」



少し声のトーンを落として顔が隠れるか隠れないかのところまで俯かせる。



そうすれば鈴音ちゃんが嫌だといわないことを昔からの経験で俺は知っている。



「いえ。全然迷惑じゃないです!嫌じゃないです!放課後楽しみにしていますね。」



笑顔で答えた鈴音ちゃんに軽く笑ってから怜次の方を見る。



…とてつもなく不機嫌そうな顔をしていた…。



はぁ、昨日といい今日といいなんか俺メチャクチャ怜次に嫌われてないか?



「とりあえず僕はそろそろ用事があるので出かけますね。ところで修介。今日も泊まっていきますか?もしそうなら帰りにワインでも買ってきますよ?」



う〜ん。確かにワインも飲みたいけど昨日は連絡するの遅れたからな。



「悪い。今日は大人しく帰って適当にご機嫌取りでもするわ。たまには鈴音ちゃんも打ちに遊びにおいでよ?お袋のやつ、俺よりも鈴音ちゃんの方がお気に入りだから喜ぶよ。」



「わかった。またそのうち寄らしてもらうっておばさんに伝えといてくれ。もう行くから。」



食器を片付けてから出て行ってしまった。



取り残されてしまった俺と鈴音ちゃんはのんびりとした紅茶タイムに突入。



冷蔵庫から昨日買っておいたシュークリームを一つずつ小皿においてそれにかぶりつく。



「そういえば最近学校は楽しい?あんまり鈴音ちゃんと話す時間なかったから改まって聞くけど。昔みたいにガキ臭いことしてるやつとかいてないか?」



鈴音ちゃんは小学校の頃あまりにも怜次と仲が良すぎて怜次のクラスメートに虐められていたことが合った。



まぁ、怜次が何かして沈静化したらしいけど…。



…何か、なぁ。



「はい、大丈夫ですよ。今のお友達はみんないい人ばかりですから。」



眼は逸らしてないから一応は信じてもいいのかな?



鈴音ちゃんは何か起きても自分の裁量を弁えずに物事を解決しようとする。



もちろん、その心がけは立派だと想うし鈴音ちゃんのいいところだと思っている。



でも裁量を明らかに超えたことも全て自分でしようとして何もかも溜め込んで暴発、というか暴走というか、結果的に予想にしないことをするので少し困りものだ。



一人で納得している俺を不思議そうに見ていたので時間を告げると慌てて部屋に向かった。



少し覚めてしまった紅茶をカップに注いで溜め息を一つ落として天井を見上げる。



「どうして、瀬尾さんは俺を見てくれないんだよ…。」



俺だってそれなりに整った顔をしていると思う。



浩介みたいに女の子を一日の気まぐれで弄んだりしたりしない。



振り向いてもらうために最近は真面目に浩介の相手だってしている。



俺がいくつ空振りさせても、いくら打ち負かせても結局俺は浩介の結果の一部でしかない。



それを割り切れたら、諦めることが出来たなら俺はもう少し賢く生きれたならと思う。



いつも、いつも、いつも、浩介は俺のことを敵にして、心を逆撫でする。



考えが歪んできたところでテンポ良く足音を鳴らせながら鈴音ちゃんがドアを開けてきた。



腕時計に眼を通すと七時五十二分、いつもより二分だけタイムオーバーだった。



イスにかけていたカバンを持って首をかしげると『行きましょう。』と帰ってきた。



スニーカーをはいてからドアを開けると拳銃を銜えた子犬のキーホルダーのついた鍵を持って一緒に家から出る。



鈴音ちゃんもそろそろ身長が止まってきたのかな?



鍵を閉めている鈴音ちゃんの後姿を見ているとふと思った。



女の子としても小柄なほうにはいると思う。



高校入学のとき、いまだ百五十センチを超えない身長を嘆いていた。



まぁ、怜次も小柄で遺伝がそうなのだから仕方がないのだけど本人は納得いかないらしい。



そんな鈴音ちゃんの願いが通じたのか高二の後半になると百五十センチを超えたそうだ。



少しDNAの残酷さに浸っていると鍵を閉め終わったらしくカバンにしまうのが見えた。



歩き出して少ししてカバンを奪い取った。予想していたらしく若干プラスで力を入れた。



三歩先に出たので鈴音ちゃんの表情は分からないけど視線が痛いほど突き刺さる。



しばらく死線を受けていると『強引過ぎです。』と呆れ半分、怒り半分の一言をもらった。



それもすぐに終わり困ったような笑顔と一緒になって俺の隣を歩いた。



それから適当に鈴音ちゃんと学校のことについて話していた。



家と学校の中間距離に差し掛かったときに最近は聞きなれていなかった類の声を聞いた。



「鈴〜おっはよう!今日もお胸の大きさはご健在ですなぁ〜。」



「美代子。そんなこと言わないでよ。」



いい感じに女の子らしい会話が繰り広げられている中で隣にいた俺は何をしているのかと言えば、なぜかは分からないが鈴音ちゃんと同じ制服を着た女の子に殴りかかられてしまっていた。



一応正当防衛の為に殴りかかってきた右手と構えられていた左手は拘束させてもらったけど俺にはさっぱりと殴られている理由が分からなかった。



それでその殴りかかってきた女の子といえばなぜか『チッ。』と舌打ちして俺を睨む。



「鈴音ちゃん。お友達とお話しするのはいいけど、とりあえずこの子は誰なのかな?」



楽しそうにお友達と戯れている鈴音ちゃんに状況説明を求めた。



「あぁ。その子は私のお友達で莉菜って言います。今私の隣にいるのが美代子です。」



そう説明されて一応莉菜ちゃん?の拘束を解いて鈴音ちゃんに向き合う。



そんな親切心も舌打ちをもう一度されて消えてしまった。



もう一人さっきまで戯れていた女の子はといえば鈴音ちゃんの背後に隠れて俺を見ている。



なんていうか、鈴音ちゃんも個性豊かなお友達とつるんでるんだな。



着々と怜次の通り道を通っていく鈴音ちゃんに憐みの視線を送っていると首を傾げられた。



それから無意味に集まってくる視線を一身に受けながら口を開いた。



「えっと、俺の名前は長谷川 修介で有月大学の二回生。鈴音ちゃんとは、まぁ幼馴染みたいなものかな。



昨日は怜次、鈴音ちゃんのお兄さんと飲んでて今日は送ることになったんだよ。



もしかしたらこれから何度か見かけることがあるかもしれないけどその時は気軽に話しかけてね。



お茶くらいなら奢れるから。」



愛想笑いをすると片方の視線は緩くなり、もう一方の死線はさらにきつくなった。



自己紹介も程ほどに遅刻しないために歩き出した。



それにしても…。



鈴音ちゃんを俺から守るように歩いている少女に眼を落とす。



なにか、武術やってるな。多分、空手だと思うけど。



そこまで考えているとキッと睨まれてしまったので慌てて眼を逸らした。



よくもまぁ、短時間でここまで徹底的に嫌われるものなんだな…。



大して悪いことなどしてもいないのに嫌われたことに驚きつつ、鈴音ちゃんたちの学校が見えたので持っていたカバンを渡してから校門に入っていったところを見届けた。



それから物珍しそうな視線を掻い潜ってとりあえずは時間潰しの為に街に向かった。



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