表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

1st contact

―――朝―――



ケータイの目覚まし時計がけたたましく枕元で鳴り響く。



うるさいわ!こっちはまだ寝足りないんだよ、チクショウ!



アラーム音として設定したロック調の邦楽を切って寝返りを打つ。






「……ちゃん・・・うちゃん起きて!修ちゃん!」



誰かが俺の名前をしつこく呼び続ける。



もう一度寝返りを打とうとするとザバッと布団を取り上げられた。



「うるさいな〜〜〜。もうちょっと寝かせてくれよ〜〜〜。こっちは昨日飲み会で飲みすぎて頭が痛い

んだからさぁ〜〜〜〜。」



「そんなこと言って!!今日は浩介君と約束があるから早く起こすように言ったのは修ちゃんでしょ!

早くしないと約束に遅れるわよ!」



………浩介と、やく…そく?



「今何時!」



丸めていた身体を飛び起こしてケータイの画面を開くと八時三七分だった。



んぎゃ!ヤバイ!遅刻する!



いそいそと着替えを始める俺を見てお袋が溜め息を吐きながら部屋から出て行った。



普通なら悪口の一つでも言ってやるが今日は浩介と約束しているのでそれも飲み込んでズボンに足を通す。



タンクトップを脱ぎ捨ててポロシャツ片手に洗面所に向かう。



顔を洗い終えてリビングに行くとテーブルの上にはクロワッサン、スクランブルエッグ、サラダ、コーヒーの朝食が俺の席に置かれていた。



俺はテレビの政治家の汚職問題を横目にクロワッサンにイチゴジャムを塗ってかじる。



香ばしくておいしい。やっぱりパンは焼いた方がおいしいな。


うん。



そしてクロワッサンを食べながらテレビを見ているのが俺、長谷川(はせがわ) 修介しゅうすけ



「今日は何時ごろに帰ってくるの?お母さん今日は鈴木さんと一緒にミュージカルに行ってくることになってるから夕飯はテーブルの上においておくわね。」



お袋にそう言われて今日の予定を考えてみる。



今日は二時間目と三時間目、五時間目の3コマだったよな…。



「…あぁ、今日は夕飯作らなくてもいいわ。夕方からいつもの三人で合コンするって浩介が言ってたから。それとごちそうさん。」



最後のハムを食べてカバンに教材が入ってることを確認して玄関に向かう。



「じゃあ、行ってきま〜〜す。」



後ろからお袋の声が聞こえた。



時計を見ると九時三分前。



よし、今からだと余裕で間に合うな。



時間に余裕があることを確認した俺は小走りをやめて普通のペースで歩き出した。



「おぉ〜〜。今日はちゃんと時間通りに来たな。残念だ。」



はにかんだ笑顔で俺よりも少し大きめの男、浩介が近付いてきた。



「お前うるさいから少し黙れ!TPOをわきまえろ、野球バカめ…。」



駅のホームと言うことも考えずに大声を出す馬鹿に軽く苛立ちを覚えながらもベンチに座った。



この少し頭のネジがずれているような男が今日俺をここに呼び出した張本人、西山(にしやま) (こう)(すけ)



