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2ed emotion

はぁ〜〜〜〜。



「……け、修介!」



「え?あぁ、怜次か。どうした?そんな怪訝そうな顔して。せっかくの女顔が崩れてるぞ。」



「僕はね、別に人の食事に対してケチを付けるつもりは無いよ。でもね、ご飯にコーヒーをかけて食べることはオススメしないよ?それでもいいなら別だけど…。」



何言ってんだよ、怜次の奴?



ってンギャ!!やってしまった。はぁ…。



視線を落としてみると右手にはコーヒーの入っていたマグカップとその下にはそのコーヒーがドボドボと注ぎ込まれているお茶碗、と中に入っている飯だった。



怜次の妹の鈴音ちゃんが苦笑いしながら『替えますよね』、と言いながらしゃもじを持っているけど断った。



せっかく夕飯を作ってくれた鈴音ちゃんに悪い気がしたのでお茶漬けの要領で口の中に放り込む。



うげ〜〜苦い…。それにコーヒーに浸されたご飯って結構グロテスク…。



涙目になりながら全て完食すると気を聞かせてくれた鈴音ちゃんが緑茶を持ってきてくれた。



「鈴音ちゃん、サンキュー。助かるわ。」



緑茶を一口啜ってから鈴音ちゃん特製のコロッケを口いっぱいにほお張る。



ジャガイモがホクホクでおいしいなぁ〜。衣もサクサクだし、鈴音ちゃんはいいお嫁さんになるな、きっと。



「兄のいる前で堂々と妹を口説くの止めてくれるかな、修介。」



怜次が鋭い眼光で睨みつけてくる。



どうやら口から漏れていたらしく鈴音ちゃんが頬を赤らめて俯いてしまった。



「悪い、悪い。口説いたつもりは無いよ、ただの感想、感想。」



未だ鈴音ちゃんが顔を赤くして俯いているのでもう一度コロッケをかじる。



「…また口から漏れてるよ……。」



…俺、早いうちにポーカーフェイス見につけないと怜次に殺されるかも…。



空気が気まずくなってきたので皿の上に広がっているもの全て食べ終えてから部屋に逃げることにした。



「鈴音ちゃん、今日も飯美味かったよ。サンキュー。俺先に上に言ってマーケット見とくからゆっくりしてこいよ。」



部屋に入ってから自前のノートパソコンにネットを繋げた。



仕事と打たれたファイルからショートカットしてマーケットに飛んだ。



しばらくの間液晶とにらみ合いっこしていたけど変動が少ないのでひとまず怜次のミニコンポで音楽を適当にかける。



ショパンの別れの曲が流れてくる。



でも、本当に怜次の奴別れの曲好きだよな。



あいつクラシックも洋楽も邦楽も聴くけど基本的に切ない歌とか哀しい歌ばっかりだよな。



余計な詮索はやめてもう一度画面を見渡して溜め息を一つ吐いた。



最近の俺っておかしいよな?