俺と浩介の関係と言えば俗に言う幼馴染で腐れ縁である。



特徴と言えば百八十二・五センチといっていた長身とスポーツ選手を思わす筋肉質の体格。



実際一昨年ドラフトで指名されたが大学生を経てからと言う理由でそれを蹴った。



スポーツ推薦で入ったにも拘らず教育学部を選んだ物好き。



顔はそこそこ良し。



「そうそう今日の合コンだけどな、結構可愛い子がそろってるって言ってたぞ。」



笑顔のまま顔をこちらに向けてくる。



「どうせ、適度に遊んだら彼女も作らないでそのまま捨てるくせに……。」



笑顔のまま『まぁな。』と言ってケータイを弄りだす。



コイツの女探しは今に始まったことではないので溜め息を吐いてからIポットをカバンにしまいこむ。



「それよりも今日の用事って何だよ。前みたいにランニングに付き合えとか言ったらしばきあげるぞ。」



去年付き合えと言われてオーケーしたら二十キロほど走らされた。



あぁ!!今思い出しても腹立つなぁ!殴ってやろか?コイツ。



握りこぶしを作っていると急に顔をこっちに近付けて来た。



「……ちっ。つうか近い、近い。顔が!」



異常に近付いてきた浩介をシッシッと手で払いのけた。



「そうそう、今日はお前、授業二時間目からだったよな。だから俺の相手になってくれよ。」



両手を擦り合わせて頭を下げている浩介を見て悩む。



んん〜〜〜。



いくらバッティングピッチャーだからってポコスカ打たれるのもプライドに障るしなぁ〜〜〜。



悩んでいる俺を見かねて声をかけてくる。



「今日の合コンの費用お前の分も持ってやるから、な。」



どうする俺〜〜〜。



「分かった。今日の昼飯代も俺が持つからそれでいいだろ。」



「おっけ〜〜。でも俺にも打たせろよ。最近ストレス溜まってるから〜〜。」



笑顔になった浩介をほっておいてケータイを弄る。





「軽く肩慣らししておけよ。ってお前には言わなくても十分分かってるか。」



素振りをしている浩介を見てから肩を回して息を整える。



投げるなんて本当に久し振りだな…。落ちてなかったらしいけどな…。



一球、一球軽く投げていくと肩が暖まってくる。



二十球ほど投げ込んだら浩介が近付いてきた。



「うん、やっぱり速いな。お前の球。お前さ、クルーザーとしてうちに入れよ。な?」



「ま、気が向いたらな。それよりも早く始めようぜ。」



浩介はいつも俺が投げる姿を見ては同じ言葉を口にする。



今からだと百二十球弱かな。久し振りに本気で投げてみるか。



俺の本気で投げた球は子気味の良い金属音と共にバックスクリーンへと消えていった。






あぁ〜〜ムカつく!!少しは手加減しろよ!!



頭の残念な教授の話を適当に受け流しておいて今朝ボロクソにされたことを思い出してしまった。



第一、俺の球じゃなくてもフリーバッティングは出来るだろうに……。



それに結局時間オーバーして俺はフリーバッティングできなかったし!!



怒りを指先に込めるとシャーペンの先が折れてしまった。



隣の女の子が『きゃ!』と悲鳴を上げた。



「驚かせてごめんな、ははははは〜〜。」



苦笑いを返して新しいペンを出そうとしたらチャイムが鳴った…。



なんだよ、人がせっかく新しいペンを出したっていうのに………。



シクシク……



行く先の無い悲しみに暮れながら片づけを始めた俺だった…。



シクシク…






「修介どうしたの?ものすごくやつれた顔してるよ?



「……怜次か?とてつもない葛藤と戦ってたんだよ…。褒めてくれ…。」



怜次って言うのは本名 栗原(くりはら) (れい)()と言って小学校からの友達でなぜか小・中・

高・大学生までずっと同じと言う浩介以上の腐れ縁。



身長は俺たち3人の仲で一番低くて百七十二センチ。髪は群青色で全体的に華奢だ。



女の子みたいな顔付きで去年の女装大会で堂々の一位を取った輝かしい実績もある。



ちなみに俺たち三人の中で唯一の彼女持ち。



まぁ、彼女と一緒に歩いていても女の子二人にしか見えないけど…。



「お疲れ様。浩介はまだ教授に捕まってて、しばらく来ないから先に食べておこうか。」



そう言って俺の正面に座った。



メニューを取ってランチの欄を見ている。



それにつられて俺もメニューを見渡す。



さぁ〜て。なに頼もうかな〜〜。



俺的にはカルボナーラもいいしボンゴレも捨てがたいし、迷うな〜〜〜。



「ねぇ〜そんなに迷うなら修介がカルボナーラを注文して僕がボンゴレを頼めばいいんじゃないの?」



おぉ!さすが怜次様!



「いや…。そんなことで様付けされても嬉しくないよ。はやく注文しようよ。僕もおなか空いた。」



「すみません。カルボナーラとムール貝のボンゴレ、それと生ハムのピザを一つ、ジンジャーエール、コーラをお願いします。」



俺がふらふら歩いていた店員に注文をとってもらいそのままテーブルに前倒れになった。



あぁ、そう言えばまだ今日の夜の話を聞いてなかったな。



「なぁ〜今日の合コンお前も来んのか?」



「浩介に誘われたからね、行くよ。僕が行くの、いやだった?」



いや、別に嫌じゃないんだけどな。



「アカネの奴、また騒ぎ立てるんじゃないかと思ってな…。」



そう言いながら俺共々先日あった合コン茜事件について思い出していた。



浩介が合コンに怜次を誘ったことを言わないで行ったのでそれを何処で知ったかアカネが合コンに乱入してきて抑えるのだけで二時間を要した。



それを怜次も思い出したらしく苦笑いで『大丈夫。』と笑った。



「でもさぁ〜浩介の奴、いい加減ちゃんとした彼女作れよな。俺も他人の事言えないけど。」



「そうだね〜。でも浩介も色々とあるんだと思うよ、多分?」



そうか〜?あいつ、中学までは彼女居たよな?高校からは居ないと思う、多分。



う〜〜〜ん。確か言ったら悪いけど、平々凡々って感じだったかな。



浩介ならもっと可愛いとか綺麗な彼女が出来ると思ったんだけどなぁ。



不思議に思っているとまた怜次が苦笑いして、『でも…』と続ける。



「僕はそうは思わないな。浩介にはあんな感じの子がしっくり来ると思うな。」



違うと言いたかったけれど店員がパスタと飲み物を持ってきたのでそのまま飲み込んだ。



まぁ、もう付き合ってないけど悪口を言うのも嫌なのであとは他愛も無い話しをしていた。



「…お前らさぁ、教授に捕まった友達を待ってやろうという優しさは持ってないのかよ。」



「うるさい。俺はお前の自主錬に付き合わされて腹が減ったんだよ。」



とりあえず一言言い返してからアツアツのピザをほお張る。



「俺も修介と同じものにしよっと。」



そう言って店員に注文をとると向き合ってきた。



顔が近いよ、顔が!




「それより聞いてくれよ〜。教授がさぁ……。」



浩介の愚痴が始まったので俺は食べることに専念する。



そろそろ疲れてきたらしくアイコンタクトを取ってきた。




(ねぇ、そろそろ僕もお昼食べたいんだけど……)



(もうちょっと待て。後ピザ一切れだから。それよりお前あんまりピザ食べてないみたいだけどい

る?)



(食べる。……よし、食べ終わったよね。交代。)



アイコンタクトが終わるとジンジャーを一口飲んでから溜め息を吐いて身体を浩介に向ける。



いやだなぁ〜〜。相手するの…。



「浩介、今日の合コンのメンツってどんな感じ?俺は隣の看護科の女の子としか聞いてないんだけど?」



聞いた途端に身体をこっちに向けて無邪気な(他人のことを考えていない)を向けてきた。



「聞いてくれよ!看護科ってだけでもポイント高いのに四人とも皆タイプが違うんだよ。えっとまず

な……。」



ちょっと待てよ。こら。



「三人じゃないとか聞いてないぞ!もう一人って誰だよ!」



俺の行ったことに驚いているのかキョトンとした顔の後に怪訝そうな顔をした。



「はぁ、お前な。彼女作る気があるならもう少し手を込めないと負け組になるぞ!」



なんで俺怒られてるんだよ、もう。



怜次の奴はパスタを食べながら幸せそうな顔をしているので応援には来れない…。



仕方ないな。聞き流すか。



そう判断するや否やイヤホンを片耳にさして音楽をかける。






―――五時間目終了―――



はぁ〜〜〜。疲れたぁ〜〜〜。



でもまだ今日は帰れないんだよなぁ〜〜。



いまだ身体に残る倦怠感を引き摺りながら俺と入れ代わりになった浩介たちの元に向かう。



ケータイが鳴ったので浩介かな?



そう思って開くと怜次からだった。



――Sub 早く来てね


  本文 今、浩介の練習見学させてもらってるから屋外の練習場に来て。


  浩介がシャワー浴びてから合コンに行くらしいから修介も浴びたら?


  今日の朝練付き合ってシャワー浴びる時間無かったんでしょ?



ケータイを閉じてから急いで二の腕や胸元の臭いを嗅いでみる。



んん〜〜〜。特に臭うとは思わないけど、もしかして俺今臭ってる?



そんなの嫌だ〜〜〜!!!速攻身体洗う!!



俺はカバンに参考書とかを全て詰め込んで教室から急いで出た。






―――屋外練習場―――



「お疲れ様です!!」



後輩の満田が声をかけてきたので手を軽く振って、足を止める。



そうだ、こいつに聞いてみよ!