怜次が言っていたみたいに俺自身自分の行動に驚いている。



今さっきみたいなことは何度もあったし酷いときには女子テニス部の更衣室前までいつの間にか歩いていた。



そしていつも考えていることは。



「瀬尾 星夜さん、のことでしょ?」



ドアは開いており、怜次が呆れた顔でその名前を呟いた。



その名前を聞いただけでも胸がざわつく。



そんな俺をよそ目に怜次は画面を見て株取引していた。



それからしばらくしてノートパソコンをしまった怜次が事務用の大きなデスクからトランプを取り出た。



「久し振りにダウトでもやろうか?カード切ってて。鈴音を呼んでくるから。」



ダウト、トランプでは少しマイナーな方に入るカードの遊び。




でも怜次とするときは意味が違う。



罰ゲームがあって、その罰ゲームが一位の言うことを聞く、そんなありふれたもの。



でも俺は今まで怜次に勝った記憶が無い。



また虐められるのか……。



はぁ…。



とりあえず必要以上に悪口を言われたくないので大人しくカードを切っていると鈴音ちゃんと一緒に怜次が入ってきた。



「じゃあ始めようか。修介、くん?」



笑顔が怖いなぁ〜〜怜次君。



「手加減してくれる、よ、な?」



懇願するように見上げると口先の吊り上った素敵な笑顔を見せてくれた。



あぁ、瀬尾さん。もう少し話してみたかったな……。





―――数十分後―――




「それダウトだよね。」



「なんでわかるんだよぉぉ〜〜〜!!!」



あれから十回弱やったにも拘らず俺七回、鈴音ちゃん一回、怜次零回。



もういい…。



これ以上やっても墓穴掘るだけだから大人しくバツゲーム受けよ…。



心理ゲームでは勝てないので両手を挙げて降伏した。



それから当分は鈴音ちゃんの話を聞いたり酒を飲んでから風呂に入ることにした。



身体を洗ってからのんびりと湯船に使っていると脱衣所に人影があった。



「怜次か?なんか、あった?」



相手はずっと黙り通しで、突然しゃがんだらしく影が小さくなった。



ん〜怜次にしては小さいし、もしかして、鈴音ちゃん?



とりあえず黙っていても気まずいだけなので聞いてみることにした。



「もしかして鈴音ちゃんかな?何か用があったんじゃないの?」



影が一瞬揺らいでそのまま風呂場に声が響いた。



「ごめんなさい、お兄ちゃんから着替えの服預かってきたの…。



…それとお兄ちゃんが今日は客間じゃなくておにいちゃんの部屋に来てって言ってたから伝言を…。」



「そっか。ありがとう。服はいつものところにおいておいたらいいから。

使わせちゃってごめんね。」



毎回の事ながらなんだか悪い気がして謝ると『私がしたいだけですから。』と上擦った声が聞こえた。



ダウト、それ。



負けた悔しさを紛らわせる為に一言心の中で言うと鈴音ちゃんは消えていた。



でも、怜次が部屋で待ってるって言ってたし、早いとこ身体洗いなおして出るか。



小うるさい策士が待っているであろう部屋に赴くため、とりあえず身体を拭くことにした。



「怜次、入るぞ〜〜。」



一応ノックをしてから中に入ると部屋は電気が付けられておらず真っ暗だった。



「なんだよ、電気もつけないで。悪いものでも食ったのか?」



いつもなら俺の軽口に付き合ってくれるのに今日はそれが無かった。



もしかして、何か悪いことでもあった、とか?



一瞬いやな想像が身体を駆け抜けた。



「実はな、鈴音がストーカーに合っているらしいんだ。」



へ?いきなりすぎて話が読めないんだけど?



言葉の意味を思い出してみると俺のリアクションは予想通りだったらしく『だから、ストーカーだよ。』と言いなおされてから状況を説明してくれた。



話は一週間ほど前に遡るらしいが鈴音ちゃんが怪我をしている男にハンカチを渡した。



お礼がしたいので名前を教えて欲しいと言われて迷ったけれどそいつの熱意に負けて教えてしまった。



次の日にその人が現れてハンカチと犬のヌイグルミをくれた。



その日の晩から鈴音ちゃんのケータイにイタズラ電話や花束と手紙が毎日届けられて今日までずっと続いているらしい。



疲れたように一度溜め息を吐いてから、一口チューハイを飲んでこっちを向いた。



「確かに鈴音ちゃん可愛くて優しいけどそんなこと実際にするやつっているんだな。」



それにしてもどうするかな〜。



助けてあげたいのは当然だけど情報が少なすぎるなぁ〜。



じっと対策を考えていると怜次が口を開いた。



「それでね、修介にも助けて欲しいんだ。お願いできないかな?」



申し訳なさそうに上目遣いで見てくる。



う〜〜ん。やっぱりどう見ても女の子にしか見えないよな〜。



「それはいいけど具体的には俺は何をしたらいいわけ?」


「ありがとう。えっととりあえず明日鈴音を送り迎えして放課後にでもデートしてもらえないかな?」



「いや、別に送り迎えはいいけどデートはなんで?てかボディーガードならお前でも良くないか?」



怜次が何をしたいのか良く分からないな。



俺もテーブルに置かれていた缶チューハイを手にとってそれを飲み込んだ。



そんな俺の姿を見て怜次がじっと見つめてくる。



「簡単に言うと鈴音の彼氏になって欲しいんだ。」



もちろん、偽者だけどね、と続けていったけど意味がサッパリ分からない。



俺が鈴音ちゃんの彼氏?それも偽者?何がしたいんだ?



頭一杯にクエッションマークを浮かばせている俺に説明してくれた。



「つまり、鈴音に彼氏ができたと思わせてあいつのペースを崩したいんだ。



ペースが崩れれば隙が出来るからそこに付け込んでストーキングできないくらいに傷み着けるから。」



歪んだ笑顔で笑ったあとに『でも。』と続けた。



「もし、そいつが逆上して修介に襲い掛かってこないとも限らない。だからはっきり言ってかなり、危険なんだ。」



後半は聞き取りにくかったけど鈴音ちゃんを守りたいっていう気持ちと俺が傷付くかもしれないという不安の間に葛藤しているんだと思う。



だから。



「いいよ。俺がその役目受けてやるよ。

詳しい話はまた明日起きてからしようぜ。明日は学校休んでやるから。」



怜次から安堵も息が漏れるのが聞こえた。



それから軽く雑談してから布団に入った。



そして、考える。



怜次が俺に頼むのも分かる。



怜次自身兄弟だってことを知られているから都合が悪い。



あと、怜次の友達の中で仲がいいのは俺と浩介くらい。



浩介も俺もケンカには慣れているけど浩介は野球部だから分が悪い。



その点俺は何もしていないし、空手だって習ってたから多少は安心できるだろうし。



俺は二段だから多少ハンデがあったとしても過剰防衛にさえならなければ大丈夫だ。



きっと上手くいく。



昔から俺と怜次の悪戯は成功した数の方が圧倒的に多い。



だから、明日の為にとりあえずねよっと。



そう思った矢先に俺の意識はたちまち睡魔に襲われてしまった。





―――深夜―――



「んあぁ〜〜。小腹が空いた…適当につまみでも貰うかな?」



のそのそと布団から出た。ベッドを見ても怜次の姿は無かった。



ん?怜次の奴、トイレにでも行ったのか?なら一言言ってから摘むか。



ドアを開けて一階に下りてブランデーとソーダ、ナッツの缶詰を持ってテーブルに座った。



それにしてもストーカーなんて本当にいるんだな。



推理小説か恋愛小説の中だけの事だと持っていたのに…。



でもどうする?



小説みたいに犯人が特定されているわけでもないし…。



けど早いうちに片付けないと鈴音ちゃんの身に危険が及ぶ。



明日、と言ってももう今日か。



とにかく鈴音ちゃんが学校にいるあいだに防犯ブザーでも買って帰りに渡すかな。



明日の予定をある程度決め終わったのでグラスに口を付ける。



一度溜め息を吐いてからナッツをかじる。



瀬尾さんも今頃は寝てるのかな。



最近の俺は俺らしくないと思う。



何かと暇があれば瀬尾さんのことを考える。



瀬尾さんを見かけてから一週間経ったのにそれは変わらない。



むしろ段々と瀬尾さんについて考える時間が増えた。



嫌なはずの浩介の朝練にも付き合うようになった。



そのおかげで何度か姿を見ることも出来た。



でも視線は俺じゃなくて浩介に向いてるんだよな。



暗くなりかけていた部屋に足音が聞こえてきた。飲んでいたもの全て片付けてキッチンを出た。



「はぁ。俺ってこんな性格じゃなかったのにな…。」



最後に溜め息を吐いてから階段を昇った。



怜次の部屋に手をかけたときに鈴音ちゃんの部屋のドアが少し開いているのが眼に入った。



「少しくらい覗いてもいいよな。ちょっと気になったくらいだから、うん。



開いていたのが悪いんだ。…鈴音ちゃんごめんな。」



言い訳してからそっと部屋の中を覗き込んだ。



暗くて良く見えないな…。影が二つあるから怜次と鈴音ちゃんか?



兄弟だから俺が居たら話しづらいことの一つや二つあるよな。



ドアから身を離そうとしたとき影が一つ、近付いていくのが見えた。



今のはどっちだ。怜次なのか?鈴音ちゃんなのか?でもなぜ?



今起きたことを考え直しているとがたっと中から物音がした。



急いで身を翻して怜次の部屋に戻った。



布団を頭から被って眼を瞑る。それでもさっき見た光景がリフレインされていく。



……近親相姦。



頭の中から一つの言葉が出てきた。



違う!!



額にキスしていただけかもしれない!




鈴音ちゃんは、怜次はそんな奴じゃない!



そんなことを考えているうちに俺は眠りに落とされていた。







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