「おい、黙って俺の匂い嗅いでみろ!」



「い、いやっすよ!俺そんな趣味ないですよ!」



俺だってそんな趣味ないから安心しやがれ!てか黙って嗅げよ!



俺が黙ったまま睨みつけると、『ううう、俺の尊厳がぁ〜。』とか嘆いていたけどムシ。



「別に何も臭いませんよ?もしかして加齢臭とか気に……イッタいですよ!冗談です冗談!」



涙目になって上目遣いで見るがヤロウの上目遣いに意味などないのでもう一発オマケ。



『じゃあな。』とだけ告げて浩介たちのところに行こうとすると満田に呼び止められた。



「センパイ!今度俺にも投げてくださいよ!俺もセンパイの球打ってみたいんです!」



却下する。だって浩介の相手だけで面倒くさいからな。



「浩介が許可したらいいぜ。それより浩介何処にいる?」



グラウンド、と答えたので礼を言ってから小走りでグラウンドを目指す。



何故俺がここにいても怒られないかと言うと俺がよく浩介の相手をしているから。



それを周りの部員が見て何故か俺イコール浩介の専属ピッチャーと言う不名誉極まりないあだ名をつけられてしまった。



そんなわけで俺は結構野球部では顔が広い。



たまに満田みたいに相手を頼まれるけど浩介の許可を取れと言えばしなくてもすむ。



無駄に校内二位の長さを誇っている廊下を抜けるとようやく外への出口が見えた。



ドアを開けると木製バットとボールのぶつかる音と少し熱気と湿り気を帯びた風が身体を包み込んだ。



二人とも俺には気付いていないらしくて浩介は木製バットでライト・センター・レフトの順に打ち分けている。



怜次はそれを見ている。



更に近付いていくといつもと違う風景があった。



女の子が一人、ポツンと立っていた。



浩介を見に来る女の子がよくいるのでそれは不思議じゃなかった。



不思議だったのは彼女の立っている位置だった。



普通、浩介を見に来る女の子はバッターボックスの後ろにあるネットにしがみつくようにしている。



それなのにその子はブルペン近くの観客席と練習場の瀬戸際で浩介を見据えていた。



足を止めて、その元に歩くと足が止まっていた。



「綺麗だ……。」



自然と言葉が漏れていた。



夕暮れに染まるグラウンドの隅で、浩介を見ている眼差しを放つ眼は栗色だった。

そよ風に遊ばれた髪を正している手はほっそりとして繊細だった。

そよ風に遊ばれた髪はそっと優しく色を抜いたよう柔らかな栗色だった。

そして、眼が重なった。

その子も気付いて慌てて眼を逸らした。

人に合わせたような大振りな歩幅が印象的だった。

それから俺は呼吸を忘れてしまった。






―――そして―――



「修介?何してるの、早くおいでよ!」



え?



怜次が呆れたように俺のことを見ていた。



そして今まで自分がその場所で立ち尽くしていたことに気が付いた。



「そう言えばさっきそこに瀬尾さんがいたね。」



「さっきの子瀬尾って言うのか?下の名前は?」



俺が急に声を出したことに怜次が驚いていたけどそんなことに形振り構っていられなかった。



「え?瀬尾せお 星夜あかりさんだよ。浅瀬の瀬に尻尾の尾、星空の星に聖夜の夜でアカリって読むんだってさ。確か学科は看護科だったよ…。でも修介が女の子のこと聞いてくるなんて珍しいね。」



確かに人に聞いたことは無かった。



でもそんなことよりも今日の合コンに来ていないか気になった。



来てたらいいな、瀬尾さん。なんてな。



「修介キモい…。シャワー浴びながらニヤつくとかいくら俺でも…引くぞ。」



浩介に引かれたけどそんなこと気にせず必死に身体を洗っていた。



出てからも浩介のロッカーに入れているお気に入りの香水を付けた。



「早く行くぞ!!」



急かす俺を不気味がっていたけどそんなこと気にせず電車に揺られていた。



「遅れてごめんね。コイツが気合入れすぎてさ!」



瀬尾さんがいない………。



四人とも瀬尾さんで無かったのでがっかりして席に座った。



浩介が無意味に盛り上げていたけど途中からは何をしていたかも分からなかった。




瀬尾さん………。



気が付くと授業が1時間目からあるわけでもないのに早起きしてしまった。



そしてもう一度布団にもぐってそのまま睡魔に身を任せた。



.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